第1章 自分の部屋
カフェでひと悶着あったがしばらくして落ち着き幸仁は朝姫をつれて2階へと上がり空き部屋に案内すると、
「今日からこの部屋を使っていいよ、食事は下でマスターに作ってもらうか奥の共同キッチンで自分で作るかだし、何かあれば下にマスターがいるのと俺も学校が終わればカフェで手伝いをしているから気兼ねなく何でも言って大丈夫だよ」
そう言われ朝姫は緊張しながら頷いて部屋へ入ると目を輝かせていたので幸仁は嬉しそうに微笑んでいると何かを思い出したように、
「そういえば朝姫ちゃんは携帯電話は持ってるかな?」
と尋ねると彼女は首を横に振ったので幸仁は少し考えてから、
「それじゃあ桔平に買ってもらおう!!」
そう笑顔で言うと朝姫は驚いた表情で両手を組むと、
「で、でも値段が高いんじゃ……」
と遠慮がちに言っていると幸仁はニッと笑い、
「そういう時の為の桔平だろ? あいつは自分の会社を持ってるしお金持ちだから」
そう悪戯っぽく言うと朝姫は少し驚いた顔をしていたのだが次第に嬉しそうな笑みに変わり、桔平とも話し合い翌日の夕方に2人の学校が終わってから買いに行く事になったのでその日は眠り、次の日大学が終わるまでの間暇を持て余していると昼前にマスターが部屋を訪れ彼女に、
「もうすぐ昼食を取りに来るお客様で忙しくなるので手伝ってくれませんか?」
と微笑みながら尋ねられ最初迷った朝姫だったが意を決して口を引き締め、
「はい! 頑張ります!!」
そう言ってガッツポーズをするとマスターから制服を受け取り着替えると、カフェのホールにでて昼食を取りに来た客の注文を取って行き、昼を1時間ほど過ぎて一段落するとマスターは一つ息をついてから朝姫に、
「僕達もそろそろ昼食を取りましょうか」
と言うとドアの前の看板を『CLOSE』に変えカウンターに戻ると料理を作り始め、しばらくしてミートスパゲティが出来ると朝姫が座る席に置くと、
「どうぞ、これは幸仁君も好きな料理なんですよ」
そう言われたのだが初めて見る食べ物に躊躇していたのだが、美味しそうな匂いに唾を飲み込むとフォークを手に取り口に運ぶと衝撃を受けた朝姫は興奮しながら、
「こ、これ……なんていう料理なんですか⁈」
と立ち上がりながら尋ねるとマスターは嬉しそうな笑みを浮かべ、
「ミートスパゲティです、気に入りましたか?」
そう聞かれた彼女は目を輝かせながら、
「とっても美味しいです!!」
と即答してから座り直し幸せそうな顔で食べ進め数分で平らげると頭を下げ、
「ごちそうさまでした」
そう手を合わせて言うとマスターも頭を下げ、
「おそまつさまです」
と言って皿を下げ洗い始め朝姫はその間水を飲んでいるとふと気になる事がありマスターに、
「マスターも言霊使いだって福元さんが言っていたけど、なんの言霊なんですか?」
そう尋ねると彼は手を止めて少し間をおいてから、
「私の言霊は千里眼です、なので幸仁君や朝姫さんのように戦う事は出来ないですが、サポートはできますね」
と微笑んで言ってからまた皿洗いを再開しそれが終わるとドアの札を『OPEN』にすると、しばらくして客が入り朝姫が接客しているとあっという間に夕方になっていて、幸仁と桔平が返って来たので3人揃って携帯ショップへ行くと店員の話を聞いてから携帯電話を買うと、帰り際に早速2人の電話番号を入力しカフェに帰る途中桔平が名案を思い付いたように手を叩くと、
「そういえば朝姫ちゃんは今日一日カフェの手伝いをしてくれたんだよね?」
そう尋ね朝姫が頷くと桔平はさらに笑顔で、
「だったらそのままバイトって形で働いたら? そのお金で自分の好きなものが買えて嬉しいよ? 幸ちゃんもそう思うだろ?」
と力説の途中で話を振られた幸仁は驚いて変な声を出した後顎に手を当て、
「ま、まぁ俺もバイトでもらった初給料が嬉しかったし……いいんじゃない?」
そう微笑んで言うと朝姫は嬉しさと緊張で顔を赤くしながら頭を下げると、
「よ、よろしくおねがいします!」
と言ってから頭を上げ笑顔で2人を見上げてから振り返りスキップで進むので幸仁と桔平もついて行き、カフェにつくとマスターにも説明して許可を得ると次の日からバイトを始める事になり今日はもう日が暮れていたので部屋へ戻ると、翌朝目を覚ました朝姫は歯を磨いて顔を洗うと店がある1階にまで降り制服に着替えてホールに入ると幸仁もいたので驚いた声と表情で、
「今日学校は無いんですか?」
そう尋ねると彼は頷いて、
「日曜だしね、それに一度朝姫ちゃんとホールに立ちたかったから」
と笑顔で言っているとマスターが2人に、
「それでは店を開けましょうか」
