プロローグ
初投稿です。
安定するまで時間がかかると思いますが、よろしくお願いします!
「おぎゃあ、おぎゃー」
薄暗い部屋に赤ん坊の声が響き渡る。
「女ですよ、コレ。」
その赤ん坊を抱き上げ、タオルに包み羊水を拭いている男性が言う。
「・・・コレとか言わないでくれる?『カワイイ女の子でしたよー』みたいな気の利いた事言いなさいよ」
タオルに包まれた子を渡された女がその子を抱きながら疲れた表情で言う。
「そんなん俺に求めんで下さい。助産師の真似事なんぞ初の試みなんですからね、コッチは」
「その割には随分と手馴れていたじゃない」
「そりゃあ、失敗なんぞしたらあんたにブッ殺されちまいますからねぇ。事前知識くらいは詰め込んでいますよ」
「別に殺しはしないわよ、無理言ったのはこっちだし。私のこと何だと思ってるの?」
「えっ」
「えっ?って何よ」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
男性がキョドった瞬間、女は唖然とし赤ん坊を抱き直した後、穏やかな視線を冷や汗をかきながら無言で突っ立ている男性に送った。そして女が優しい笑顔で口を開こうとした時、
『ガチャ』
扉が開く音が聞こえた。
冷や汗をかきながら男性はこれ幸いと扉の方向に顔を向ける。赤ん坊を抱いている女は視線はそのままに意識だけ扉に向けた。
「・・・産まれたようだな」
扉を開けて入ってきた男は女には近寄らず、その場に立ちながら無表情で言う。冷や汗をかいていた男性は入ってきた男を認識すると目を伏せ拱手をして佇んだ。
「ええ、産みましたよ。あなたと私の間に産まれた可愛い女の子です」
女は入ってきた男を一瞥だけして赤ん坊に視線を戻しながらいった。
「そうか。それで、お前は俺に何を望む?お前なら俺に知られずに産む事だって出来ただろう」
男は表情を変えずに問う。
「分かっているくせに。つまり、それが答えです」
女は赤ん坊をあやしながら、男に視線を合わせ答えた。
「自らいばらの道を進むのか」
男と女の視線が交差する。
「私にはもう時間がありません。あとはこの子に託します」
「お前の思い通りになるか分からないぞ」
「それで良いのです、この子の人生ですもの。まあ、方向性くらいは考えますけど」
「そうか」
男はそれだけ言うと女のいる方へ向かい歩き出す。そして女の前で立ち止まると女が抱いている赤ん坊をまじまじと見た後、数秒考えるような仕草をして口を開く。
「麗月だ」
女は軽く目を見開き、直後男の顔を見上げ可憐に微笑んだ。
「麗月ですか。和国語だと麗月ですね」
「ああ。それではお前の望み通り手続きはこちらで行う」
「ええ。頼みます、寂海」
「これから面倒な事になるぞ。覚悟しておけよ、結羽凛」
「あら、誰にものを言っているのかしら?」
結羽凛は麗月を大切に抱きなら不敵に笑っている。それを見た寂海は無表情ながらも、優しい眼差しを彼女に向け、扉へと歩いていく。
「あとは頼んだぞ、浩然」
男は行き掛けに今まで拱手をしていた男性に視線をやり言った。
「知道了」
浩然と呼ばれた男性は了解の意を伝え、腰を折る。
「それでは、結羽凛様。私も麗月様に必要な物などを準備して参りますのでこれで失礼いたします」
浩然はそのまま結羽凛の方へ向き直り一礼した後、部屋を出た。
「ええ、お願いね」
扉の閉まる音が聞こえると、薄暗い部屋には女と赤ん坊が残された。
結羽凛は麗月の手を優しく握る。
「ごめんなさい」
結羽凛の吐いた言葉は闇に溶け誰にも届く事はない。