『君が代』を唄います。
彩佳の家から清洲の屋敷に帰ると四郎も弥八の所から戻っていた。
俺は大広間に全員を集めた。
「全員揃っているな」
「これからの予定で言いたい事、聞きたい事があるのでみんなに集まってもらった」
「まず四郎、弥八は何人集めたんだ」
みんなを見渡すと四郎がニコニコしていたので、最初に声を掛けた。
「80人ぐらい集めたようです」
「全員が独身で丹羽の家来として清洲に来る事に問題はありません」
「皆、喜んで清洲に来るとの事です」
「清洲での生活ですが既に空家を7軒確保していますので、無理すれば全員の住むところは何とかなりそうです」
四郎はニコニコ報告した。
お!しっかり仕事しているな。
「よくやった四郎、武具も忘れずに準備してくれ」
どちらかと言えば戦さ働きを期待している四郎が細々(こまごま)と部下の世話をしてくれと安心出来る。
「あっ!更に4軒の空家を見つけてあります」
「長秀様、どう致しましょうか?」
葵が口を挟んできた。
「弥八たちには出来るだけ気持ち良く清洲で生活してもらいたい」
「その家も使おう。ありがとう、葵」
四郎が口を挟んだ葵を見て驚いていた。
何だ、細々(こまごま)した事は葵に丸投げしていたのか。
「あ!それに食事、洗濯などの家事をしてもらう女性を10人見つけてあります」
葵は四郎を見つめニコニコしている。
今、1番頼りになるのは葵だな。
本当に葵は有能だ!
「四郎、葵と一緒に弥八たちが清洲で生活出来るように万全の準備をしろ」
「準備が終わり次第、弥八たちを迎えに行ってくれ」
「そろそろ戦さも近いだろう」
「葵には細々とした事を頼むから清洲に残るように」
「犬たちの事も時々は気にしてくれ」
ん?操と香が何か話している。
「操、何か言いたい事でもあるのか?」
「良い考えがあるのなら、気にせずドンドン言ってくれて良いぞ」
俺はアイドルたちとは壁を作りたくない。
丹羽の仲間になった以上、少しでも楽しくいて欲しい。
操が躊躇しながらも言い出した。
「家事なら私も出来ます、得意です」
「私にもやらせてください!」
操が立ち上がり俺を強く見つめてきた。
「ダメだな!」
俺は首を横に振った。
「葵が見つけてきた10人はたぶん何かの事情があって金銭を欲している女性たちだろう」
「葵、違うか?」
俺の問いに葵が頷く。
「清洲には戦さで夫を亡くしたり、何かの事情で生活に苦労している女性たちがおります」
「そのために少しでも仕事を与えてやりたいと思いました」
俺は操を見つめた。
「ごめんなさい。私、琴が上手くならないし、才能は無いし、みんなの役に立っていないし…………」
操が声を詰まらせ座り込み泣き出した。
「操が頑張っていることを俺はちゃんと知っているよ」
「慌てて直ぐに上手になろうとしなくても良いんだよ」
「少しづつでも上手くなれば、それは立派な事だし、それで十分だ」
「焦る必要は無いんだよ」
「それに操や香、玉恵、美穂、美玖。みんな本当に可愛いと思っている」
「それだけで十分に才能なんだから」
「俺が認めて丹羽の仲間にした事を忘れないで欲しい」
操の泣き声が小さくなっていった。
「長秀様、昨日河尻様と一緒に屋敷に来るように信長様から使いが参りました」
操が泣き止むのを待って葵が話し始めた。
「分かった。楓、後で一緒に信長様のところに行くから準備しておいてくれ」
そろそろ美濃攻めの話だろう。
日にちが決まったか?
「鈴、雛。進んでいるか?」
俺の問いに鈴が黙って首を横に振った。
新しい曲となると直ぐとはいかないか。
俺は頷き、鈴に「分かった」と合図を送った。
それなら良いか。
「ごめん。鈴、雛、予定変更だ」
「三河の白山神社に行って思いついた事があって」
「もちろん拍子の早い曲を作るのは進めていくが」
「その前にどうしてもやりたい曲が見つかった」
「その曲を先に進める」
「急な事でごめん」
俺は軽く頭を下げた。
鈴、雛、彩佳、美玖たちアイドルたちが真剣な眼差しで俺を見める。
初めて俺が頭を下げたから驚いているだろうが、俺の表情に何かを感じているのだろう。
「その曲だが、俺が直接唄うから聴いて欲しい」
「旦那様が直接唄うのですか?」
彩佳が驚いて聞いてきた。
いつもイメージを大事にして脳内通信で各自に曲を伝えきたが、今から唄う歌は簡単な歌だ。
直接唄っても分かるだろう。
「誰にでも直ぐ覚えられる歌だから直接唄うよ」
「楓1人に唄ってもらう予定だが、鈴や雛、玉恵、美穂やみんなも唄ってもらうかもしれないから」
「しっかり聴くように」
俺はみんなを見つめ全員が頷くのを確認した。
「私1人が唄うのですか?」
楓がオロオロしながらたずねてきた。
「大事な歌だから楓に唄って欲しい」
「その方が聴く者には大切な歌だと伝わるはずだ」
「楓が口をパクパクさせて他の者が唄っても構わないが………」
アイドルは口パク上等!
「では、唄うね」
『君がぁ~♪ 代ぉは~♪』
『千夜にぃ~♪ 八千代にぃ~♪』
『さざれぇ~♪ 石の~♪』
『巌となりて~♪』
『苔のぉ~♪ むぅすぅ~♪ まぁ~ぁぁ~で~♪』
「以上だ、簡単だろう?」
「そうだな曲名は『君が代』としょうか」
元の世界の日本人なら誰でも知っている日本国の国歌。
楓たちの前で実際に1人で国歌を唄うのは少し恥ずかしかった。
普通、国歌を1人で唄う事は無いよ!一般人は。
日本国の国歌なのに唄うのが恥ずかしいのは何故なのだろう?
「旦那様、この歌はどういう意味なのでしょうか?」
楓がたずねてきた。
みんな同じ事を知りたいみたいでコクコクと頷いている。
「俺は天子様の治世の意味で『君が代』と唄ってみたが、別に足利将軍様の治世でも良いだろう」
「この歌は砂の様な小石が集まって岩の様になり、その岩に苔が着くまで治世か永く続いて下さいという意味だ」
「神子の楓が唄う事で上の治世を『寿ぐ』と伝わる事が大事だ」
「つまり私は政に興味は有りませんと、この歌を聴く者に伝えたい」
「私たちは苦しむ人たちを癒し、慰め、楽しませる為に唄って踊っているのですと」
「俺は政は全て信長様にお任せする」
「しかし、みんなに対しての命令は全て俺が発する」
「天子様だろうが、将軍様であろうが、信長様であろうがみんなに直接命令をさせない」
「また命令に従うな」
楓、彩佳、四郎、葵、五作とアイドルたちが強く頷いた。
俺たちが京の都に行った時、いろんな事が起こるだろう。
俺ならみんなを守れる、守る必要がある。
今のところ『八咫烏』とは無用な争いは避けたい。
ただ仲間たちに害をなすようなら俺は全力でそれを潰す。
揉め事になるかもしれないが、それは信長も分かっているはずだ!
『君が代』の意味に対して異論があるかもしれませんが、あくまでも物語での展開に必要なものなので、この意味で進めていきます。




