葵、梅村に出会う。
side 葵
「丹羽様が美濃への出兵となれば、楓神子様も同行なされます」
信長様の命で必ずしもここ犬山を通るとは言い切れませんが……」
「もしここ犬山を通るようであれば、楓神子様の安全な宿を探すようにと丹羽様に命ぜられ、ここに来ました」
犬山に来た葵は楓神子が癒しの出来る大きさの神社を探し、針綱神社の宮司と話を始めた。
針綱神社は犬山城近く東に位置し、大きな境内を持つ古くからの神社だ。
お札と丹羽家の知名度を上げるのに1人1人話をしていては時間ばかりかかってしまう。
そう思った葵は
名のある神社に人を集めて一気に話を広める。
長秀様美濃出陣の時の宿の確保する。
葵は一石二鳥を考えていた。
犬山でも楓神子の噂は広がっていて、楓神子の使者と名乗ると直ぐに宮司が対応した。
「楓神子様がここにお出になれば、喜んでお迎え致します」
宮司はにこやかに答えた。
「ありがとうございます」
「宿を決めるのは丹羽様ですので、宮司さんの言葉はしっかりと丹羽様に伝えておきます」
葵は宮司に頭を下げた。
「ところで宮司さんの身近で病気や怪我に苦しんでいる方はいらっしゃいますか?」
宮司は葵の言葉を理解出来ずに、返事に詰まっていた。
「丹羽様より楓神子様のお札を数枚渡されてきました」
「お札ですので癒しの効力は弱いのですが……」
「丹羽家に助力してくれる人たちが居れば、少しでも楓神子様の力を分け与えてくるように言われています」
宮司は恐る恐る葵に近づき、耳元でささやいた。
「お尻の所が痛いですが、治りますでしょうか?」
宮司は痔持ちらしい。
葵は唱える呪文を宮司に教え、お札を渡した。
お札を受け取った宮司は
「暫し失礼します」
と言い、部屋から出て行ったが、直ぐにこやかに部屋に帰って来た。
「このお札は凄いですね」
「葵様、もう今日の宿はお決まりですか?」
「是非とも、ここを宿としてお使いください」
「楓神子様と同様のおもてなしを致しますので」
葵の宿は決まった。
その後、宮司と巫女たちが大騒ぎになったのは、しょうがない事です。
神社でのお札の癒しを行う事を周りに伝えるのに2日かかった。
その間、葵は宮司から充分なもてなしを受けた。
癒しの当日、20人の人が集まった。
心配したがお札は足りそうだ。
熱田神宮と同じで宮司は玉串料で儲けたに違いない。
「ただ今から、丹羽家正室楓神子様のお札による癒しを行います」
「お札ですので、癒しの力は楓神子様と比べ大した力は有りません」
「足りないと感じた方は直接、楓神子様の所に足を運んで下さい」
「なお、このお札は大変貴重な物でありますので、あなた方は大変幸運であることを忘れないで下さい」
葵の言葉に20人全員が手を着き、頭を下げた。
順番にお札を渡し、呪文を唱えさせた。
お札は大概の傷、病気を治した。
全てが終わった後に何故か40歳ぐらいの男が帰らずに残っていた。
その男はお札を手に持ち、使っていなかった。
「楓神子様は何故、こんな事をするのですか?」
男は葵にたずねてきた。
「戦さの無い、人が無駄に死なない世の中を作るためです」
葵は長秀の言葉を使った。
「では、争い戦った相手の傷も楓神子様は癒してくれるのですか?」
葵は少し考えた。
「それは多分、長秀様がお決めになると思います」
男は葵の言葉に不思議そうに首をひねった。
「何故ですか?」
葵はクスリと笑って
「信長様にいちいちお伺いをしていては、死ななくていい人まで死んでしまうでしょう」
少しの間が開き、2人に沈黙が続いた。
「は、は、は、なるほど、その通りだわ」
男は大声で笑い出した。
直ぐに男は真顔になり、葵を見つめた。
「ワシは梅村と申す行商人です」
「丹羽様と楓神子様にお会いしたくなりました」
「お帰りになりましたら、是非ともよろしくお伝えください」
梅村は葵に向かって軽く頭を下げた。
顔に2カ所も刀傷が有る行商人、嘘でしょう?
葵はこの男を忘れられないと思った。




