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十九節 「三日目(iv)~犯人はここにいる」

「見立て殺人がトリックだって? あれは、事件を亡霊の仕業だと思わせるための演出だったんじゃないのか?」


 康介は、明彦の推理に疑問を呈する。僕もてっきり、あの演出に大した意味はないものだと思い込んでいた。


「もしかしたらそう言う意図もあったかもしれないけど、犯人もそんな子供騙しが通用するとは本気で思ってはいないさ。あの見立ては、もっと巧妙な印象操作を行うために必要な事だったんだ」


「印象操作? 亡霊以外に何の意味があるって言うの?」


 佐織も、明彦の言わんとする事が予想できない様子である。この場にいる全員が、明彦による解答を待っていた。


「犯人はインパクトのある死の状況を用意する事で、遺体が損傷している本当の意味を気付かれないようにしたかったんだよ」


「遺体が損傷している……本当の意味?」


 あかねが、明彦の言葉を繰り返す。


「そうさ。塚原さんと長谷川さん、2人の遺体が吸血鬼伝説に見立てられた状態で発見された事で、ボクたちの中には『遺体は吸血鬼伝説になぞらえた状態で見つかる物』と言う認識が、刷り込まれていたんだ。そうする事で、今朝の炎上した遺体を目にしても、『倉橋さんは吸血鬼が日の光に灼かれて死ぬという伝説になぞらえて死んだ』という認識で思考が止まってしまうように、犯人は仕向けていたのさ」


「でも、実際に倉橋さんはその伝説の通りに炎上して死んでたじゃないか」


 明彦の言っている事は確かに的を射ているようだが、結局の所、今康介が言った事が全てだ。僕たちの認識がどうであれ、桂太が広場の真ん中で焼かれて死んでいたという事実は変わらない。


「いや、だからそれが印象操作なんだ。そもそもの前提として、あの遺体が絶対に倉橋さんの物だと断定できる人が、この中にいるだろうか?」


 明彦が言わんとする事を、徐々に皆が察し始めた。


「いや、でも……あれは倉橋さんの服だったし、背格好も似ていたから……」


 康介が反論を口にする。しかし明彦は、かぶりを振ってそれを否定した。


「服なんて着せ替えればいいし、あれだけ真っ黒に炭化していたら背格好なんて物はあてにならないよ。この島の現状では遺体を詳しく調べる方法もないし、あれが倉橋さんだという保証はどこにもない」


「でも状況的には、桂太さん以外あり得ないじゃない! 生きている中で欠けてる人はいないし、遺体を使おうにも死んだ人は皆ここに納棺されてるのよ! だったら、一体この焼死体は誰だって言うの!」


 佐織が叫びながら、桂太の遺体だと思われる焼死体が入った棺を指差す。



「それは……キャプテンだよ」


「キャプ……テン……?」



 キャプテン?



 ――え、僕?



「おそらく初めは長谷川さんあたりの遺体を使う予定だったんじゃないかな。だけど、ボクが遺体の納棺を提案したから、当初の予定を変更せざるを得なくなったんだ。キャプテンの方にしても、彼は何故か島に残ると言い出したから、犯人にとっては相当目障りだったはずだ。おそらく初日の昼にはもう殺していただろうね。こうして、代用となる遺体を偶然手に入れていた犯人は、一石二鳥とばかりに彼を遺体すり替えのトリックに利用したのさ」


 あれ、じゃあ僕のせいで封殺しかけたトリックが息を吹き返したって事になるのか? 序盤の安易な選択のせいで、まさかこんな事になるとは予想だにしなかった。


 少しだけ、申し訳ない気持ちになる。


 それにしても、首を絞められた上に、心臓に杭を突き立てられて炎上までさせられるなんて、僕は何と言う末路を辿っているんだろう。前世でそんなに悪い事をしたのだろうか。



「ここまで話せば分かるとは思うけど、犯人は倉橋圭太だ。彼はまだ生きている。そもそも遺体すり替えのトリックなんて、推理小説では既に使い古されたトリックなんだ。顔の無い遺体が出て来た時点で、ボクは倉橋さんがおそらく犯人だろうと、完全に目星を付けていた。そうすると塚原さんの事件にあった不自然な状況も、確実にトリックだと分かる。彼のアリバイは、塚原さんの事件以外では存在しないからね。あとは考えられる手法を、順を追って組み上げるだけだ」


