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第15話 幼女の帰還

 魔王城前の広場で、ニーズヘッグが本来の大きさに戻り、アスタロトに抱き抱えられた私が彼の背に乗る。

「ニーちゃん、とんで!」

 私がニーズヘッグに指示すると、彼は折っていた足を伸ばして立ち上がり、ゆっくりとその大きな翼を羽ばたかせる。

 バッサバッサとその翼が上下するたびに、私達を乗せたニーズヘッグの体がゆっくりと上昇していく。


 そして、城よりも高く上昇したところで、ニーズヘッグに事前に教えておいた通りの方向へと進み始めるのだった。


「流石に、大型の竜だと、速いわね」

 私を抱きしめているアスタロトが感嘆の声をあげる。

 アスタロトの美しい紫色の髪が風にたなびき、時々顔にかかるのを手で横にかき分けている。

「おおがたの、っていうと、ちっちゃいのなら、いりゅの?」

 アスタロトの言い方に、ちょっと、あれ? と思って聞いてみた。

「いるわよ〜! 飛竜っていう小型の竜が、私達の乗り物ね」

 うん? だったら、それを借りればよかったのかしら?

 そうすれば、大きな竜の姿で驚かすこともなかったのかも?


 やがて、地平線の端に、堅牢な城塞都市と、国の端を守るための長く強固な長い壁が見えてきた。

「あれ! あしょこよ!」

 私は、懐かしさに、思わず身を乗り出す。

 そんな私を微笑ましそうに見下ろしながら、身を乗り出そうとする私を抱く力を強めるアスタロト。


「とーさまも、にーさまたちも、げんきかしら!」

 懐かしい人たちの姿を思い浮かべながら、私は、その城が近づいてくるのを、胸に喜びと懐かしさに満たされながら、到着するのを、今か今かと待つ。


 そして、ようやく城の上空へ到着すると、地上から、わっと歓声が上がる。

「姫様、ご無事で!」

「なんと、あんな竜まで従えるとは、さすがは我らが姫だ!」

「リリス様、お帰りなさい!」

 みんなが、旅に出た私を覚えていて、そして、帰郷を歓迎してくれるのが嬉しくて、胸がいっぱいになった。


 ニーズヘッグは、城の屋上に着地する気らしい。

 警備兵達が、邪魔にならないように左右に散っていく。

 そして、ズシン、と着地すると、アスタロトは、私を抱き抱え、土産の荷物を手に持って、ニーズヘッグから飛び降りた。

 アスタロトが降りたのを見てとって、ニーズヘッグは小竜の姿になる。


 警備兵の一人が、私達のそばにやってくる。

「はるばるのお越し、歓迎いたします!」

「私は、魔王陛下の代理で挨拶に伺った、四天王の一人、アスタロトと申します。多少……、愛らしい姿には戻っておりますが、こちらの姫様の付き添いで参りました」

 アスタロトが、出迎えの挨拶をするが、兵士の耳にそれは無事に届いたかどうか怪しい。


「姫……、様? あれ? 確かにお小さい頃の姫様にそっくりだが……」

 アスタロトが抱き抱える『十五歳のはずの姫様』の私の姿に混乱している。

「ひとまず、話をすると長くなりますので、姫様のご家族方にお取り次ぎを願えないでしょうか?」

 その言葉に、警備兵ははっと気を取り直して、手のひらを額に添える。

「はっ! 失礼しました! 急ぎ、辺境伯閣下御一家にご報告します」

 そんな警備兵の横から、若い侍女がやってくる。

「客間にご案内いたしますわ。ささ、こちらへ。お荷物もお預かりいたします」

 彼女は、アスタロトから荷物を受け取り、私達を階下の客間へと案内してくれたのだった。


 客間のソファに、私とアスタロト、そして小竜の姿のニーズヘッグが腰掛けて待つことしばし。

「リリス! リリス!」

 どかどかと男性複数人の荒々しい足音がして、ドア向こうからお父様と思しき声が私の名を呼ぶ。

「きたみたい」

 その足音が、扉の真裏まで到着すると、バアン! と荒々しく扉が開かれた。

 来訪者は三人。お父様と二人のお兄様。

「リリスはどこだ!」

 お父様が部屋の中を見回して探す。


「あい、ここでしゅ」

 私はソファから、ぴょんと飛び降りて、トコトコと、お父様の足元まで歩いていって、足元から、お父様の顔を見上げる。


 ーーく、首が痛い。


 すると、三人の目が一斉に上から下に立っている私に注がれる。

「「「リリス?」」」

 三人が一斉に首を捻りながら、私の名を呼ぶ。

「小さい……。だが、子供の頃のリリスには酷似している……」

 アベルお兄様が、しゃがみ込んできて、じっと私を見る。

「でも、当時よりもさらに愛らしくなっていないか?」

 同じくしゃがみ込んだカインお兄様に、頬を指先でぷにっとされる。

 お父様もしゃがみ込んできて、私の両脇に腕を添えて抱き上げながら、立ち上がる。

「確かに、子供の頃のリリスにそっくりだ。だが、なぜ……?」


 そこに、ちょうどいいタイミングでアスタロトが口を挟んでくれた。

「そうなるまでには、色々と経緯がありまして。私は魔王陛下の四天王、アスタロトと申します。この私から、説明をさせていただけませんか?」

 三人の目が、今度はアスタロトに注がれる。


 アスタロトは、赤く艶やかな唇が印象的な女性だ。髪は紫。目は扇情的な赤。もちろんその肢体も女性として完璧に作られた姿かと思うほど。着ている黒の豪奢なドレスは、出るところはハッキリ出て、引っ込むところは引っ込んでいることを強調している。

 そして、その紫の髪から、魔族の象徴たる二本のヤギのツノが生えている。


「これはこれは、わざわざ遠路はるばるお越しいただき、恐縮です。立ち話もなんですから、腰を下ろして、ゆっくりお話を伺いましょう」

 お父様がそう言って、ようやく話し合いが始まろうとしていた。

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