第2章 初登校
朝姫は初めての高校へ行くため2週間前から支度の確認や挨拶の練習を繰り返していて、ついに登校する日になり幸仁に付き添われて学校へ行き別れると、緊張しながら教室に足を踏み入れると担任教師の横に立ち先生が黒板に名前を書き終わると、クラスメイト達をぐるりと見まわしてから笑顔で一礼すると、
「は、はじめまして、若藤 朝姫です! よろしくお願いします!!」
と挨拶をするとクラスメイト達は拍手をして迎え入れてくれたので、ほっとして微笑むと先生に指定された席に座ると一限目の授業を受け、二限目の移動教室になると朝姫は5人ほどのクラスメイトと話をしながら廊下を歩いていると、家族の話になって朝姫の家族の事も尋ねられたので幸仁と桔平と共に言霊使いだとバレないように作った過去の話を思い返し、
「私は最近まで両親からレグネクト? を受けていて……今住んでいる所のお兄さんに助けてもらうまで両親の顔を見ていないから、あまり分からないの……ごめんなさい」
そう言って俯くとクラスメイトが落ち込んで謝るので朝姫は慌てながら、
「で、でも今はとても楽しいの! 幸仁さんや桔平さんがいるし、携帯電話も買ってくれたの!!」
と嬉しそうに言いガラケーを見せると彼等は目に涙を溜めていてその中の女子生徒1人が、
「け、健気ねぇ……可愛すぎる……!」
そう言いながらハグをしてきたので朝姫は困惑していると違う生徒が笑いながら、
「早く行かないと遅れるよ」
と教えてくれたので急いで向かい授業を受けるとその後も順調に過ぎ全ての教科が終わって下校時間になると朝姫は幸仁の迎えを待って携帯を見つめていると鳴ったので出ると、
「朝姫ちゃん? 幸仁だけど、校門前についたから帰ろうか」
そう言われ返事をすると急いでカバンを掴み下駄箱まで速足で行くと、靴を履き替え校門まで走って行くと幸仁が女の子に囲まれていたので呆然としていると、彼が朝姫に気付き手を振るので女の子達は一斉に彼女を睨みつけるのだが、幸仁は全く気付かずに近づいて来たのでドン引きしていると彼は小首を傾げながら、
「どうしたの?」
と尋ねられたので朝姫は返事を濁してから、
「それより早く帰らないとマスターと桔平さんが心配します」
そう言い腕を引き歩き出すと女子生徒が悲鳴に近い歓声を上げていて、それに混じって男子生徒が苦悶のような声を上げていたので不思議に思っていると幸仁が、
「初登校なのにすごい人気だね」
と笑顔で言われたので朝姫はやっと桔平が言っていた幸仁の無自覚人気の真意を悟り、
「いや、あの人はみんな幸仁さんの……」
「いや男子はどう考えても朝姫ちゃんだよ」
そう桔平が突然割って入って来たので朝姫は心底驚いたように後ずさると、
「き、桔平さんいつの間に⁈」
と尋ねると桔平はため息をつきながら、
「2人揃って天然無自覚か……!」
そう落ち込みながら言っていると朝姫と幸仁は本気で分かっていない様子で首を傾げていたので、桔平は先ほどより大きなため息をつくと、
「なんでもない……行こう」
と呟いて歩き出すので2人は訳が分からないままついて行きカフェに着くと中へ入り、その様子を黒い車に乗った男がずっと眺めていた。
翌日いつもより早く起きた朝姫は共同キッチンで幸仁の分の食事も作っていると、しばらくして幸仁が目を覚ましてキッチンがある部屋へ来て焼き立てのパンやウインナーの匂いを嗅いで、
「美味しそうな匂いだ……」
そう目を瞑ってうっとりした表情で言うとイスに座り2人は揃って手を合わせると、
「いただきます!」
と言って幸仁が目玉焼きの乗った食パンを口に運び幸せそうな顔で、
「ん、うまい!」
そう言うとすごい速さで食べ進め数分で食べ終わるとまだ食パンをかじっている朝姫に、
「今日も学校あるけど、どう? 楽しくなりそう?」
と笑顔で尋ねられたので彼女も笑顔で、
「はい! 友達もできたし、とても楽しいです!」
そう答えたので幸仁は安心して頭をなでているとまた背後から桔平が、
「おーい、2人の世界に入ってないで学校行かないと遅刻するぞー?」
