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勇太、憂鬱(ゆううつ)になりました。

翌日、熱田に葵が美玖の兄を連れてきた。

葵は美玖から話を聞いてすぐに動いたみたいだ。

美玖の兄は本殿の床に座り、美玖と一緒に俺と楓を待っていた。

20代前半のいかにも戦さ人の雰囲気をたたよわせていた。

美玖の兄らしく(ととの)った顔立ちだけど頑固な部分が顔に出ていて鈴のオヤジの秀隆と同じだった。

藤吉郎のように軽く生きられないものかなぁ。

男は顔に大きな刀傷、右腕が(ひじ)から先が無くなっていた。

「遅くなってすまなかった」

「俺の名は丹羽長秀と申す」

「お呼び立てて申し訳ない」

俺は男の対面に座り、頭を下げた。

「佐々成政と申す。妹の美玖がお世話になっています」

成政も頭を下げた。

佐々成政?柴田勝家の家臣で秀吉と対立した有名な武将か?

美玖、凄い兄を持っているな。

のちのち名を上げる武将だから(よし)みを繋いておいても良いな。

「佐々殿、話は聞いている。楓、頼む」

楓を成政の正面に座らせた。

『創造魔法、肢体復元発動!』

ついでに『ハイヒール!』と。

俺は右腕の復元と顔の刀傷を治した。

多分身体には数え切れない刀傷が有っただろう。

顔の刀傷が無くなると成政はさらにイケメンになった。

「楓様、感謝します」

「楓様、長秀様ありがとうございます」

成政と美玖は床に手をついて深々を頭を下げた。

「もしかして美玖、もう熱田に居る必要が無くなったかな?」

俺はふと、そう思い美玖に声をかけた。

「いえ、私は長秀様に一生お使いします」

美玖は顔を上げ俺の言葉を(あわ)てて否定した。

一生?いや早く男を見つけて丹羽家から出て行くのが良いと思うが。

「成政、いつかこの御恩(ごおん)をお返し致します」

「そして美玖のこと、よろしくお願い致します」

成政はさっきの暗い頑固なイメージから気さくな明るさに変わっていた。

この雰囲気が()の成政なんだろう。

ずいぶん怪我で悩んでいたんだな。

まぁこれで美玖がアイドルを頑張ってくれれば充分ですよ。

でも成政の妹なら側室にするのも有りかな?

美玖は元の世界で好きだったアイドルに似ているからね。


成政はすぐに西美濃に行って織田軍に合流すると言って熱田神宮から出て行った。

俺は俺と美玖の持つ『ハイヒール』のお札を使い方を説明し、成政に渡した。

「こんな凄い物を頂いてよろしいのですか?」

「西美濃で武功を立てて、またすぐに戻って参ります」

成政はお札に驚いていたが、非常に喜んでくれた。

このお札を使って成政が頑張ってくれれば、俺の城持ちの道への一歩になるだろう。


「このお札を持って犬山に向かってくれ」

俺は『ヒール』のお札30枚を葵に渡した。

犬山は尾張と美濃の国境(くにざかい)の場所。

俺の攻略予定の中美濃への入り口になる場所だ。

葵に楓神子の噂が広がるように工作を命じた。

「楓神子が丹羽長秀の正室である事もそれとなく伝えろ」

俺が美濃攻略時に美濃の民衆の反発を弱めるためだ。

「美濃には入るな。くれぐれも安心を優先してくれ」

「期間は2週間だが、お札が無くなればすぐに帰ってこい」

葵が巫女たちのお姉さんの顔から忍び葵の顔に変わる。

葵ならそつなく俺の命をこなすだろう。

ゆっくりだが、そろそろ美濃攻略に入ろう。


side 勇太

「参ったな、これは」

勇太は悩んだ。

勇太が村に帰った時にめぼしい男たちが居なくなっていた。

信長の西美濃への通り道にこの村があったために戦さのおこぼれ拾いに男たちが織田軍について行ってしまったのだ。

「1人も連れて行けないとなったら長秀様に何と言えばいいのだ?」

「あまり長い間、熱田から離れている訳にいかないし」

勇太は独り言をブツクサ(つぶや)いた。

「あ~あ」勇太は頭を抱えてしばらく考えていたが、しかたなく実家に向かって歩くことにした。

「ん?」

遠くから10人ほどの集団が歩いてきた。

弥八?

「おーい、弥八!」

勇太は集団の先頭にいた幼馴染(おさななじみ)の男に声をかけた。

「お前たち、信長様について行って戦さに行ったんじゃないのか?」

先頭にいた弥八がにこやかに勇太に近づいた。

「戦さはもう終わった」

「織田様の圧勝。後方にいた俺たちは何も出来なかった」

「斎藤があっけなく崩れ、逃げ足も早かったよ」

「俺は先の桶狭間では活躍したのにな」

弥八たちは西美濃では全く戦果、報酬を得ることが出来なかった。

ケンカ下手の小一郎さんに誘われて桶狭間に行ったけど、戦さを俺も弥八も気楽に村のケンカの延長にしか考えてなかったからな。

あの戦さは長秀様と一緒だったし。

今思えば、あんな簡単な戦さ。その後俺も天狗になっていて恥ずかしい。

「俺今、丹羽様の家来になって俸給をもらっているんだ」

「お前たちも丹羽様の家来にならないか?」

弥八は驚いて勇太を見つめた。

「あの楓神子様の丹羽様の家来なのか、勇太は?」

勇太と弥八の話を聞いて男たちは顔を見合わせて騒ぎ始めた。

「俺たち、丹羽様の家来になれるのか?」

「なれる訳が無いだろ」

「だよな!俺たち単なる百姓だからな」

ん?どういう事だ?

勇太の不思議そうな顔を見た弥八は勇太に言った。

「勇太、知らないのか?」

「戦さが終わった後に楓神子様が現れて、怪我人を治して」

「その後、丹羽様の家来になりたいと人が集まって、騒ぎになったんだ」

「信長様が丹羽様に会うことを(きび)しく禁止して」

「誰も丹羽様に近づけなかったんだ」

「丹羽様に会う許しを得たのは先駆けで功のあった前田様ぐらいと聞いている」

う!俺はやってしまったのか?

「長秀様はそんなに凄いのか?」

俺の問いに弥八たちは黙って(うなず)いていた。

確かに長秀様が凄いのは知っていたが、織田の皆に知れ渡っているのか。

「まぁ俺は丹羽様の家来だから、何とかなるんじゃないか?」

勇太は何も考えずに村に来たことを(くや)んだ。

「とりあえず丹羽様に会いに勇太と一緒に行こう!」

「美人で有名な楓神子様にも会えるぞ!」

弥八の言葉に男たちは大喜びをしていた。

「では明日、出発な。勇太、遅れるなよ!」

いつの間にかどんどん話が進んでいる。

勇太は誰とも会えない時と同じぐらい憂鬱(ゆううつ)になっていた。



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