清洲同盟、やっちゃいました
元康との会談は明日の朝になった。
俺は部屋のほぼ中央に座り、楓を斜め後ろに座らせた。
30代の男2人が元康の前左右に座り、俺を睨んでいた。
「松平様、今回のお迎えは如何なる用件でございますか?」
俺も睨まれたなら、それなりの対応をするぞ。
「織田配下の丹羽殿が三河で何をコソコソやっているのかな?」
若い方の男が聞いてきた。
「害虫退治を兼ねて三河の方々にお礼に伺いました」
俺はあえてニコニコしながら返答した。
「意味が分からぬ!」
男はさらに睨みつけてきた。
「尾張が今川に侵略された戦いで松平様が織田にご助力をなされ、そのおかげで義元の首が取れて我が殿信長は大変感謝されております」
「感謝の意味で三河にて治癒を行うようにと信長に命ぜられ、こちらに参りました」
俺の言葉を聞いて、男は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「害虫とは一揆を起こす一向宗のことです」
「念仏を唱えると極楽浄土に行けると説く一向宗が良いか?」
「天照大神から神託を受けて、奇跡により民の苦痛を癒す俺の妻の楓の方が良いか?」
「俺の希望では楓を選んで欲しいと思っていますけど」
「つまり、俺は三河で一向一揆が起こらないようにしているだけです」
俺は元康を見つめた。
「三河で一向一揆が起こると申すか?」
年配の男が聞いてきた。
「そんな事があるはずない!」
若い男が強く否定した。
「一向一揆が起こっても不思議ではない寺が三河に有りますよね」
ん?元康は驚きの顔になった。
「一向一揆が起こらないと信じて何もしないとは」
「三河の方々はのんきと言うか…………」
それ以上言うとただでは済まないので、俺は言葉を濁した。
2人の男は顔を見合わせていた。
「それでは楓殿を有する丹羽殿、織田家に従えと申すか?」
若い男が聞いてきた。
「信長様は武器を持ち暴れる民より、苦痛少なく平穏に暮らす民を選ばれました」
「三河がどこかの国のように一向宗が統べる国になりましたら、織田家にとっては些か迷惑です」
「俺は信長様の命のより一向一揆を潰します」
「松平様がどちらを選ぶか分かりませんが、織田は無理強いをするつもりはありません」
俺の言葉に口を開く者は無く、場は静まった。
「織田家配下丹羽長秀、織田信長の名代で松平様に同盟を申し込みに参りました」
元康を見つめ、俺は大声を上げた。
「忠次、数正どうする?」
元康が初めて口を開いた。
「噂は聞こえているだろう。桶狭間の影の功労者で、信長公から新居を得た出自不明の実力者の丹羽長秀殿の名前は」
元康、やはり俺を調べたね。
「丹羽殿、急な申し入れの為、こちらにも返答に時間を頂きたい」
「暫し部屋にて寛いで欲しい」
元康は俺との会談を締めた。
「旦那様、かっこよかったです!」
楓は部屋に戻り緊張が解けたのか、俺に向かって笑いかけてきた。
睨まれていたせいで俺も少しキレていたからな。
しかし、元康はどこまで俺を探っているのか?
初対面で力を見せつけたからな。しょうがないか。
「お食事の用意が出来ました」
戸の向こうから女の声がした。
ん?早くないか?
俺は索敵魔法を使った。
戸の向こうには1人しか映らず、兵が隠れている様子はない。
心配し過ぎかな?
で!楓、臨戦態勢じゃないか!
俺たちは侍女に案内されて食事する部屋に入った。
ん、元康と平八郎。何故ここに居る?
打ち解けて話をするのに食事は定番だからか?
それなら良い結果になりそうだな。
「前に会いに来た時に謝りに来たの申していたが、既にここまで予想していたのか?」
元康が問いかけてきた。
「さぁどうでしょう。いかに元康様の問いにも答えられない事は有りますので」
「俺を探っているのであれば分かりますよね」
ここは答えない方がいいな。
「松平が裏切ったと叫び、今川軍に突撃したのも丹羽殿ですか?」
平八郎が目をキラキラさせて話に入ってきた。
その言葉に俺は元康に頭を下げた。
「策とはいえ松平家を裏切り者にした事はすまなかった」
「30人の兵を率いて先頭で突撃したのは確かに俺だ」
少数が奇襲で今川軍に突撃した事は元康にも伝わっている筈だ。
「30人の精鋭で大軍に奇襲して大勝利か。凄いなぁ」
平八郎が主従関係無しで話に入ってくる。
「数正も一向一揆の話が出ては同盟に反対出来ないな」
元康が呟いた。
「どうゆう事ですか?」
俺はニヤリと笑い尋ねた。
「織田家との一番強く反対している者は石川様なのです」
平八郎が嬉しそうに話し出した。
「石川様は親今川で駿府に憧れ、岡崎を田舎扱いしている公家文化かぶれで」
「そして石川様が治めている領地が安祥で、一向一揆を潰しに来たのは同盟を求めた丹羽殿」
「丹羽殿の申し出に反対するる事は一向一揆を受け入れたと思われても仕方ないですから」
「もう石川様は同盟反対を口に出せないですよね」
平八郎は最後に笑い転げていた。
そうか、一向一揆が起こる寺は安祥に有るのか。
「で、丹羽殿。安祥で一揆は起こるのか?」
元康は平八郎を無視して俺に真剣に尋ねてきた。
「俺が安祥に来ていなければ間違いなく起こるでしょう」
安祥で一向一揆が起こるのは歴史上の事実だ。
なるほど、それで俺が安祥で動いていた事に驚いていたのか。
「元康様の呼び出しで6日間しか安祥に居れなかったので、一揆を防げたかは分かりません」
「ただ実際に楓の奇跡を目にして、噂を耳にして、一向宗から大神の崇拝に変わった者は出ている筈です」
もう一度安祥に来る必要があるかもしれない。
「本当は丹羽様が奇跡を起こしているんですよね。楓さんを操って」
平八郎にはバレているか。
ん?丹羽様?
俺に対する上げが止まらないな、平八郎。
「同盟は受ける。反対する者は出ない!」
元康は言い切った。
「信長様に伝えます。清洲で細かいことは話し合って下さい」
よし!同盟は決まった。
「同盟は対等に………無理だな。丹羽殿が織田に付いていては」
元康はポツリと呟いた。




