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六節 「It is no use crying over spilt milk.」

「いつまでそうしているつもりだ。そろそろ行くぞ」


 ウィリアムが、依然座り込んだままのジェームズを促す。


「……ああ、そうだな。悪い」


 ジェームズは、自分に身を預けていたキースの遺体を床に下ろし、立ち上がった。


「――じゃあな、キース」


 最後の言葉は、スタッフルームに虚しく響いた。



「だけど、ここからどうするんだい? 外はゾンビだらけだよ」


 レイが不安げに扉の方を見ながら尋ねる。既にその背中には、エイミーを背負っていた。


「そんなもの……強行突破しかないだろ」


 ウィリアムは当たり前の事だと言わんばかりに、ゆっくりと扉へと近付いてきた。



 まずい。



 僕の本能が警鐘を鳴らす。


 とは言え、僕の身体は後ろから迫るゾンビ達に押され、身動きを取ることは出来ない。


「行くぞ、クソガキ。構えろ」


「……ああ」


 ウィリアムは扉の目の前で拳銃を構え、ジェームズはその隣で鉄パイプを持ち上げる。



 ――カチャリ、と鍵の開く音がしたのと、勢いよく目の前の扉が開くのはほぼ同時だった。



 轟音と共に開け放たれた扉に、僕と背後のゾンビ達は弾き飛ばされる。


 吹き飛ばされながら、扉を蹴り開けたのと同時に射撃体勢に入るウィリアムの姿が目に入った。



「行くぞ! 足を止めるなよ!」


「おう!」



 入口付近に残るゾンビを、ウィリアムとジェームズは次々と倒し、道を作り出す。


 そして彼らに続くように、シンディーと、エイミーを背負ったレイが駆け出して行った。


 僕と一緒に弾き飛ばされたゾンビ達も、我先にと立ち上がり彼らを追う。


 しかし僕は、とりあえず一旦倒れたまま彼らが去って行くのを待つことにした。



 ――僕にはまだ、やることが残っているのだ。



  ***



 僕はたおれて行ったゾンビ達の海からゆっくりと立ち上がり、スタッフルームの中へと向かう。


 床には、深い眠りに就くキースの遺体が横たわっていた。


 彼はここまで懸命に生き、そしてジェームズ達の支えとなって来た。


 ところが、現実はどうだろう。


 無残にも意思無きゾンビの毒牙にかかり、今となっては自分が大切にして来た、そして自分を大切に思ってくれていた仲間達の手によって、こんな薄暗い駅で最期を遂げてしまった。



 ――そして、その責任は僕にある。



 僕は傍にあったデスクの上に、ずっと握り締めていた紙を広げ、その内容を注視する。紙の皺が酷い部分には、もう片方の手で握っていた石を文鎮代わりに載せ、無理矢理平らにした。


 薄暗い部屋ではあるものの、外から射し込む僅かな光で、それがこの駅の構内図である事が分かった。


 そんな中、ぱっと目に付くのは手書きでぐるぐると囲まれたある地点。


 そのすぐ側には何かメモが書かれているが、何が書いてあるかまでは分からない。これは部屋の暗さや文字の丁寧さが原因と言うよりは、僕の脳内の識字能力に関わる部分が欠損しているためにアクセス出来ないようだ。



 もう一度、キースの方を振り返る。



 思えばこの構内図と石は、キースの遺体の傍に落ちていたものだ。順当に考えれば、これらは彼の遺品だと言う事になる。


 彼が何のためにこんな物を持っていたのかは分からない。


 この構内図上の丸で囲まれた部分に行きたかったのか、それともそこに何かを置いてきたのか。


 石は彼にとって誰か大切な人から貰った形見だった可能性さえある。



 ――何にしても、これは贖罪だ。


 構内図の紙と黒い石を再び手に取り、キースの遺体へと向かう。


 僕はそのまま彼の遺体の両脇に腕を通し、生身の時より少しばかり強くなった腕力で、その身体を持ち上げた。



 こんなどこだか分からない場所より、少しでも君が興味を持った場所で眠らせてあげよう。



 僕は彼の遺体を、スタッフルームからずるずると引き摺り、目的の場所へ向かう。


 体力に限界はない。時間に限りもない。


 ――それなら、ゆっくりでいい。


 彼が眠るべき場所へ、送り届けよう。



 撃鉄を起こす時、僕が頭に浮かべたのは、キースの尊厳を守ったウィリアムの拳銃だった。

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