1 枯れ落ちた薔薇の花びらのような
中学生とは、残酷な生き物である。
おれは、目の前で繰り広げられている光景を見やって、一人そう思った。
「死ーね、死ーね、死ーね―――――」
狭苦しい一年B組の教室に、合唱のような声が響いていた。その場には全員が一体となった奇妙な高揚感が満ち満ちている。
自分もこの一員なのか、と思い、おれはうんざりする一方で、安心している自分にも気が付いていた。いつものように。
「なあ、」
と誰に言うつもりもなくおれは呟いた。
「正義の味方なんて、やっぱりいないんだよな」
言った後で、虚しくなる。そんなことくらい、分かっていた。だいたい、このいじめが止められたところで、おれはどうすれば。
「やめて、お願い、やめてよ……」
神崎ゆかりのか細い声は、比較的遠くにいるおれの耳にもはっきりと聞こえた。制服のあちこちがほつれ、破れ、血がにじんだ無残な姿で、神崎はゆらりと立ち上がる。髪が乱れ、どこか亡霊のような、枯れ落ちた薔薇の花びらのような立ち姿。
ふと、目が合う。その途端、おれは反射的に顔を横にそむけていた。
生気の宿らない、がらんどうの瞳。これを、虚無というのだろうか。
「おいおい、何逃げてんだよッ!」
一人の男子に神崎は転ばされ、頭から床に崩れ落ちた。
「お願い、お願いだから……」
神崎の言葉は続かなかった。少女の脱力した体は、男子に好きなように蹴られ、もてあそばれていた。