第8章 誰も知らなかった真実
プロジェクトの発端となったのは60年前当時母は父との結婚を両親から反対されていて、人目を避け2人だけで会っている時母が冗談交じりに笑いながら、
「もしも言葉だけで何でも出来ればお父さまは何も言えなくなるわね」
と言ったのがきっかけらしくそれを本心と勘違いした父は今の街にプロジェクト用の建物を作り、その後夜中に駆け落ちするとすぐに結婚してまもなく忠人が生まれると、何かに取り憑かれたかのようにプロジェクトに没頭しそれから忠人が成長すると研究の手伝いを強要し始め最初は嫌がっていた彼も次第に取り憑かれていき、母が病気で亡くなった時ですら研究に明け暮れ見かねた親戚が葬儀をするが2人は出席せず、忠人は研究の傍ら大学に行っていてそこで出逢った女性と結婚して1人目が誕生するがそれでも研究室から出てこない彼を始めは心配した妻も、次第に気味が悪くなったのか疎遠になって行き2人目が生まれた1週間後2人の子供を置いて出て行ったのだが、それでも研究をやめず桔平が6歳の頃プロジェクトの最終形態である生と死を操れる言霊使いを創る事に成功するが、それと同時に幼い朝姫は本当の家族を失い研究員だった若藤夫妻の元へ言霊の力が安定するまでの養子となり、彼女が10歳の時養父母がマフィアによって殺害されると再び研究所へ戻され一部の記憶を消し一人暮らしをさせたと自供し絶句している警察官に忠人が微笑みながら、
「これが言霊プロジェクトの全てです、合計で千人近い人が死んでいったが我々の大義のためと言えば沢山の親が子供を口減らしのために売ってくれた、彼等は実の子供がどうなろうが関係ないと思っているはずだ、私と同じ様に……」
そう言っていた事を警察から聞いた桔平は握りこぶしで机を叩くと、
「人を……子供の命を何だと思っているんだ……! 人のする事じゃない‼」
と大声で言うと震えていたので横に座っていた幸仁が肩に手を置いて落ち着かせると桔平も頷き冷静な口調で、
「それで……崩れた建物から朝姫ちゃんは見つかったんですか?」
そう尋ねると警察官は首を横に振って申し訳なさそうに、
「警察犬や100人態勢で探しているが……まだ……」
と言われ2人は肩を落として礼を言うと建物から出てカフェに戻るとマスターに報告し彼も落ち込んだように俯いて、
「そうですか、私の千里眼が使えないとなると、瓦礫から出て違う場所にいるかもしくは……」
そこまで言うと黙るので静寂に包まれたのだが桔平が空元気を出して、
「だ、大丈夫だよ! 朝姫ちゃんはきっと生きてる、僕達が信じないで誰が信じるんだよ?」
と言いながら涙を流し手で拭っていたので幸仁も涙を流しながら、
「そうだよな……俺達は信じよう! 朝姫ちゃんが戻ってくる事を‼」
そう言い二人で疲れるまで泣き続け寝てしまったのでマスターは微笑みながら息をつき、隣の部屋へ行き小さな声で、
『彼の者を映せ』
と朝姫を思い浮かべながら言霊を使うと今までは真っ黒だった視界が、今回は知らない部屋と人物が見えさらにその人物は彼女に優しく笑いかけていたので、驚いているとその風景が消えてしまい一瞬言葉を失ったマスターだったが次に喜びが広がり、急いで2人を起こして伝えるとまた涙を流すのでマスターは背中をさすり落ち着かせてから、部屋へ戻るよう言って幸仁と桔平が入っていくと彼は次の日の支度をするためカウンターへ戻り鼻歌まじりで進めると素早く終わらせて部屋へ戻り眠って翌日の朝幸仁と桔平は寝坊してしまい慌てて大学へ行くとマスターはそれを呆然と見送ってからため息をつき今日出す予定のコーヒー豆を焙煎していると客が来たので、
「いらっしゃいませ」
そう笑顔で言って迎えると注文を取って行った。
そしてギリギリの時間に教室に着いた2人は席につくと隣に座っていた男性が、
「母さんがこんなに遅れるなんて珍しい……目元も腫れてるし、彼女にフラれたのか?」
と悪戯っぽく笑いながら言われた幸仁は顔を背けながら、
「そんなんじゃねーよ、もっといい事で泣いたんだ」
そう呟いていると授業が始まったので受けていき全て終わるとカフェへ戻るため速足で歩いていると朝姫に似た女の子が通ったので驚いて立ち止まり振り返るが人込みに紛れて見えなくなったので落ち込んでため息をつき再び歩き始めカフェへ行くと店の制服に着替えマスターと代わって注文を取り夜になって店を閉じた後夕方に朝姫に似た子とすれ違った事を話すとマスターは少し考えてから、
「おそらく朝姫さんが生きている事は分かったのですが……なぜ幸仁君に気付かずさらにこの店に返ってこないのでしょうか……? 何か理由があるのかもしれませんからもう少し様子を見てみましょう、それに幸仁君が言っていた女の子にまた会えるかも知れないですしね」
