上塗り・現場
ハルカとリョウジは共に学校まで戻ってきた。
「……もうあの子と関わるのはやめるんだぞ」
「……」
リョウジの忠告を無視して校門を通過する。
あれから長々説教されて、リョウジに対してそれなりの鬱憤があった。
「絶対関わるなよ!」
「うるッさい!!もうホントうるッッッさい!!!」
大声で叫ぶ。
しかし、リョウジはそのことについて咎めなかった。
・・・
「ナアヤ…絶対許さない!絶対絶対絶対…」
教室に戻りながらブツブツと呪詛を唱える。
どうやら休み時間らしい。
廊下を男子たちが走り回っている。
「邪魔!どいて!」
怒鳴り散らしてそれらを退避させる。
除雪車のように。
邪魔者をかき分けて教室まで戻る。
その途中―――。
「…あ、ハルカ。戻ってきたんだー」
後ろから呼び掛けられ…
「……ナアヤ!」
怒りに満ちた声で応える。
声だけで分かった。
ナアヤ。ナアヤ。許してはおけない女。
「な、何よ」
その威圧感に、流石のナアヤもたじろぐ。
「ナアヤ、毎日ミナキに何してるの!?
あのミナキの様子…どう見たっておかしいじゃない!」
「……へえ?」
問い詰められているのに、ナアヤは余裕の表情だ。
「…何?何でナアヤがそんな顔出来るわけ…?今の自分が置かれてる状況…」
「…を理解出来てないのはアナタよ、ハルカ」
「……え?」
…そこで思い出した。
厄介なことを。
そして理不尽なことを。
こんなどうしようもない外道に、恐るべきバックボーンがついているという事実を。
ナアヤはニヤッと笑って耳打ちしてきた。
「あー、解った?思い出した?所詮クラスのバカどもや弱虫教師どもは何も出来ないのよ、私に従うしかないの」
「…………ナアヤ……」
「みーんな、私に逆らえばどうなるかを知ってるワケ。
あーーーあ、ハルカの親はと言えば……フフフ。
吹けば飛ぶカスみたいなヤツでしょ?ちっぽけな島で先生やってた腰抜けでしょ?フフフ…」
―――その瞬間、ハルカの脳を電撃が走った。
そして耳に嫌な音が入ってきた。
グジャッ
何の音かは分からない。
…いや、訂正しよう。
分かりたくない。
だが、この場でこんな音がするとなれば―――
その音の正体は自ずと見えてくる。
「あ………ぁ…ぁ………あ、……ああ…ぁ…」
ハルカは声を失い、
廊下にいた生徒たちもその場に不似合いな沈黙に荷担していた。
誰一人として声を挙げなかった。
漆黒のカタマリから無数に伸びた触手のようなモノ。
それらがナアヤを貫いていた。
その目は、最後の力を…ありったけの生命を湛えている。
睨むように鋭く光る眼光がハルカを射抜く。
ハルカはそのまま、膝から崩れ落ちた。