青い箱庭で
真っ白な空間が遠ざかる。
そして意識が深淵や混沌を掻き分けて舞い上がる。
そこで、聞き覚えのある音を感じ、瞼を開ける。
それは、ハルカを呼ぶ者の声。
「……ハルカちゃん」
「………う……ぅ…ん…」
「ハルカちゃん、目が覚めた…?」
どうやら横たわっているらしい。
真正面に、覗き込むようなミナキの顔がある。
その手入れの行き届いていない髪は、ハルカの顔にギリギリつかない程度の長さだ。
聞き覚えのある声の正体は見覚えのある少女が発したものだった。
当然のことだが、今の彼女にとっては何とも言えぬ感覚。
見覚えがあると言ったって、これまでは髪に隠れて顔全体を見ることは出来なかったのだ。
そう言えば、小さな頃に読んだある絵本では、眠りについた姫を王子がキスで起こす…というものがあった。
ハルカはそんなことを思い出したからか、少しだけミナキに特別な感情を抱きかけた。
「…大丈夫だった?」
「はッ!!」
声をかけられて我に返る。
我に返った勢いで起き上がる。
ミナキはそれに反応して仰け反る。
運悪く…否、運の良し悪しは置いておくとして、ハルカとミナキは接吻するような形になってしまった。
「……むぐ…」
ハルカは狼狽えながらも、その姿勢を維持していた。
ミナキの頬が少し赤く染まったように見える。
やってしまったという激しい焦りがハルカの全身に槍のように突き刺さる。
ミナキは、そのままの姿勢である方向を指差した。
「……?」
ハルカは慌ててミナキから顔を離し、その方向を向いた。
向かなければ良かったなぁ。
そういうこともあるのだ。
恥をかいてこそ人生。
しかし、こんな恥のかき方は絶対に嫌だ。
まずハルカは、接吻状態となってから自分が保健室のベッドで寝ていたことを悟ったのだが、
そこで嫌な予感はしていたのだ。
でも、まさか嫌な予感が当たるとまでは思っていなかった。
「…………」
仲良し夫婦を見るような暖かい眼差しで此方を見つめているのは保健室の先生。
「………っ!」
ハルカは声にならない声をあげてベッドに倒れ込んだ。