桶狭間の戦い始まりました。
「義元が明日にも沓掛城から動きそうです」
沓掛城近くに忍んでいた四郎からの報告が入った。
「楓、信長様にお伝えしろ」
楓は信長の屋敷に向かって走り出した。
信長も松平の動きを別の忍びから報告を受けて、義元の動きは予想していると思うけど。
「四郎、葵。直ぐに撤収だ!」
俺は転移で2人を清洲に連れ帰った。
「四郎、小一郎殿に戦さになるから、明日の未明には遅れるなと伝えろ」
「あと、報酬は戦さが終わった後にすると皆に申せ」
「四郎は明日、小一郎を守ることに専念して戦うように」
「小一郎を深追いさせず、直ぐに俺達の陣に戻させなさい」
「四郎も小一郎も手柄はこれから幾らでも上げてもらう」
「この程度の戦さで死ぬ事は許さないと小一郎にも伝えなさい」
四郎を小一郎の元へ走らせた。
「葵、明日は屋敷の留守番を頼む」
「俺達がお腹を空かせて帰ってきた時のご馳走を作って待っていてくれ」
俺は葵ににっこり微笑んだ。
「松平との同盟が成立すれば三河近くに土地を貰う約束が信長様と出来ている」
「桶狭間での戦いが終わったら、少ないが2人に給金が渡せるだろう」
「家を建てて四郎と一緒に暮らしても良いぞ」
「忍びをやめて女の子としての幸せを選んでくれていいんだよ」
「葵の美味しい料理が食べれなくなるのは残念だが」
「ただ信長様は京に向けてどんどん領地を広げていく」
「俺は信長様に連れ添って西へ移住しなければならないだろう」
「その事は心に留めといて欲しい」
葵はどのように判断するだろうか。
葵への話が終わると直ぐに楓が戻ってきた。
「お館様は単騎で屋敷を出ました。
「そうか」
俺は頷いて楓を見た。
「楓、明日は俺と一緒に行動するから、絶対に俺から離れるな」
「戦場に連れて行くのは、これが最後にさせる」
楓は戦さとは違う形で行くからね。
「楓には俺の嫁として、嫁だから出来る仕事をしてしてもらうから」
「細々な事をする家事手伝いの使用人が欲しいな」
「いえ、私が続けますので大丈夫です」
急に葵が口を挟んできた。
「葵、いいのか?」
俺の問いに葵は強く頷いた。
楓は何も分からずポカーンと俺達を見つめていた。
まだ日が上がらない薄暗い内、武装を終えた楓と四郎を連れて兵が集まる予定の寺に転移した。
もう小一郎は来ていた。
「小一郎殿、お早いですね」
「兄藤吉郎より丹羽様は出世へと走る駿馬だから、遅れぬようしっかり付いて行けとの命令です」
「俺は速いですから、しっかり尻尾を掴んでいて下さいね」
「これは大変ですね」
「そうですよ」
俺と小一郎は笑い合った。
「四郎、俺は信長様のところに行くからこの場を頼む」
俺は異空間収納から人数分の槍と沢山の握り飯を出し、四郎に渡した。
「報酬を渡す時に困らぬよう、紙に戦さに参加した者の名前を書いておくように」
「1時間ぐらいで戻るから、皆と握り飯を食べて待っていてくれ」
小一郎の顔を見ながら、四郎へ指示を出した。
俺と楓は熱田神宮へ転移した。
辺りも少しずつ明るくなり、武将達もゾロゾロと境内に集まり出していた。
「700人ほどの兵に身体強化魔法を掛けるから、信長様に10分の時間が欲しいと伝えてきてくれ」
楓は走り出し、俺は馬が集められた場所に歩き出した。
「創造魔法、認識阻害発動!」
馬たちにも俺の姿が見えなくなっているだろう。
50頭ほどの馬に次々に強化魔法を掛けていく。
騒ぎ出すこともなく、馬たちは俺の魔法に掛かっていった。
急に神殿前に集まっていた武将達がざわつき始めた。
信長が現れたか?
時間が無い!
急いで神殿に近い武将から順番に強化魔法を掛けていく。
前にいるのは馬に乗って今川軍に突撃する猛勇な武将だろう。
「熱田におられる天照大神に織田の必勝を祈願致す」
信長は神殿に向かいゆっくりとした拝礼を始めた。
おっと、信長に魔法を掛けるのを忘れていた!