と微笑んで言うと幸仁は頷いて部屋へ戻ると荷物を置いて共同キッチンへ行き夕食のチャーハンを作り以前美味しいと言って微笑んでくれた朝姫の顔を想い出しながら食べていると突然ドアが開き桔平が入って来ると大声で、
「朝姫ちゃんに似た子を見たって本当⁈ 幸ちゃん‼」
そう言ので幸仁は喉を詰まらせ胸を何度が叩いてお茶で流し込むと桔平に赤い顔で、
「ノックをしてから入って来いよ‼ 死ぬところだっただろ!?」
と叱りつけると桔平は小さな声で、
「わ、わりぃ」
そう謝ってから思い出したように前のめりになって、
「で、その子は本当に朝姫ちゃんに似ていたのか?」
と尋ねると幸仁は腕を組んで考え込みながら、
「うん、でも……俺の横を通っても何も言わないで行ってしまったし……人違いかもしれない」
そう最後は落ち込んで肩を落としながら言うと桔平は俯いたがすぐに顔を上げ、
「でもきっと朝姫ちゃんは帰って来るよ! マスターも言ってたけど今は何か理由があるかも知れないし、ゆっくり待ってあげよう」
とガッツポーズをしながら言った後微笑むと幸仁も、
「そうだな、朝姫ちゃんを信じて待つか!」
そう笑顔で言ってから幸仁は桔平の分のチャーハンを作り食べると桔平を見送ってから部屋へ戻り、シャワーを浴びて課題のレポートを済ませるとベッドに入り眠った。
そして次の日も幸仁は大学へ行きその帰り道スーパーへ寄り共同キッチンで使う調味料を買い足してカフェに戻る途中、立ち止まって昨日の事を思い出してまた会えないかと考えていたが、同じようにはならずため息をついて歩き出そうとした時目の前にいた女性が彼の後ろに手を振り大きな声で、
「朝姫ちゃん、こっちよ」
と言って後ろにいた少女が効きなれた声で返事をして女性に駆け寄って手を繋いだ彼女は、紛れもなく行方不明だった朝姫だったので幸仁は驚きでスーパーの袋を落とすと、
「朝姫ちゃん?」
そう呟くと朝姫はその声に反応して振り向くと幸仁に、
「お兄さん、私の事……知ってるの?」
と尋ねてきたのでさらに困惑していると一緒にいた女性が機転を利かせて、
「突然ごめんなさいね、詳しい事を説明したいのでどこかお店に入りましょう」
そう言われ幸仁はカフェまで案内しさらに桔平に連絡すると数分で駆けつけた彼は、幸仁から先ほどの事を説明してイスに座らせるとマスターがコーヒーを3つとオレンジジュースを煎れテーブルに置くと女性が、
「この子に関係する方は集まりましたか?」
と尋ねると幸仁が真剣な面持ちで頷いたので彼女は朝姫を一度見てから前を向き、
「私は夫と2人で隣町に暮らしているのですが、3週間ほど前に近くの公園のベンチに所々破れた服を着たこの子が座っていたので、何か事件に巻き込まれてしまったのかと思い話しかけたのですが自分の名前以外何も覚えていない状態だったので、一応警察と相談して私達が保護という形で家に連れて帰ったのですが、最初の内はずっと無表情で何も口しませんでした……でもミートスパゲティだけは食べてくれたので初めの5日間は食卓にそれしか出ませんでした、それから少しずつ記憶が戻って行って数日前にこの街が気になると言っていたので、おとといから買い物のついでに2人で来ていたのですが……こんなにも早く知っている人が見つかってよかったわね、朝姫ちゃん」
そう涙ぐんで言うと朝姫も嬉しそうに頷くと女性はハンカチで目元を拭ってから幸仁達に、
「それにしても……どうしてこの子はあのような姿で隣町にいたのでしょうか?」
と尋ねられたので3人は頷き合って幸仁が朝姫の事や1か月前に起きた事件の事を説明すると女性は涙を流しながら、
「じゃあ朝姫ちゃんがこの間ニュースで言っていた行方不明の子なんですね……知らなかったとはいえ何も連絡をせずすみませんでした……」
そう頭を下げると朝姫の顔を見ながら優しい笑顔で、
「あなたを知っている人が見つかったけど……私と帰る? それとも、ここに残る? これは朝姫ちゃんが決めていいのよ」
と尋ねると朝姫は困惑して俯くが数分程考えて小さな声で、
「こ、ここに……残る……今まで、ありがとうございました、絶対に……忘れません」
そう言うと頭を下げたので女性は涙目で朝姫を抱きしめると頭を撫で席を立ち店を出て行きその後ろ姿を朝姫は涙を流しながら見送っていたが数歩前に出て大きな声で、
「ありがとう……お母さん! 本当に、ありがとう……!」
と言って手を振ると女性はハンカチで目元を拭きながら手を振り返し朝姫は彼女が見えなくなるまで手を振り続け4人だけになると朝姫は振り返り、
「よ、よろしく……おねがい、します」
そう頭を下げ幸仁に案内され再び自分の部屋と戻った。