そう言い札を『OPEN』にして客が入ると朝姫が注文を取って行きマスターが料理を作り、その間に幸仁がコーヒーを煎れその料理とコーヒーをまた朝姫が運びテーブルに運ぶと、幸せそうにそれを口に運ぶ様子に朝姫も嬉しくなって微笑みながら次々と注文をこなし、慌ただしくしているとあっという間に昼過ぎになってたのでマスターが店を閉めると、
「さて、そろそろ昼食にしましょうか、なにが食べたいですか?」
と2人に尋ねると彼等は目を輝かせながら、
「ミートスパゲティがいいです!」
そう声を揃えて言うのでマスターが笑いながら、
「それほど気にってくれると作り甲斐がありますね」
と言ってからカウンターに戻りながら、
「2人とも同じミートスパゲティですね、少し待っていてください」
そう言ってから作り始め数十分ほどで出来ると朝姫と幸仁の前に置くと目を輝かせながら、
「いただきます!」
と大きな声で言ってから美味そうに食べているとマスターが嬉しそうに微笑みながら、
「君達は本当にその料理が好きなんですねぇ」
そう言われた2人はまた声を揃えて元気よく、
「大好きです‼」
と言った後幸仁が顔を赤らめながら、
「俺、朝姫ちゃんと一緒で両親がいないし、ここに来るまでマシな食べ物が無かったので一段と美味しく感じるんです」
そう言うと朝姫が幸仁を見つめながら、
「福元さんはどうしてマフィアから抜けたんですか?」
と尋ねると彼は微笑みながら、
「俺の事は幸仁でいいよ……そうだね、簡単に言えば嫌になったんだ、他者を蹴落として生きていく生活に……そして違う景色を見てみたかったんだ、そして死にかけていたところを桔平が助けて拾ってくれて、ここに住まわせてくれたからあいつには感謝してもしきれないんだ」
そう言って見上げると桔平が後ろから現れ、
「その割には僕の扱いが雑過ぎない?」
と言われた幸仁は驚きの声を上げた後、
「い、いつから聞いてたんだ⁈」
そう叫ぶように言うと桔平は平然とした声で、
「朝姫ちゃんと2人で幸せそうにスパゲティ食べてる辺りから」
と言っていたので幸仁はさらに顔を赤らめながら、
「来てたなら声をかけろよ!!」
そう慌てて言うが桔平は微笑みながら、
「だってすごく幸せオーラが出てたから声をかけづらくて」
と顔の前で手を横にしてピースをしながら言っていたので幸仁はため息をついて、
「お前がそれをしても気持ち悪いだけだぞ」
そう冷静な口調で指摘すると彼は口を尖らせながら、
「えー? これでも人気あるんだけどなぁ?」
と反論すると幸仁は不服そうな顔をして、
「それはお前の容姿が良いからだろ? 毎日女の子が近くにいるヤツにモテない俺の気持ちが分かるか⁈」
そう文句を言っていると桔平が突然彼の頬を両手で掴みながら、
「それ幸ちゃんが言う⁈ 僕よりもモテる癖に!!」
と笑顔で殺気を出しながら言うのだが幸仁はため息をついて頬の手を離させると、
「そんな訳ないだろう?」
そう呆れたように言うと桔平は怒ったように目を吊り上げながら、
「お前はいつもそう言って無自覚に女の子を引き寄せるから僕達は必死で気を引かせているんだ! おまえは天然が過ぎるんだよ!!」
と額を人差し指で5回ほどつつきながら言うと幸仁は拗ねたように口を尖らせ、
「俺は天然じゃねぇし、しっかりしてるよ」
そう呟くので桔平は震えだしまた頬を掴むと、
「それは幸ちゃんが気付いてないだけ‼」
と叫ぶように言っているとマスターが桔平の右肩にポンと手を置くといつもの笑顔で、
「井野君は何か用事があったのでは?」
そう言われやっと思い出したように手を叩くと、
「そうだった! 朝姫ちゃんは今まだ16歳だよね? だったら学校に行かないとその内お客さんに怪しまれちゃうし、マフィアに狙われるかもしれないから行こう! ちょうどこの近くに僕達が通ってた高校があるし今まで勉強してたのか分からないけど、少し僕達で見れば大丈夫でしょ!」
と笑顔で言うので朝姫と幸仁は一瞬固まった後幸仁が机を叩いて立ち上がると、
「俺は反対だ! この子はまだマフィアに狙われているんだ、行きか帰りにでも捕まったらどうすんだよ!?」
そう勢い込んで反対するが桔平はさらに名案と言うように目を輝かせながら、
「じゃあ幸ちゃんが登下校を付き添えばいいと思うんだよ!」
と指を立てて微笑むと幸仁は再び固まってから、
「お、俺も大学あるんだけど?」
そう上目遣いで言うと、
「優秀な幸ちゃんだったら楽勝でしょ?」
といとも簡単に言われ幸仁は肩を落として朝姫を見やると、初めての学校に目を輝かせていたので諦めたように両手を上げると、
「分かった……俺が守よ」
そう言って朝姫は1か月後人生初の学校へ行く事になった。