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鵜沼城の米を奪え!

「長秀様、私が荷車を引きます」

「お願いします。引かせてください」

五作は俺に向かって何度も頭を下げてくる。

その(たび)に俺は五作に怒った。

「五作様が行商の旦那様で、俺が使用人の『ゆう吉』だと言っている筈だ」

「旦那様に荷車を引かせる使用人が何処(どこ)にいる」

「いい加減に(あきら)めろ!」

俺は五作を連れ、荷車に大量の魚の干物を()せ鵜沼城近くに来ていた。

桶の中に革袋に入れた氷と生のエビ、鯛も()せている。

海から遠い鵜沼城の兵には魅力的なモノが一杯だ。

この魚を米と交換する。

まだ完全にお金の流通が出来ていないこの時代の地方は、物々交換が普通に行われる。

大量の米を手に入れる予定だ。

「これが最後だ!」

「この策は五作の腕に掛かっているんだ」

「しっかり米を手に入れてくれよ」

「頼むぞ!」

五作はしぶしぶ(うなず)いた。


信長から美濃攻めの日にちを聞いて、俺は直ぐに行動した。

屋敷に帰ってきて、弥八たち迎えに行った四郎以外の全員を広間に集めた。

「2~3日美濃に行ってくるから、楓の指示に従っていつも通りに練習を続けるように」

「葵、弥八たちに訓練をさせろと四郎に伝えろ」

「そして弥八たちにたらふく食わせろ」

「遠慮させるな」

「男たちは食べるからな。お前たちと違って」

俺の矢継ぎ早の指示でアイドルたちも戦さが近いことを感じ、真剣な顔つきで聞いていた。

言わなくても分かるようだ。

「五作、鵜沼城に行くから一緒に来てくれ」

「むかしにやっていた行商の能力を借りたい」

俺の同行の指示に五作は驚いていた。

五作にしか出来ない仕事です、覚悟して下さい。

「鵜沼城に兵糧を奪いに行く」

「弥八たちが来るから米が必要だ」

「だからどうせなら敵から米を手に入れようと思う」

「出来るだけ大量の」

鵜沼城の米を減らし、兵糧攻めをし易くする。

鵜沼城は藤吉郎が攻める予定だが、早く城が落ちるように協力するつもりだ。

藤吉郎を助けておいても損がない武将だからね。


「お前たちは何者だ?」

遠見櫓(とおみやぐら)から俺たちが近づくのが見えたのか、城門に近づく前に門が開き城兵が現れた。

すぐさま五作が前に進み出て、城兵に声を掛けた。

「海産物の行商をしています」

「干し魚がたくさんありますが、いかがでしょうか?」

城兵の1人が荷車の上を(のぞ)き込んで、荷の確認をはじめた。

「ほぉー魚がいっぱいあるな」

「海の匂いがして美味しいだ」

「よくもこんなに新鮮な状態で………」

「よく来た!城に案内してやる」

城兵は何も疑わず、俺たちを城の中に迎え入れた。

清洲でも同じだが、食べ物以外の必需品は行商に頼っている物が多い。

だからどこでも行商人は大切に扱われる。

まして人が少ない村ではなおさらだ。

「魚売りですね、(めずら)しい」

「お母ちゃん、このお魚は何?」

「さぁ海の魚は久しぶりだから、何だろうね」

「この魚、1匹幾(いく)らだい?」

「高いんかい?」

城内に入ると女子供がゾロゾロと集まってきて荷車を取り囲み、口々に話しをしていた。

やはりここでは魚が珍しいみたいだ。

「どれどれ魚売りだと?」

偉い武将らしき声に荷車に集まった野次馬が軽く頭を下げ、道を開いた。

この城の家老なのか?それとも殿様?

男は荷車の魚を(のぞ)き込んだ。

「荷車に何が()っているんだ?」

当然のように五作に聞いてきた。

「干物としてアジ開き50枚、太刀魚開き20枚、イカ15枚」

「生ものは桶の中にエビ30匹と鯛が2尾となります」

スラスラと五作が答えた。

「鯛もあるのか?生で」

「で、全部で(いく)らになる?」

この男は城主だ!

俺の予想通りに大人買いをしてきた。

ここで太っ腹を見せないと兵の士気に関わるからな。

早めに城主が出て来て助かった。

城主なら一声で決まるからな。

「そうですね、普通なら4貫【40万円相当】になりますが、全部買って頂けるなら負けて2貫【20万円相当】になります」

五作は俺との打ち合わせ通りの価格設定を答えた。

「高い!」

「無理だぁー!」

周りの野次馬がガヤガヤと騒ぎだした。

確かに高い。

でもトラックも冷凍技術もない戦国時代であればアジの開きでも安くはならない。

京の都なら生の鯛1尾は1貫出してもおかしくないほどの最高級品なんだよ!

「もし米と交換出来るなら米10俵【10万円相当】でお売り致しますが」

五作はニコッと笑って話した。

「何故そうなる?」

男は驚いて聞いてきた。

「この後、井ノ口では戸別(こべつ)に売りに行くので、どうしても1匹あたりの値段が高くなります」

「いっぺんに全部を買って頂けるなら半額に出来ます」

「米との交換なら更に安く出来ますよ」

五作は一呼吸入れて

「三河の方は戦さのせいで米が不足しています」

「今は米の収穫前でどこも米が無いんですよ」

「米なら高値で魚と交換出来ますので、海の方でもしっかり(もう)けが出ますし」

「ここまで生ものが運べる事が分かりましたので、次は井ノ口で大儲(おおもう)け出来ますよ」

「直ぐに生ものを手に入れて」

男に向かって五作はニコッと笑った。

「ですから米と交換出来れば、ここでの(もう)けは、さほどいらないですよ」

五作の言葉に男は満面の笑みがこぼれた。

「昨年の豊作で蔵に米が余っておる」

「収穫まであと半月ほどあるが、今年も出来が良く豊作間違いない」

「余った米で城内の者が喜ぶなら、ワシもこんなに(うれ)しい事はない」

「よし、決まった!米と交換じゃ」

「皆のもの、魚を運び米を持って来い!」

男の指示で城内の男たちが動き出した。

魚と入れ替わりに荷車が米俵で山積みになった。


「上手くいきましたね、長秀様」

私は長秀様が魚の干物を大量に買い入れた時、ここまで考えていると思わなかった。

単に娘たちを喜ばせる為だけに魚を買っていると思っていた。

自分たちの兵糧を増やし、敵の兵糧を減らす。

魚を使って。

私にはとても考えつかない。

私は凄い方の家来になったと実感した。

不思議な力を持って、とんでもない考えを使う。

そして信長様の信頼も厚い。

どれだけ出世するのだろう……。

「長秀様、魚を買った時に、ここまで考えつくとは」

「私には到底(とうてい)、考えの及びがつかない事です」

????

長秀様が私の言葉に不思議そうな表情を見せた。

え?違うのですか?

「違うぞ!」

「俺が海で考えついたのは、コレではないぞ」

長秀様はニッと笑って

「知っているか、五作」

「三河の漁師が(くじら)というモノを捕まえているらしい」

え?(くじら)ですか???




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