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序 「前日譚~天才は高らかに笑う」

 北風が吹き荒ぶ校舎の屋上。少女は校庭で部活動に勤しむ生徒たちを眺めていた。


 彼らが追い掛ける青春や日常を思い、少女の胸中は掻き乱される。


 ――私には、手に入れることが出来なかった。追い求める事さえ、許されなかった。


 彼女を追い詰めた部員たち。彼らの悪鬼の如き笑い声が、耳にこびり付いて離れない。


 もう、やめたい。もう、終わりたい。


 そう決心した彼女は、おもむろに屋上の柵を乗り越える。


 思い出されるのは、ある人物の顔。彼女にとって、最も大切な人。


 あの人に、悲しい顔をさせてしまうのは心苦しい。あの人は、自分を許してくれるだろうか。



 ――だけど、ごめんなさい。



 意を決して、彼女は夕暮れの空へ飛び立つ。その身体は浮き上がるはずもなく、重力に従って遠い地面へと吸い込まれてゆく。


 校庭のどこかから、悲鳴が響いた気がした。しかし、彼女の中で最期に響いたのは、やはりあの人の優しい声だった。


 自らの終焉おわりを前にして、彼女は乞う。


 

 どうか、私を恨まないでください――。



  ***



「映画の撮影アシスタント? 何でボクが」


 弥勒院みろくいん明彦あきひこは、心底億劫そうな声を上げた。


「頼むよ、明彦! 今回はサークルで結構大掛かりにやるんだけど、人手が足りなくてさ。どうか、この通り!」


 講義室で頭を下げるのは同学科の友人、五十嵐いがらし康介こうすけだ。


「いくらキミの頭が下げる事にしか特化していないとは言っても、ボクも暇じゃないんだよね」


「そこを何とか!」


 辛辣な明彦の発言にも怯むことなく、康介は食い下がる。明彦のこのような態度に初めは康介も戸惑ったが、何度も繰り返す内に完全に慣れてしまっていた。


「はぁ……まあ、微塵も関心は無いんだけど、一応訊いておくよ。撮影するのはどんな映画なんだい?」


「お、興味湧いてきた?」


「湧いてないよ。キミの耳には蛆虫が湧いているようだけど」


「はは、何とでも言え。お前を連れて行けるならどんな下賤げせんな生物にむしばまれようとも、甘んじて受け入れる覚悟だ」


 康介はしゃんと立ち上がり、今回の企画の説明を始める。


「まず、撮影するのは吸血鬼を題材にしたホラー映画だ」


「吸血鬼ねぇ……」


「それで、ちょこっとラブロマンスなんかも混ぜ込んだりして」


「いかにも面白くなさそうだ」


 明彦の発言に腰を折られかけるが、康介は話を続ける。


「それで、その撮影っていうのを実際に吸血鬼伝説の残る孤島でやるんだ! どうだ、面白そうだろう! ワクワクして来ただろう! 行きたくなって来ただろぉ~!」


「そうだね。じゃあボクは執筆の続きがあるから、残りはご自慢のスマホ内蔵AIにでも聞かせてあげてくれ」


 そそくさと荷物をまとめ、帰ろうとする明彦。明彦は出不精だった。


「おいおいおい! そりゃないぜ、明彦! 頼むよ! 一生のお願い!」


「ボクが耳を傾けるほどキミの人生に価値はないよっ……! さあ、その手を離すんだっ……!」


 力強く明彦の左腕を掴む康介。どうにか力ずくで逃れようとする明彦だが、その身体はびくともしない。明彦は非力だった。


「頼むよ、明彦! ちょっと謎めいた展開とかもあるから、是非、是非にと! 天才ミステリー作家のmiroku(ミロク)先生のお力をお貸し下さいと! そう頼んでいるのでございます!」



「……天才? ボクを天才と呼んだか、凡才」



 突如、身体の力を抜く明彦。その場にぴたりと立ち尽くしたかと思うと、満面の笑みで康介の方を振り返る。


「ハハハハハッ! 何だ、そういうことならもっと早く言ってくれれば良かったんだ! よかろう。この超絶天才推理小説作家、ゴッド『miroku』こと弥勒院明彦が、キミに協力してあげようじゃないか! ハッハッハッ!」


 掴まれていない右手で、激しく康介の肩を叩く明彦。康介はこうべを垂れ、声を震わせながら感謝の言葉を漏らす。


「ありがとうございますっ……! 先生! ありがとうございますっ……!」


「いいんだ、いいんだ! ハッハッハッ! キミたちのような凡才に、この天才的頭脳から呼び起こされる天才的閃きを享受するのも、また天才の務めなのだよ! ハッハッハッ!」


 ご機嫌で快諾する明彦の声を頭上に受けながら、康介は思った。



(――やっぱこいつチョロいわ)

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