と間に割って入って来たので2人は驚いて離れると桔平は面白そうに笑いながら、
「そんなに驚く事かよ」
そう言うので幸仁は彼の両頬を掴み怒ったように低い声で、
「お前は毎回後ろから現れやがって……俺をからかってんのか……?」
と言うと桔平は桔平は両手を顔の高さまで上げると、
「ごめんごめん、2人が自分達の世界に入ってるのが面白くてつい」
そう笑いながら話すので幸仁は頬を掴む手を強めながら、
「よし、このまま引きちぎるか」
と真顔で言っていたので桔平は慌てながら、
「ご、ごめんって! 謝るからそれだけはやめて!」
そう半泣きで言い放して貰うと痛む頬を押さえながら、
「怪力男め……」
と呟くと幸仁がまた掴もうとしたので逃げるようにドアまで走り出て行く間際振り向いて、
「は、早く行かないと本当に遅刻するからな!」
そう言い残し速足で去って行くとため息をついて朝姫の方を向くと、すでに支度が終わっていたので幸仁も支度をして階段を降りるとカフェのカウンターでグラスを磨いていたマスターが微笑みながら、
「いってらっしゃい」
と言って手を振ってくれたので朝姫と幸仁も手を振り、
「いってきます!」
そう言うと店をでて歩いて学校へ行き教室に着いた朝姫が席に着くとクラスの女子生徒が集まって来て彼女を囲むと、
「若藤さん! 昨日の人とはどういう関係なの⁈」
と詰め寄って来たので朝姫は一瞬呆然としてからまた嘘の出会い話をすると彼女達はバツが悪そうに、
「そ、そうだったんだ……辛い事を言わせてごめんね」
そう俯いて言うの朝姫は微笑んでから、
「大丈夫だよ! 私はもう吹っ切れてるから」
と言うと女子生徒達は目に涙を溜めながら、
「強いのね……」
そう言っていたので朝姫はまた微笑むと担任教師が入って来て、
「おーい、朝礼始めるから席に座れー」
と言い教壇に立ち全員が座るのを待ってから点呼を取っていきその後も授業を受け、昼休みになって弁当を食べていると携帯が鳴ったので慌てて出ると幸仁が、
「朝姫ちゃん!? 今から迎えに行くから支度して! マフィアが……アカネグサの連中がそっちに向かっているらしいから早く出ないと! 先生たちには連絡してあるから!」
そう切羽詰まった声でまくし立てるので朝姫は跳ねる心臓を落ち着かせよと一度深呼吸をしてから弁当箱をしまい帰る支度をしていると近くに女子生徒が気付き、
「あれ、若藤さんもう帰るの? まだ昼だよ?」
と尋ねられたのと同時に教室のドアが激しく開けられ担任教師が血相を変えて入って来ると、
「若藤! 今すぐ支度をしてついてきなさい!!」
そう叫ぶように言われたので朝日は緊張の面持ちで頷きカバンを持って教師について歩き、裏門に着くとすでに到着していた幸仁と放流してカフェに帰るために速足で歩いていると、学校の方向から爆発音がして振り返るとそこから煙が上がっていたので朝姫は背筋が凍るような感覚になり、
「幸仁さん、学校が!」
と青ざめて言うと彼は舌打ちをしてから、
「アカネグサが朝姫ちゃんをおびき出すために爆発させたんだ、今行けば確実に捕まるよ」
そう朝姫の手を引いて進もうとするが彼女は足を踏ん張り、
「私……学校に戻ります! 友達を見捨てられない!!」
と言って学校へ引き返すと校門前でクラスメイトが数人〔造形の言霊使い〕である赤井田 宏二が創った檻に捕まり、身を引き寄せて泣いていたので怒りで我を忘れた朝姫は檻の前に行くと言霊を使い、
『檻よ壊れろ』
そう呟いて壊すと生徒達を逃がすと宏二は朝姫の怒りに満ちた顔に身震いしてから不敵な笑みを浮かべると、
「よぉ、正義のヒロインのご登場だな」
と言うと風のようなスピードで駆けて来て回し蹴りを繰り出すので朝姫は何とか避けると、近くにあった標識を見つけ握るとまた言霊を使って、
『折れろ』
そう言い標識の付け根の部分を壊して構えると相手は一瞬目を見開いてから嬉しそうに笑いだしたので彼女は驚いていると、
