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半兵衛の疑問、長秀の答え

side 杏

「おはようございます、半兵衛様」

「ただ今清洲から戻りました」

私はにこやかに半兵衛様に微笑んだ。

稲葉山城城下の半兵衛の屋敷に朝早く私は現れた。

清洲で丹羽長秀の謀反の噂を立てた美少女は1日で半兵衛の元に戻っていた。

少女は普通の少女ではなかった。

「杏、上手くいった様だな。良くやった」

半兵衛様は()めてくれたが、目は()めていた。

仕事とはいえ、もっと()めてくれても良いのに。

「謀反の噂は直ぐに清洲じゅうに広がりました」

「簡単でした」

「噂が広がったなら半兵衛様の言う通りに丹羽の屋敷でウロウロしていたら、直ぐに丹羽の家来が私を見つけてくれました」

「見つけ易い様にしていたと知らずに」

「屋敷に連れて行かれる思っていましたが、宿に留め置かれ、丹羽の屋敷の様子を見る事が出来ませんでした」

「残念でした」

「清洲で聞いてみましたが、丹羽が少女たちを集めているという事は事実のようです」

半兵衛様は軽く微笑んだが、何も言ってくれない。

「何も知らないフリをして泣いてみせたら、丹羽は直ぐに許してくれました」

「甘いと言うか、女に弱いと言うか、私の事を何も疑わないのですから笑ってしまいますよね」

私は「へ、へ、へ」と笑ってしまった。

「ただ、私を許す代わりに龍興様を罰すると言っていました」

「龍興様が義龍様の様に変死する事になると言っていましたが、義龍様は丹羽に暗殺されたのですか?」

「龍興様を許さない」

「屋敷の奥に隠れていろと言っていました」

私の言葉に半兵衛様は目を見開いて驚いていた。

「確かに私を見つけ出した丹羽の忍びは凄いと思いましたが」

「あの者は我が一族の伊賀者ではありませんし、甲賀者が織田に手を貸していない筈ですので、暗殺など単なるコケ脅しでしょう」

半兵衛様の顔がみるみる険しくなっていった。

「杏、丹羽はそんな事を言ったのか?」

「美濃国内でも義龍様は病の悪化による急死としている」

「丹羽が暗殺と言うのはおかしい」

「丹羽が家来を使って暗殺したと言うのか?」

半兵衛様は忍びの重要性を理解していて、家督(かとく)を継ぐと直ぐに伊賀村と接触してきた。

我が父に信長を暗殺出来るか聞いていた。

「丹羽は半兵衛様に伝えろと」

「龍興様を守れ」

「2日の余裕を与えると」

半兵衛様の様子に私は可笑(おか)しさを感じた。

出来る筈がない!

伊賀忍者ろ組組頭の娘である私だから言い切れる。

屋敷に居る領主の暗殺など不可能だ!

伊賀者誰一人、そんな事が出来る者などいない。

誰にも見つからずに領主の寝床(ねどこ)に近づく事など。

「丹羽は他に何か言っていなかったか?」

真剣な目で半兵衛様は私に(たず)ねた。

「直ぐに岡崎に向かうと言っていました」

「私の目の前で家来に」

「考えている余裕が無かったのですね」

「噂のせいで尾張に居れなくなったのでしょう。(あわ)てていましたから」

「さすが半兵衛様ですね」


半兵衛は目を閉じて杏の言葉について自問自答していた。

【何故、杏に暗殺を伝えさせたのか?】………【脅し?いや出来る!】

【私に龍興様を守れとは?】………【暗殺を龍興様に伝える事になる】

【丹羽に龍興様を暗殺する意思は有る?】………【言った以上、行動する】

【杏に岡崎行きを話したのは何故?】………【岡崎に逃げる?分からない】

【龍興様が危ない!】

「俺の失敗だ!!」

半兵衛は()き出す様に呟いた。

龍興様は話を聞いて怒るだろう。

どの様に説明すれば良いのだ?

これは丹羽の『離間計』なのか?

「杏、直ぐに龍興様の所に行く!」

「着いて参れ!」

半兵衛は急に立ち上がり、杏に命令した。


「道三じじい、半兵衛に策略が成功した様に見せかけろと命令されたけど、どうだったかな?」

「あの娘は俺の思い通りの行動をするのかなぁ?」

屋敷への帰り道、道三じじいに相談してみた。

街灯など無い清洲は夜中に誰も外へは出ない。

月明かりでうっすら明るい道で足の無い幽霊と一緒に歩く俺の姿を誰かが見たら、騒ぎになるだろうな。

俺の謀反騒動より大きな幽霊騒ぎに。

道三じじいは崇福寺の召喚以来、俺の背後霊のように取り()き俺の全てを(のぞ)いている。

だから直ぐに命令が来るし、いろいろ説明も要らないから話がスムーズだ。

「うむ、まぁ半兵衛は『離間計』は上手くいったと思うだろうな」

「岡崎行きの話が出れば半兵衛も(あせ)るだろう」

「お前が直ぐに行動に出ると」

「しかし、その『離間計』で龍興自身が生命を(ねら)われると龍興が知れば………」

「半兵衛との仲も上手くいかなくなる」

「『離間計』に対し『離間計』で返すか。やりおるのおー!長秀」

「ちゃんとあの娘はお前が清洲を離れ、岡崎に向かう事を話すだろう」

「自分が掴んだ手柄のように」

「で長秀、本当に岡崎に向かうのか?」

道三じじいは不思議そうに(たず)ねてきた。

「出来る限り一向宗の力を()いでおきたい」

「元康を自由に動かせる状態にしておかないと、信長の上洛の時に使えないからな」

「それに彩佳の父親にも会っておきたい」

元康より彩佳の父親の方がメインなんだが。

習慣が違うと思うが、彩佳を側室にするから親に挨拶に行きたい。

いわゆる俺のケジメだ。

まぁ他にも行きたい所があるが。

「日々お前を見ているがお前の女子(おなご)たちは良い娘たちが集まっているな」

「楓さんを(あたま)に上下関係がしっかりしているから、出しゃばらないから楽だな」

「楓さんはいい()だから大事にせんといかんぞ!」

楓はいい娘、そんな事は分かっている!

道三じじいに言われなくとも。

だからみんなが幸せになる様に頑張っているつもりだ。

それが楓の為になり、彩佳の為になるから。










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