信長の拝礼に合わせて神殿裏から2羽の白鷺が飛び立っていった。
「おお!」兵達から声が上がる。
なかなかの演出ですね、信長さん。
「ただ今、大神より神託を戴いた!」
「加護を与える。織田の軍に大いなる力を与えると!」
「その力で願い事は叶えられるであろう!」
「ワシの願いは一つ!義元の首である!」
「ワシは義元に向かって駆ける。ワシに続け!」
信長は刀を天に向かって突き上げた。
信長と武将達が次々と魔法に掛かった馬に騎乗して駆け出す。
強化魔法は終わりました。
馬たちの走る速さに驚かないで下さいね。
あ!熱田の大神の加護に驚いても良いですよ。
いつのまにか信長のところに行っていた楓が戻っていた。
「楓、四郎のところへ戻るぞ」
武将達を見つめていた楓に声を掛けた。
転移で寺に小一郎達兵の武装が終わっていた。
「楓、小一郎殿を呼んできなさい。他の者達に気取られぬように」
楓に連れられた小一郎は不思議そうな顔をしていた。
「丹羽殿、御用でしょうか?」
「俺と楓と小一郎殿の3人で今から今川の様子を探りに行きたいと思う」
「小一郎殿、一緒に行ってもらえないか?」
「3人だけですか?」
「3人なら直ぐに逃げられるからね」
俺の言葉で小一郎は更に不思議そうな顔になった。
「楓、戦闘準備!」
「楓、行くぞ!」
楓は小一郎を守るように身構えている。
俺達は今川軍本隊がいる桶狭間に転移した。
運良く周りに今川軍の兵の姿は見えない。
最悪、転移して今川の兵との直ぐの戦闘を覚悟していた。
「はー」溜息と共に楓の緊張が解けていく。
俺は周囲に索敵魔法を展開した。
400mほど先に今川軍本隊らしき集団がいた。
こちらに向かって来る様子はない。
「何があったのですか?」
小一郎は驚いている。
「俺の仙術で今川軍本隊の裏に着きました」
「ここへ皆を呼び、一気に今川軍本隊に突撃します」
「では、小一郎殿、皆の元に帰ります」
寺に戻ってみると兵の緊張が緩み始めていた。
信長の桶狭間到着を待たず先に戦闘を始めた方が良いな。
俺の特殊能力の自然回復でMPは皆の転移の問題が無い数値に回復していた。
「今から今川軍本隊への突撃を始める」
俺の言葉に境内に集まった兵たちがガヤガヤし始めた。
「ここにいる楓は仙術が使える」
「その仙術で皆を今川軍本隊の裏に運んでもらう」
「楓が仙術で今川兵を追い払うので、皆は逃げ惑う今川兵を追い、叩き潰せ!」
「義元は近くに絶対にいる」
「雑兵の首に目もくれるな」
「義元の首を取って武勲をあげろ。多くの褒美を手に入れよ!」
「行くぞ!」「おう!」
よし、兵たちの士気が上がった。
「四郎、先兵を頼む。向こうに着いたなら周りを警戒しろ」
「先走りは許さん!」
順々に兵を転移魔法で桶狭間に運んでいく。
全ての兵を運んだ。今川軍に気付かれていない。
俺は楓、四郎、小一郎に身体強化魔法を掛ける。
もちろん俺にも。
この3人は死なせる訳にいかない!
「行くぞ!突撃!」
俺は皆を置いて今川軍本隊に向かって走り出した。
よし、楓も遅れずに着いて来ているな。
今川軍本隊の集団が見えてきた。
「創造魔法、威嚇特大!」俺は魔法を放つ。
俺の威嚇に驚いた今川兵は刀や槍を放り捨てて逃げ出した。
今の今川兵には俺がゴジラのように見えているだろう。
よし、奇襲は成功だ!
転んで倒れている者、背中を向けて逃げて行く者しかいない。
俺は死なぬ程度に今川兵を槍で刺していく。
楓も俺から離れず槍を振り回していた。
四郎は?
命令通りに小一郎のそばで暴れ回っていた。
俺は四郎に近づき、脳内通信で四郎に合図を送った。
「四郎、やるぞ!」
「創造魔法、音声拡大」
四郎が少し間をおいて叫び出した。
「松平が寝返った!松平が裏切ったぞ!」
四郎の馬鹿でかい声が桶狭間に響き渡る。
声は今川全軍に届いているだろう。
俺は今川の兵を踏みつけ、足蹴にし、追い回す。
手向かう者はいない。ただ背中に槍を刺す。血が溢れ出す。
30分ほどで俺、楓、四郎、小一郎が転移位置に戻った。
全員が返り血を浴びて全身が真っ赤になっていた。
「ははははは」小一郎が馬鹿笑いをしている。
ゲーム気分だったのだろう。
「前からの信長様の奇襲、裏から俺達の奇襲で今川軍は壊滅状態だろうな」
俺の言葉に四郎は大きく頷いた。
「こんなに上手くいくなんて」
小一郎の目は遠くを見つめていた。
「俺が居たから、ただそれだけ」
俺は小一郎の言葉に反応して、つい呟いてしまった。
ぱっと小一郎が振り返り、俺を見つめてきた。
「でも、何故、楓殿が仙術を使えるなどと嘘を吐かれたのですか?」
小一郎の問いに俺はニカッと笑ってしまった。
「楓は次の仕掛けの主役になるからです」
「三河と仲良くなる為に楓にはアイドルになってもらいます」
楓と四郎と小一郎が不思議そうな顔で俺を見つめてきた。
はい!アイドルです。
楓はアイドルになります!




