灰色コンベヤ
二人は学校を出て、路地裏まで逃げていた。
ハルカはミナキに手を引っ張られて抵抗こそしなかったものの、これからどうするつもりなのかという不安があった。
「……ミナキ…ちゃん…」
「…ハルカちゃん、ナアヤと関わっちゃ駄目…。
ナアヤに何か言われても…ハルカちゃん、絶対反応しちゃ駄目だよ…」
「どうして?あんなの放っとけないよ!」
ハルカはミナキの真意が分からなかった。
ただただ負け犬のように全てを受け入れるべきだと言っているのか
それとも別の意図があるのか。
ミナキは俯いて小さな声で答えた。
「ナアヤの親は…地方の議員なんだって…。
だから、ナアヤが私達に何かしてきても、先生は何もしてくれない」
ハルカは否定しようとした。
そんなの間違っている、と。
しかしそこで、学校のチャイムが鳴った。
どうやら授業が始まってしまったらしい。
「ねえ、ハルカ……さっきは私を助けてくれたんだよね。
ありがとう…ハルカ」
「…困ってる人を助けるのは当然でしょ?」
「皆はその『当然』のことさえしてくれないもの…」
ミナキの言葉にハルカは何も返せなかった。
当然だと思っていたこと。
それを、誰も行わない。
そういう環境に置かれた少女に対して、ハルカがかけてあげられる言葉はもうなかった。
「ねえ、ハルカ。学校なんて行く意味あるのかな…。
道徳を勉強してもいじめはなくならない。先生は口だけで助けてくれない。
勉強さえ出来れば、誰かをいじめても褒められる。
歪んだことがあっても、誰も正そうとしないんだもの…。
学校なんて、消えてしまえば良いのにね…」
尚更。
尚更かける言葉がなくなってしまった。
同時にミナキの心の闇を晴らしたい、という気持ちもあった。
だが、もう戻れない。
ハルカは今になって後悔した。
あの時、無理矢理にでもミナキを制止しておくべきだったと。
そうすれば、自分がナアヤにいじめられるだけで済んだのだから。
「ごめんね…」
ハルカは消え入るような声で呟いた。
ミナキには、その声は届いていなかった。