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ダイアナヒョウモンの雫  作者: 桜本 結芽
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プロローグ 少女と青年の出会い

 雨が降る街の裏路地を1人の少女が息を切らせて走り抜け、その後ろから真っ黒なスーツに身を包んだ7人ほどの男が追いかけるが、幼い頃から走る事が得意だった少女に男達は追いつけず焦りの表情で走る彼らに少女は生意気にも舌を出すと、さらにスピードを上げて行ったので男達は怒りで顔を赤くして追いちょうど少女が路地の隙間を通った瞬間、狭い空間に俯いて立っていた青年が壁に手を当て、

 『カゴを創り閉じ込めろ』

 と〔言霊〕を使って呟くと薄い緑色の瞳が仄かに紅く光ると壁がパキパキと音を立て変形していき、走っている少女を囲むと次第に鳥かごの形になると彼女を閉じ込め外へ出ようと暴れる少女の前に先ほどの青年が近付くと彼女は声を荒立てながら、

 「言霊を使うなんて卑怯よ!」

 そう言って睨むが青年は悪びれる様子もなく、

 「はぁ? 言霊を使って逃げた挙句に俺の部下の半分に大けがを負わせた奴が何言ってんだ!?」

 と怒りを現せて言うと少女から目を離さず近くの部下に、

 「ガキを捕まえたとボスにお伝えしろ」

 そう言うと男は軽く頭を下げ返事をした後走り去ると、〔言霊〕を使った男は少女に近付きながら口の端を歪めると石壁で出来たカゴの前で止まり腕組をして、

 「ふん! 奇蹟のダイアナヒョウモンもこうなればただの生意気なガキだな!」

 と嘲るように鼻で笑いながら言っていると少女は憎しみの混じった表情を浮かべながら、

 「か弱い女の子1人に大の大人が寄ってたかって追いかけるなんて、アカネグサはもうおしまいね!」

 そう大きな声で侮辱すると青年は一瞬目じりを吊り上げたが、すぐに元の見下すような顔に戻し冷笑を浮かべると、

 「なにがか弱いだよ、その大の大人を10人も半殺しにしておいてよく言うぜ! そろそろ痛い目にでもあっておくか!?」

 と怒気を込めた声で言って言霊を使うために口を開いた瞬間少女は矢のような速さで、

 『カゴよ壊れろ』

 そう言霊を使ってカゴを壊すとついでに突っ立っていた男を見て、

 『折れろ』

 と再び言霊を使って数人の男を全身複雑骨折させると苦悶の声を上げて倒れる男達を無視して、少女は走り去ると青年は舌打ちをしてまた追うが、少女は周りの物を壊しながら走って行くので追いつけず見失ってしまい、青年達が見えなくなった少女は足をゆるめ後ろを警戒しながら走っていると、角を曲がった途端不意に人にぶつかり尻もちをついた少女に、ぶつかった人が慌てて手を差し出すと彼女は驚きの面持ちで手を見つめていたのでぶつかった人物は心配そうな声で、

 「大丈夫? 怪我は無い?」

 そう尋ねられたので少女は戸惑いながらも手を取り立ち上がると、路地の間から男達を従えた青年が走って来たので少女は咄嗟にぶつかった人の手を取り人込みの中に入ると青年達はさすがに追う事を諦め路地の奥へと消えていったので安心していると後ろからぶつかった青年が、

 「あ、あの……」

 と遠慮気味にに声をかけられそのとき少女はやっと手を握ったままだと気づき、慌てて離すと顔を赤らめるので青年は微笑むと目を合わせるように中腰になると、

 「さっきの連中ってマフィアだよね? しかも1人は言霊使いだ、どうしてそんな奴らに追われているのか聞いてもいいかな? 何か手助けがしたいんだ」

 そう落ち着いた口調で尋ねられた少女は安堵感に包まれたと同時に自然と涙が溢れ、それを見て驚いた青年は彼女の頭を優しく撫でていたが、一向に泣き止まないので困ってため息をついていると道行く人達が怪訝な顔つきで青年と少女を見ていたので焦った彼は慌てた様子で、

 「と、とりあえず場所を変えようか!」

 と言うと少女は頷いたので青年は安心して息をつき彼女の手を取り歩いて行きい、住み込みでバイトをしているカフェに入るとカウンターに立つ男性に、

 「マスター! いつものコーヒーと……なにが飲みたい? 俺のおごりだから遠慮しなくてもいいよ」

 そう笑顔で聞かれた少女はメニューをしばらく見てから、

 「じ、じゃあ……オレンジジュースがいいです」

 と言うとマスターと呼ばれた40代程の男性が静かな口調で、

 「かしこまりました」

 そう微笑みを浮かべながら返事をしてコーヒーを煎れる準備と、オレンジジュースをいれるグラスを取り出すと、店内にはコーヒーの深みのある独特な香りが漂いホッと一息をついた青年は、クラシックの落ち着いた曲が流れ客のいない店内中央の席に座ると少女に、