「この俺と戦うつもりか? ボスには生け捕りしろって言われてるけど、少しなら怪我してもいいよな?」
と言ってからまた駆けて来たので朝姫は戦う姿勢に入るが突然相手の動きが止まり意表を突かれた彼は後ろの校舎に向かって、
「中島さん、邪魔しないでくださいよ」
そう拗ねたように言うと校舎の中から白いロングヘアの男性が出て来て、
「ダイアナヒョウモンに傷をつけるとボスにお仕置きされるよ? 宏二」
と笑顔で言われた宏二は怯えたように固まった後舌打ちをして、
「すんません……」
そう小さな声で謝るので中島と呼ばれた青年こと中島 準人は言霊を解くと朝姫に近付き、
「久しぶりだねダイアナヒョウモン、元気にしていたかい?」
と笑顔のまま言われ朝姫は怯えて震えながら後ずさるので準人はピタリと止まり、
「どうして逃げるんだ? 躾が足りなかったのかな……おいで、君の言霊は我々アカネグサのものなんだ、また教育してあげるよ」
そう今までの笑顔を止めて真剣な面持ちで言われたので朝姫はさらに震えながら固まると、準人は近付こうと踏み出した途端水たまりにはまり抜けなくなったので、目を見開いてから禍々しい笑みを浮かべるといつの間にか朝姫の隣に立っている幸仁に、
「やぁ! 君に会うのは何年ぶりかな……言霊の力が衰えてなくて安心したよ!」
と両手を広げながら言ってから、
「でも今日は僕だけじゃないんだよ?」
そう言うと幸仁は準人を睨みながら静かな口調で、
「知ってる、だから全員の足を止めているんだ」
と全力疾走した後のような息をして言うと準人は身震いをしてから大きな笑い声をあげると、
「すごい……! 君はやっぱり素晴らしいね、幸仁! あの時より強くなっているなんて!!」
そう言って狂ったように笑い続け少し経って落ち着くと静かに微笑みながら、
「でも、そんなにもたないだろ? 言霊は万能じゃない、使い手の思念を具現化するんだ……そのままだと精神がイカれて廃人にはるぞ?」
と言われた幸仁はニッと笑うと準人を見据えて、
「そんな事は知っているよ、だから手を打ってあるんだ」
そう言い右手を上げると学校の近くにある建物の中から武装した警察官が次々と現れマフィア達を囲むと銃を構えるので準人は怒りで顔を歪ませてから、
「おいつの間に……! 警察の対言霊使い班か!!」
と食いしばりながら言ってから舌打ちをすると腰にあるカバンから筒を取り出すと地面に叩きつけ大量の煙が出てきたので、朝姫達は口を押えているとすぐに風が吹き煙が散ると宏二と準人が部下を置いて逃げていて、警察官達が拘束していると幸仁が膝から崩れ落ちたので朝姫が驚いてしゃがみ、
「大丈夫ですか⁈」
そう尋ねると彼は苦しそうに息を切らせながら、
「だ、だい……じょ、うぶ」
と言っていると後ろからシルバーのワンボックスカーが走って来て横に止まると、後部座席から桔平が出て来て幸仁を抱えると車に乗せ朝姫も乗せるとしばらく走り、急に止まってドアを開けると知らないマンションの駐車場にいて中へ入ると一番上の階の家にカードキーで開けると、彼は奥の部屋へ幸仁を運びベッドに寝かせると白衣を着た男性を呼び、彼が注射器で薬を投与すると先程より幸仁の表情が和らいだので朝日はホッとして、
「ありがとうございます」
そう頭を下げて行ってから、
「あ、あの……さっき幸仁さんに打った薬って……?」
と尋ねると桔平は悲しそうな笑みを浮かべると、
「君達言霊使いの特効薬で、言霊を使いすぎた時に使うんだ」
そう説明された朝姫は驚いた顔で、
「どうしてそのお薬を桔平さんが持っているんですか?」
と聞くと彼は顔を曇らせながら微笑み、
「ごめん、今は話せないんだ……」
そう言ってから立ち上がると、
「幸ちゃんはしばらく寝てるだろうし、看病を頼めるかな?」
と朝姫の頭に手を置いて言うと彼女は頷いたのでまた微笑むと、
「ありがとう」
そう言って家を出ようとしたので朝姫は呼び止め、
「どこへ行くんですか?」
と尋ねると桔平はフッと笑い、
「後片付け」
そう言うと後は何も言わず出て行き幸仁は眠り続けた。