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5冊目〜呪読師への来客〜

 それから三か月が経った。

 護衛対象の少女はいくら話しかけても相変わらず無愛想、無表情、訪問者の全くない書庫は毎日毎日ほとんど同じことの繰り返しで、フレドリックは暇つぶしにと同僚から引き受けた書類仕事までもを終えてしまった。


「さて…今日からどう過ごすかな……」


 いつものように淡々とした朝の挨拶が終わり、仕事終わりまでの暇な時間をどう過ごそうかと一人思案していると、


「すいません」

「うぉっ」


 ついさっき、本の森 ――もう本棚の列のことをそう呼ぶことにした―― に帰ったはずの呪読師と名乗る少女が背後に立っていた。


「……そんなに驚くことですか?」

「い、いえ。失礼しました。何でしょうか」


 一つ息をつき、彼女はいつもの無表情に切り替える。

 切り替えるといっても表情の差はごく僅かで、その仕草でようやくほんのわずかに表情を曇らせていたことに気がついた程だった。


「先ほど、お伝えし忘れていたことがあったので。今日の午後、文官の方が数名いらっしゃるそうなので護衛役として後ろに控えておいてください。」

「はい、了解しました。」

「……お手数をおかけします」

「え?」


 驚くことに彼女は丁寧に頭を下げた。

 それは長年護衛役が付いているという人物がするには少し不自然で。


「いえ、では私はこれで」

「あ、はい」


 意外な言動に()を作ることも忘れて本棚の奥に消えていく小さな後ろ姿を見送ることしかできなかった。



 ###


 その日の午後。


「失礼する。呪読師はおられるか」

「お待ちしておりました。どうぞこちらへご用件をお伺いします」


 無表情の少女に案内された応接用の椅子に、文官とその補佐であろう二人の男は腰を下ろし、同じように向かいの椅子に座る少女とその後ろに控えるフレドリックをどこか観察するように眺めた。

 騎士団の制服を着ているためか、フレドリックよりはやはり彼女への視線に何やら困惑のようなものを感じるような気がする。

 彼女も来客前のつい先ほど、ふらりとあの物置きだという立ち入り禁止の部屋に入った後、紋章の入ったフード付きのローブを纏っていたので、普段着ている地味な色の仕着せのエプロンワンピースよりはまだ呪読師っぽく見えるのだが。


「依頼の前に少し。今日呪読師長はいらっしゃらないのかね?」


 やはり、目の前の少女は彼らには呪読師長には見えなかったらしい。

 ーーーこの年と見た目じゃ、そりゃそうなるよな。こいつも大変だな……


文官たちの当たり前の勘違いに、ほんの少しの少女に同情していると。


「申し訳ございません。本日、呪読師長は遠方へ出張中の為不在です」



「は?」




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