拡散する、その先
ミナキはひたすら逃げた。
何かを抉られそうな感覚から。
何もかもを剥がされて、死んでしまいそうな感覚から。
漠然とした…しかし明確な恐怖から。
しかし、どれほど走った頃か。
ミナキは足を絡ませて転けた。
そして、土を思い切り飲み込んだ。
「かはっ、……うぅ…」
慌てて吐き出す。
そして…。
立ち止まったからか?
それともいきなり現れたのか?
ミナキは後方の気配に気づいた。
曖昧な気配。
しかし、何かが確実に存在するということを理解させるには事足りる程の気配。
「………?」
大きく、まるで自分の精神を体現したかのような恐ろしい気配。
「………誰…?」
『………』
ただ静寂が。
静寂という答えが。
しかし、それはその存在の異常性を証明するには充分すぎた。
ミナキは再び逃げ出す。
「……っ!」
しかし『気配』は消えない。
背中に憑依されているかのように。
若しくは同じ速度で走っているかのように。
『………』
その無言の恐怖は、振り向いて正体を確かめたいという衝動に勝っていた。
確認するのは一瞬だが、とにかくこんな山の中でそんなことをする勇気は、未熟で哀れな少女にはない。
彼女はひたすら逃げ続け、ついには何事もなく山を降りきった。
そして、何を思ったのか学校に戻った。