 「少し落ち着いた?」

 と笑顔で尋ねるがずっと俯いたままの彼女を見て少し悩んだ後胸にトンと拳を当ててから、

 「安心して! マスターも俺も言霊使いだから、いざというときは助けて……」

 あげるよ! と言いかけたのだが少女は顔を強張らせて立ち上がると、

 「まさかあなたも奴らの仲間なの⁈ 私を捕まえて引き渡すの!?」

 そう混乱あまり大きな声で問い詰めると2人の間にコーヒーが現れ、驚いた少女が口をつぐむとマスターが優しい口調で、

 「彼はそんな方ではないですよ……我々は〔野良〕の言霊使いです、あなたと同じ……それに彼は臆病な性格ですからマフィアに面と向かっては行けません、伝説にまでなった氷のヤマショウビンなのにねぇ?」

 と最後は青年を見ながら言いオレンジジュースがはいったグラスを置くと、彼は恥ずかしそうに顔を赤くしながら拗ねたように口を尖らせ、

 「そんなことは無いですよ、多分……それに俺が昔使ってた二つ名なんて言っても分からないと思いますよ、この子は普通の……」

 女の子だしと言いかけるが少女の輝くような瞳を見て口をつぐんだところでマスターが、

 「彼女も野良の言霊使いですよ、幸仁君」

 と笑顔を崩さずに言うと青年はキョトンとした顔で、

 「え……この子も言霊使い……なんですか?」

 そう尋ねるとマスターは力強く頷いて、

 「彼女がよく話題の出て来るダイアナヒョウモンですよ」

 と穏やかに教えていると少女は夢見る乙女の顔から元に戻り少し怯えた表情で、

 「ど、どうして分かったんですか?」

 そう聞くのだがマスターは微笑むばかりで何も言わないので少女はため息をつき青年に向き合うと、

 「自己紹介がまだでしたよね……私の名前は若藤(わかふじ) 朝姫(あさひ)、生成と壊滅の言霊使いです」

 と名乗ってから青年を見つめて待つと彼は緊張しながら、

 「お、俺は福元(ふくもと) 幸仁(ゆきひと)、水の言霊使いで今は響崎(きょうざき)大学文芸学部に通ってる」

 そう名乗りながら頭を掻いているとマスターがカウンター越しに、

 「幸仁君にお客様ですよ、テーブルの下に隠れてください」

 と真剣な顔で言うと朝姫に頷いてカウンターに隠れると幸仁も机の中に潜ると、

 『幻影を生成せよ』

 そう言霊を使って水道の水を使って3人を創り出して数分後ドアが激しく蹴破られた途端、黒いスーツを着た10人ほどの男達が入って来てマシンガンを放つと、店の者がぐったりとしている事を確認してから先ほどの言霊使いが入って来てほくそ笑んでいると、死んだはずの朝姫が水になって消えたので驚いて数歩下がるとテーブルの下から、

 「どうした? そんなに驚いて……死人が水になった事がそんなに意外か? 宏二(こうじ)

 と幸仁が言うと宏二と呼ばれた言霊使いは悔し気に顔を歪ませると、

 「てめぇ、組織から消えた奴がなんで今更現れるんだ! 幸仁!!」

 そう地団太を踏みながら指を差して言っているが幸仁は無視して睨みながら、

 「それより、どうして彼女を追っているんだ? 彼女には手を出してはいけないとマフィア間協定で決まっているはずだぞ? それどころかお前はこの子を殺そうとした、どうなっても知らねぇぞ?」

 と言うと宏二は目線を外し小さな声で、

 「オレが知るかよ、そんな事よりそのガキを渡せ……そしたらお前らの命は取らねぇでやるよ! かの有名なヤマショウビンもさすがに言霊の力は衰えているはず……ガボッ」

 途中まで言いかけたのだが最後は水中に消え宏二の顔にだけに水が溜まり、苦しそうにもがく彼を幸仁は残虐な笑みを浮かべてみていたので朝姫は咄嗟に飛びついて抱き着くと、我に返った幸仁は言霊を解き気を失った宏二をずっと見つめていた男達に鋭い目つきで、