 明彦は、犯人を倉橋桂太であると断定した。一連の事件を起こしたのは、死んだと思われていた桂太だった。


「じ、じゃあ、桂太さんはまだこの洋館の周辺で生きたままうろついているって事? 捕まえるにしても、一体どうやって探し出すのよ!」


 佐織が焦ったように言葉を並べる。対する明彦は、もの悲しそうな顔で冷静に答えた。


「そうさ……そうなんだ。だからこそ、この元木君の事件はボクにとっても失態だった。進藤さんが彼の監禁を提案した時、ボクはそれが彼を守る手段にもなると思ったんだ。状況からしても次に襲われるのは彼だろうというのは予想できた。ワインセラーには入り口が1つしかないから、ここで見張っている限り彼は安全だろうと、たかを括っていたんだ。だけど、彼は殺された」


「おい、だったら一体倉橋さんはどうやって元木を殺したって言うんだよ」


 康介が明彦に言葉を返す。流石の康介も、段々と状況が理解出来てきたようだ。


「そう、元木君がこの状況で殺された事……皮肉にも、それが倉橋さんを見つけ出す手段になった。考えられる可能性は1つしかない」


 明彦は、一呼吸置いて続けた。



「倉橋桂太は、今もこのワインセラーにいる」



 その場にいる、全員に戦慄が走った。


 桂太が今もこのワインセラーにいる? しかし隠れられそうな場所はない。一体どこにいると言うのだろうか。


「ここまでのボクの推理が正しければ、おそらくこの部屋には隠し部屋があるはずだ。キャプテンが話していた吸血鬼伝説の最後に、館の主人と島の青年をこの洋館のどこかに弔ったと言う話があったのを覚えているかな? おそらく、その遺体が安置されている場所こそが、このワインセラーから繋がる隠し部屋なんだ」


 話しながら、明彦は優の手元に落ちていた銃を拾い上げた。


「お、おい、明彦! 一体何を……!」


「別に撃とうという訳じゃないさ。まあ、見ていてくれ」


 焦る康介を横目に、明彦は銃口を石造りの壁にコツコツと当てながらワインセラーを歩き始めた。


 一同も、彼の行為を見守ることしか出来ない。


 壁を叩きながらゆっくりと歩き続けていた明彦は、部屋の左奥の壁際でぴたりと立ち止まった。その後、手の平を壁に翳した状態で、上下左右に揺れ動かす。


「風が抜けてるね。おそらくここだろう。康介。この辺りの壁が開かないか、試してみてくれないか」


「壁が? いやいや、どうやって開けろって……」


 康介が半信半疑で壁に触れる。


「お、何だ。取っ手みたいなのがあるじゃん」


 康介は壁の一部に手を掛けると、襖戸のように横へがらがらと引き開けた。見た目に反して重くも無いようで、康介は片手で楽にスライドさせている。


「君の運の良さには敬服するよ。適当に手を当てた場所が正解だなんて……」


「日頃の行いが良いからじゃね?」


 呆れる明彦に対し、あっけらかんと笑う康介。


 皆は、一様に開いた壁へと向かった。



 康介が開けた壁の向こうには、ワインセラーより一回り小さい、石の壁で囲まれたそう広くない空間が広がっていた。


 電気は通っていないのか、壁に設置されたいくつかの燭台に灯される蝋燭だけが、中を薄暗く照らしている。


 部屋の奥には木造りの古ぼけた机があるが、何よりも目に付くのは、部屋の中央に並べられた2つの棺だった。


 そして向かって右側の棺には――。



 ――倉橋圭太が、自嘲するような表情を浮かべ、腰掛けていた。



「さあ、これが真実だ」


 明彦は誰に言うでもなく、ぼそりと呟いた。

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