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半兵衛の苦悩

「半兵衛、今日は何用だ?」

「まぁ、丁度良い」

半兵衛と杏と対面した龍興はキョロキョロと周りを気にし、顔は青ざめていた。

「お館様、何かあったのですか?」

半兵衛は龍興の異様な雰囲気が気になり、問いを返した。

「こんな物があった」

龍興は横にいた小姓から1枚の紙を受け取った。

「今朝、目を開けた時に枕元にこの紙があった」

「半兵衛、意味が分かるか?」

龍興は半兵衛に『死』の文字が書かれた紙を差し出した。

この時、龍興は13歳だった。

既に元服、成人となっていたが美濃国の領主としてはまだ子供だった。

斎藤龍興は史実では凡庸(ぼんよう)な斎藤家3代目と伝えられているが、義龍の死後に家中にゴタゴタも無く家督を継いでいる事を考えると、凡庸(ぼんよう)ではなかった筈だ。

ただ隣りに天才織田信長と丹羽長秀が居た事が龍興には不幸だった。

「昨夜の出来事ですか?」

半兵衛は驚きを抑え、静かに龍興に(たず)ねた。

早すぎる!杏が帰って来たのは今朝だ。

杏と離れ、丹羽が直ぐに動いたと言う事か?

「いかにも!嘘を言ってどうする!」

半兵衛の問いに龍興は怒りをあらわした。

「であれば、織田の武将の仕業だと思われます」

「信長家来、丹羽長秀がやったと間違いございません」

「お館様の暗殺の情報を私の忍びが(つか)み、(あわ)てて来たのですが」

「丹羽に先を越されました」

半兵衛は(あわ)てて答えた。

「そうか、幸い生命を取ろうとしなかったが」

「なら半兵衛、オレはどうすれば良いのだ?」

「ただ殺されるのを待っていればいいのか?」

小さな声で半兵衛に(たず)ねた。

「この紙は単なる脅しで、直ぐには生命を取りに来ないでしょう」

「信長と丹羽は不仲になったと噂で聞いています」

「丹羽の斎藤家への売り込みかもしれませんが」

「丹羽長秀の調略、もしくは殺す必要があると思います」

「丹羽の忍びの力は味方になれば怖い者は無いですが、敵になれば恐ろしい事になりますので」

龍興は(うなず)く。

「なんとしてもオレの配下にしたいな」

「織田、浅井、武田。怖い者は無くなる」

「半兵衛、頼むぞ。出来る限り早く」

龍興の顔からさっきの(おび)えは無くなっていた。

半兵衛は自分への期待の大きさを感じていた。


「杏、長秀に(ふみ)を書くから渡してくれ」

屋敷に戻った半兵衛は険しい顔をして杏に声を掛けた。

「半兵衛様、長秀を調略ですね」

「私でよろしいのですか?」

長秀の前で何も知らない少女を演じた杏が調略の窓口になる。

「長秀が怒って私を殺さないでしょうか?」

半兵衛は更に険しい顔になった。

「すまない、分からない」

「たぶん、大丈夫だ」

「長秀が怒って殺すのは、私だろうな」

「長秀が何を考えているのか、分からない」

「今朝、杏の話を聞いて私の『離間計』は失敗して、長秀に『離間計』の返しをされたと思っていた」

「昨夜、杏との約束を破り、長秀は動いた」

「これで私が『離間計』で長秀を怒らせた事を、龍興様に話す必要が無くなった」

「長秀自ら自分の『離間計』を潰した」

「何故か」

「ただ彼が危険だと龍興様は分かってしまった」

「今は味方に引き入れるか、殺すかの2つの選択肢しかない」

「私の策が上手くいって、彼が私との接触を希望しているのか…………?」

「怒りが抑えきれず、暴走したのか…………分からない」

「杏、深く探ってくれ。丹羽長秀という男を」

半兵衛は悩んでいた。

策が上手くいったのか?失敗したのか?

分からない。

「報酬は弾んで頂きます」

「丹羽を味方に引き入れる事が出来たら更に」

杏には自信があった。

私は伊賀の里一番の美少女だから。

長秀が美少女好きなのは清洲で聞いていた。

この前も私の可愛さで長秀が甘い顔をしたから、簡単よ。

私なら出来る!と


「長秀様、何故約束を(たが)えて昨夜、龍興の屋敷に忍び込んだのですか?」

「そしてただ紙を置いて来るだけなんて」

「龍興が義龍と同じ寝所にしていて、探す必要がなく簡単に終わりましたが」

四郎は俺に怒っていた。

「急に命令を出して私を連れて危ない行動をして、暗殺もせずに…………」

「何を考えているのですか?」

初めて四郎が俺の命令に文句を言った。

「すまん、単なるイタズラだ」

少し半兵衛を驚かしてやりたかったのだ。

大人気(おとなげ)ないかもしれなかった。

俺は素直に四郎に頭を下げた。

「半兵衛がウザいと思ってな」

「あいつもこれに()りて大人(おとな)しくなるだろう」

「半兵衛に構っている暇は無いんで」

「俺の戦さが近いから、やる事がたくさんあるんだよ」

たぶん?

「よし!これからの計画を話す」

「四郎、みんなを集めてくれ」

俺は話をずらして、はぐらかした。

四郎、ごめん!もうイタズラなど考えないから…………たぶん!







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