表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/66

序 「灼熱に囲まれた洞窟にて」

(承前)


 傍を流れる溶岩の川が、絶えず火の粉を噴き上げる。既にハルバートの自我は虚無へと飲まれ、狂気を孕んだその眼光だけが確実に敵を捉えていた。


 彼が右手に握るつるぎは、そこに意思が有るかの如く、ただ獲物を屠らんとゆらゆら揺れ動いている。


「お前の運命はここまでだ」


 ハルバートはぼそりと呟いた。しかし彼のその小さな言葉も、しんと静まり返った洞窟の岩壁には、反響して伝わる。


「ククッ……。貴様の中に眠れる獅子が……ようやく目を覚ましたか。いや……ここは『竜』と言うべきかな……」


 無様にも腹部から大量の血を垂れ流したヴェガは、地に伏せ息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。もう最期おわりは近い。しかしこの状況でなお、かの悪魔の口角は吊り上がっていた。彼は、羅刹と化したハルバートに歓喜さえしているかのように、歪んだ笑みを浮かべている。


「黙れ」


 ハルバートの右手が振り上げられる。最早彼には、ただ目の前にいるこの悪鬼を消し去ること以外、全てが些末なことであった。


「ハルバートさん! 何か変です! 一度回復を……!」


「よせ、エミリー! ハルバートに近づくな!」


 テオボルトの静止を振り切り、ハルバートに駆け寄るエミリー。


「邪魔を……するな!」


 エミリーの華奢な身体を、ハルバートの剣が無情にも切り裂く。


「うっ……!」


「エミリーッ!」


 鮮血を噴きながら倒れ行くエミリーの元へ、疾走するテオボルト。


「そんな……!」


 仲間の狂気を目の当たりにしてさえ何の選択もできないセリアは、唯々《ただただ》この凄惨な現実を眺めていることしかできなかった。その唇は噛み締められ、頬には溢れ出す悲しみがつたう。


「ハッ……クハハハハハ! 見よ、これが貴様の本質だ、ハルバート・クロムウェル!」


 その光景を目にし、哄笑こうしょうするヴェガ。しかし殺戮者へと堕ちたハルバートに、湧き起こる感情など何もない。


 勇者とは、ただ邪悪を殺すのみ。



 灼熱で満たされた洞窟は、悲しみのあかに染まる――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