 「このバカを連れて消えろ、あと優奈(ゆな)にこの子は諦めろって伝えとけ、いいな?」

 そう静かな口調で行くと男達は震えながら何度も頷いて宏二を連れて店を出て行き、完全に見えなくなるまで立っているとずっと抱き着いていた朝姫の頭に手を置き、

 「もう大丈夫だよ、さっきはありがとう……何とか自分で決めた事を守れたよ」

 と言って微笑んでいるとマスターがいつの間にか横に立っていて、

 「幸仁君はロリコン? なんですねぇ」

 そうメガネをかけ直しながら言われたので幸仁は驚いた声を上げて後ずさると、

 「ま、マスター!? いつの間に……っていうか変な事を言わないでくださいよ! あいつに聞かれたらシャレにならな……」

 「へぇ、幸ちゃんはロリコンだったんだ」

 と幸仁の最後の言葉にかぶせるように1人の青年が言うと彼は固まってしまい青年がつつきながら、

 「あれ、フリーズした? 本当に冗談によわいねお前は……それよりこれはどういう状況? 穴ぼこでいつもより酷くない?」

 そう辺りを見回して言っているとやっと動きだした幸仁が、

 「桔平、頼むこの通りだ! この子も匿ってくれ‼」

 と両手を合わせて必死に懇願すると桔平と呼ばれた青年は、

 「いいよ」

 そうあっさりと首を縦に振るので一拍おいてから幸仁が、

 「えっ! い、いいの……? かなり訳ありな子なんだけど……?」

 と遠慮がちに言うと桔平は突然笑い出し、

 「それお前が言う⁈」

 そう言いながらひとしきり笑ったあとまだ笑いが残るまま、

 「あー、腹いてぇ」

 と目元を拭いながら言ってから幸仁に、

 「訳ありなのはお前も一緒じゃん、だったら一人や二人増えたところで問題ないよ、それにこの子も言霊使いなんだろ? なら幸ちゃんが守ってあげなよ、僕じゃすぐに倒されて無理だし!」

 そう胸を張って力強く断言していたので幸仁は呆れて言葉を失っていると、桔平が景気よく肩を叩きながら大きな声で、

 「だって本当の事だろ? 一般市民を巻き込むなっての‼」

 と言ってから朝姫の前で中腰になると笑顔で、

 「僕の名前は井野 桔平、言霊使いではないけど金銭面では助けてあげられるから何でも言ってね」

 そう自己紹介をすると手を差し出すので朝姫はその手を握りながら、

 「わ、若藤 朝姫です! 生成の壊滅の言霊使いで二つ名はダイアナヒョウモンです!」

 と名乗ると桔平は一瞬不思議そうに顔を曇らせたがすぐに悪戯っぽく微笑むと、

 「うん、よろしくね朝姫ちゃん! で、話をかえるけど幸ちゃんは普段あんな感じでヘタレ全開だけど、ひとたびキレたらやばい事になるから止めてやって欲しいんだ、それとおそわれそうになったら全力で殴ってもいいよ、それかグッ」

 そう途中まで言いかけた時幸仁に頭を力強く押さえつけられると幸仁は顔を赤くしながら、

 「それ以上言うな、この子に変な事教えるんじゃねぇ」

 と言ってさらに力を込めたので桔平は幸仁の腕を掴みながら、

 「いたいいたい! って言うかハゲる‼ すみませんでした‼」

 そう慌てて謝ると幸仁は手を離して、

 「よろしい」

 と言うと朝姫に向き笑顔で、

 「こんなバカだけどよろしくね」

 そう言っていると桔平がムッとしながら、

 「バカってなんだよぉ、僕は学年トップだぞ?」

 と反論すると幸仁はため息をつき、

 「勉強ができても中身は子供じゃねぇか」

 そう言いまた桔平が何か言おうと口を開いた瞬間に朝姫が笑い出したので2人して見つめていると彼女は口に手を当て申し訳なさそうに目を伏せると、

 「ご、ごめんなさい……」

 と言っていたので幸仁は彼女の頭をなでながら、

 「大丈夫、怒ってないよ」

 そう言い微笑んだ後桔平も、

 「そうだよ、朝姫ちゃんはこれからもっと自由に笑えるんだ、我慢しないで」

 と頭を撫でながら言われた朝姫は頷くと遠慮がちに微笑んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごい本格的な世界を作り上げましたね。読みながら感心しました。 言霊という能力の仕組みが気になります。 [一言] 言霊という力がこれからどんな風に使われるか楽しみです。 キャラ達も親しみや…
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