藤吉郎さんが来られました
脳内通信で四郎に新居に帰ることを伝えた。
「長秀様、命じられた新居の支度は済んでおります」
「ご紹介したい御仁がいますが、今日のご予定は」
「予定は無いが、今宵は4人で酒でも飲みたいかな」
四郎と葵には何も教えてなかったから、新築祝いに4人で食事をしようと考えていた。
信長の屋敷からかなり離れた新居に四郎と葵は待っていた。
新居の間取りは全て板の間の4LDKだった。
この時代においてお屋敷と呼べる大きさだ。
「長秀様、是非ともお会いしたいと客人が待っております」
「わかった。長くは話が出来ないが良いか?」
四郎の目配せで葵が屋敷から出て行った。
「楓、白湯でも用意してくれ」
「漬物でも用意しますか?」
「直ぐにでも酒と肴の準備が出来ます」
四郎が口を挟んできた。
「ん!そうだな、酒にしよう。四郎が会わせたいと思う御仁みたいだからな」
暫くして葵が小柄な痩せた男を案内してきた。
「丹羽殿でありますか?我が名は木下藤吉郎と申します」
あ!信長が言っていた屋敷の周りをうろつく猿ね。
これは長い話になりそうだ。
「葵、屋敷に上がってもらいなさい」
予想していたのか、葵は既に足拭きを用意していた。
四郎が藤吉郎を俺の対面に案内してきた。
まだこの頃の長秀は上座に居て良いんだよな。
楓と葵が酒とつまみを運んできた。
「長秀様、この酒とつまみの干し芋は木下様が新築祝いとしてお持ちいただいた物です」
流石に耳聡い藤吉郎、新居の訪問者第一号ですか。
「長秀様に命じられた狸や猪の販路で木下様にご助力を頂きました」
「木下殿感謝致します」
四郎!藤吉郎の人たらしに落ちたな。
「丹羽殿は信長様直々に新居をいただいたとの事、元々は何処かの領主様でいらっしゃたのですか?」
「木下殿、命が大切なら俺の詮索はしない方が良いですよ」
「ですよね、四郎さん、葵さん」
「は!」四郎と葵はその場で平伏した。
「私は恐ろしいお方に会いに来てしまったようですね」
藤吉郎に緊張が走り回っていた。
「葵、木下殿に酌を」
「味方であれば何も恐れる事は無いし、安心ですよ」
「ただ敵や裏切りに対しては蟻のように踏み潰しますよ。グシャと」
俺は湯呑みを楓に差し出した。
「木下殿には四郎に命じた販路をお手伝い頂いたとか」
俺は話を変えてみた。
「木下様のご紹介で露店に売り上げの3割で卸す話を進めています」
四郎が口を挟んできた。
「売り上げの3割か?」
「では丹羽殿は売り上げの4割で」
俺の不満顔に藤吉郎が数字を上げてきた。
「3割4割は関係ないのだが、相当な量を卸す予定なのだ」
「売り上げと言った時点で捌き切れるか疑問なんだ」
「丹羽殿はどのぐらいの量を卸すお考えですか?」
藤吉郎が不思議そうに聞いてきた。
「最低でも毎日狸、鹿、猪、野ウサギなど合わせて10頭ぐらいかな」
「そんな量を獲ってしまうと直ぐに獲物が無くなってしまいます」
藤吉郎が声を上げた。
「それは清洲近くの事だろう」
「尾張、美濃、三河なら獲物が無くなる量だと思わないけどな」
「木下殿の取り分が売り上げの1割、俺が1割で熊が卸せる店を探して欲しい」
これなら買おうとする店が増える筈だ。
「丹羽殿、3日お待ち下さい。希望する店数を集めてみせます」
藤吉郎はキッパリと言い切った。
「長秀様、申し訳ございません」
「長秀様のお力を分かっていながら、この様な失態を演じてしまい」
今日は四郎と葵の平伏が終わらないかもしれない。
「いや、今回は褒美を与えても良い程の働きをしてくれた」
「四郎、今日木下殿にお会い出来て、俺は大いに喜んでいる」
「そうでしょう、木下殿」
藤吉郎さん、呆気に取られ固まっていますよ。
楓、お前もか!
「木下殿は小金を得るために、ここへ来た訳ではないからな」
やっと本題に移れそうだ。
「信長の直参がぽっと現れ、新居をいただくという厚遇を受けている」
「普通なら遠まきに見ているが、木下殿は飛び込んできた」
「近づきになればもっけもの、恩でも売れればしめたものでしょう」
俺は藤吉郎の顔色をうかかった。
「いや、丹羽殿そこまでは考えていないつもりですが」
藤吉郎さん、そんなに慌てなくていいですよ。
「利用するなら喜んでどうぞ、こちらもしっかり利用しますので」
「ただ利用するなら城持ちになる覚悟が要りますよ」
俺は藤吉郎に笑い掛けた。
「私が城持ちになれるのですか?」
藤吉郎は顔を突き出して驚いている。
「楓、四郎、葵もついでに聞いておけ」
「5年後10年後15年後に何が起こるか知っていれば、次に何をすれば良いか自ずと分かる筈だ」
俺は1人1人の顔を見つめた。
「来年、信長様が今川義元を討ち、松平元康が織田と同盟を結ぶ」
「織田が今川に勝つと!」
オイオイ、藤吉郎さん、そこで驚くの?
「木下殿、昨日俺と信長様の間で必勝の策が出来上がりました」
楓が何回も頷いている。
「先日、元康に会っているから同盟も出来る」
「丹羽殿は松平様にも会っているのか?」
今度は四郎と葵が頷いた。
「今川の次に信長様が考えるのは美濃であることは分かりますよね?」
藤吉郎は固まっている。
「美濃を取り、信長様は京へ向かう」
「木下殿、時の流れは理解しましたか?」
俺は藤吉郎の顔を覗き込んだ。
「丹羽殿、そんなに簡単に行くのですか?」
「簡単に出来れば褒美など貰えないでしょう」
「先に動けば難しい事も簡単になるかもしれない」
藤吉郎には難しい考えではない筈なんだけど。
俺は藤吉郎を見ながら干し芋に箸をつけた。
「では、丹羽殿は何故今狩りをなされるのですか?」
藤吉郎が熱くなってきた。
「1つは訓練。熊を倒せるようになれば戦も怖くない」
「1つはこれから戦場になりそうな所の下調べ」
「1つは配下の褒美や装備の為の金儲け」
「うーん?」
藤吉郎が腕を組んで考えだした。
「丹羽殿、教えて下さい。私は今何をすれば良いですか?」
「俺を助けてくれれば良いのですよ」
頭を下げている藤吉郎に俺は笑い掛けた。




