1. 季節と共に平穏な日々が変わりゆく
午後の日差しも近頃では過ごしやすい季節に差し掛かり、暖かな自室で早めの午後のお茶を用意するよう侍女のサーシャに伝えると、彼女が茶器の用意を運んで来る間
私、アリアンナ・キャセラックは、部屋に一人きりとなる。
扉の閉まる音が聞こえ、足音が遠のくのを待ってから改めて呼吸を整える。
(一昨日はもう少しのところまで出来ましたもの、そろそろ四つでも出来るはず……)
静かに深呼吸を繰り返していると、誰がいるわけでもない筆記机の引き出しが開き、紙とペンがふわりと浮き上がる。それと共に籠から編みかけのレースと編み棒が、小卓の上で刺繍針と布が、やはり同じように浮き上がりそれぞれの仕事を始める。
それぞれを目で確認をしてから、もう一度深く呼吸を整える。
(さぁここから、なお集中よ……)
髪に結んであるリボンがゆっくりと解け、宙にゆっくりと漂うとまるで意思があるように、ふわりとアリアンナの手首に巻き付き、綺麗にリボン結びとなるのを細い息を長く吐きながら見届ける。
「……っやった!」
三つ目までの魔力制御はそれなりに滞ることなく成長と共に会得出来たのだが、この四つ目、四つのことを同時にコントロールするのがなかなかうまく上達出来ずに今日に至っていたのだ。
この国には魔力を持った人が決して多くはないが存在している。その魔力の基本となるものは自然界から受け取る力で、火・水・風・土からなり、各々魔術として技を磨いていくことになる。
私は風属性の魔力を持っていて、日々少しずつ技の向上を図っているわけである。
「……遂にやったわ!……ふふっ、ふふふ……」
ささやかにガッツポーズをしつつ、心の声が漏れ出してしまっていたところへ勢いよく扉が開く音に瞬間的に振り返れば、独自に動いていた物たちが音を立てて落ちる。
茶器を載せたワゴンと共にサーシャが立っていた。
見られてはいなかったはず、と思いつつも何となく居心地が悪いような気がして両手の握りこぶしも慌てて後ろ手に隠す。別にこれまで魔術を使っているところを見せてないわけではないが、あくまで何となく、気分の問題である。
サーシャは私を一瞥すると無言でいつものようにお茶の用意をてきぱきとしていく。テーブルの上には見る間にカバーに覆われたポットやカップ、焼き菓子などが数種類並んでいく。お茶を注がれる頃には、私も小さく咳払いをして席に着く。
「……で。何がお出来になったんですか?」
「っ!あっつ!」
思わず口に運んでいた手をカップを持ったまま揺らしてしまい、口元に熱いお茶がかかる。
「……なんのぉ……ことかしら?」
カップをソーサーに置き、テーブルに戻すもやはり心の焦りか変なところで疑問形になってしまった。
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