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加治田城を調略しました。

「織田信長家臣丹羽長秀殿、長秀殿正室楓神子殿を紹介致します」

忠能の前に梅村は俺たちと一緒に並んで座り、部屋中に響く大声で俺と楓の名前を呼んだ。

四郎は警護の家来として後ろに控えていたので、忠能には紹介されなかった。

加治田城までの道中では梅村と四郎は仲良く話をしていたのに、そんなものか。

楓と四郎は忠能に対し頭を下げたが、俺はいつも通り頭を下げない。

俺と小さな領地の城主の忠能とでは頭を下げる相手だと思わない。

俺たちが座る大広間には俺たちを取り囲むように加治田の重臣らしき武将が集められていた。

「丹羽殿は信長様の信頼も厚く、織田家との取り次ぎはこの方しかおりません」

「尾張の楓神子様の噂は本当であり、私も楓神子様の奇跡をこの目で見ました」

「織田家と丹羽殿に敵対し戦うのは、加治田を滅亡に(おとしい)れるでしょう」

梅村は周りの武将たちに聞かせる言い方だった。

ん?梅村に俺の魔法を見せた(おぼ)えは無いが。

まぁ、あのお札を楓神子の奇跡と呼んだのだろう。

俺は梅村に続いた。

「織田信長配下、丹羽長秀と申す」

「ただ今美濃は義龍様の変死により、美濃全体が動揺していると信長様はお考えです」

「織田はこの機会に全力で美濃に攻め入るでしょう」

「もちろん俺も美濃攻めに参加しますし、楓神子も参加します」

「近いうちに美濃の方々は噂以上の本当の楓神子の怖さを知ることになりましょう」

俺は忠能に強く言い放つ。

加治田の武将たちに緊張が走った。

武将の中には俺の言葉にムッとしていた者もいた。

城主の手前、我慢しているのであろう。

甘い誘惑よりキツい(おど)しの調略を俺は選んだ。

嘘を並べての説得より加治田との今後の付き合いを考えれば、事実を正直に伝えた方が良いだろうという考えだ。

忠能は先を見て動いた城主らしく平然と俺の話を聞いていた。

「丹羽殿、楓神子様のお力を見せてもらえないだろうか?」

忠能は静かに俺に話しかけてきた。

「楓神子の力ですか?」

「どこまで見せれば良いのでしょうか?」

「雷を落とさせます?」

「それとも嵐を起こした方が分かりやすいですか?」

「どちらにしても城がただでは済みませんが」

(おど)しの言葉を考えているふりをしながら、俺は横の楓を見た。

楓は正面の忠能を見つめ、ピクリとも動かない。

俺の命令が無いと動かない?

楓も慣れてきたな。

俺は(ふところ)から『楓神子』のハイヒールのお札を出した。

「まぁ、楓神子の力を見るより、このお札の力を見た方がよろしいかと思います」

梅村が持っていたお札は忠能に見せる為に犬山で使わなかっただろう。

そして昨日、そのお札を忠能の前で使っているだろう。

ならもっと驚かせてやろう、このお札は梅村が持っていたお札とは桁違いだと。

俺は四郎を呼び、耳打ちし、お札を持たせた。

「分かりました!」

四郎は露骨(ろこつ)嫌顔(いやがお)をしたが、あきらめているようだ。

四郎はまだお札を使ったところを見ていなかったな。

少し心配しているのであろう。

四郎は俺の目の前で左袖(ひだりそで)をまくり、腕を出してきた。

「痛いが我慢してくれ」

俺は持っていた小刀で四郎の左腕を()りつけた。

俺の小刀は四郎の左腕の動脈を切り、血が吹き上がった。

「う!」四郎は声を上げる。

骨を切り、左腕はだらしなくブラブラと()れ下がった。

切断すると後で面倒なので、肉が残るように俺は浅く小刀を入れていた。

それでもこの状態は重傷だ。

「え!」加治田の武将たちも声を上げる。

まさか、これ程深く小刀を入れるとは思っていなかっただろう。

加治田衆の声を無視して四郎は小声で呪文を(とな)える。

「ハブ、ネバ、ビー、メロ」

呪文と共に白い光が四郎を包む。

俺に()られた四郎の腕の傷が一瞬で治る。

ブラブラしていた腕が(つな)がり傷痕(きずあと)も残っていない。

四郎が安堵(あんど)の表情をみせた。

おい!四郎。俺を疑っていたのか?

帰って葵にこの事を話すだろうが、葵は何と答えるだろう?

「お役に立って良かったね」

と葵なら言うだろな。

「いかがですか?」

「もう一度やってみましょうか?」

「足でもお腹でも何回でもやりますよ」

「加治田の方々も()られてみますか?」

流石にそれは無いか。

「え!」加治田衆が一斉に声を上げる。

冗談です!

しかし、楓神子の存在の有無に関わらず、()られた兵が一瞬で傷を治す。

それも何回回復するか分からない。

織田の兵は()られても死なない。

戦場でそんなゾンビの様な兵に出会ったら、たまらんよな。

「楓神子様のお力、丹羽殿のお力を理解しました」

「織田軍、丹羽殿の軍に勝てる自信のある者は申し出よ」

忠能は周りの武将たちに声をかける。

「いかに楓神子の力があっても、死んだ者は生き返せないでしょう」

「なら、一人残らず殺せば何も怖くない!」

さっきから俺を(にら)み続けていた武将が声を上げた。

「全滅ですか?」

「俺の軍が今まで通りの戦い方をすると考えていますが、まず俺は最初に楓神子に相手の軍に雷を落とさせますよ」

「その後、兵を突進させます」

「そうやって相手を全滅させますね。そう一人残らず」

「俺の兵は家族同然」

「腕を(うしな)おうが、足を(うしな)おうが生きている限り元の生活に戻す」

「俺はこのお札を何百枚、何千枚用意する!」

「俺の軍に限って全滅はありえない!」

もう誰一人声を上げない。

「丹羽殿、感謝する」

「佐藤忠能及び加治田衆、皆生命が助かりました」

「信長様にお伝えください」

「織田様が美濃を攻める時、加治田衆全てが織田様の味方になりますと」

忠能が俺に深々と頭を下げた。

異論を(とな)える者はいない。

「私も佐藤殿の英断に感謝致します」

俺は手をつき深々と頭を下げた。

同様に楓と四郎が頭を下げていた。

加治田の調略は成功した。














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