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「まず初めに、声があった」
「汝、傍観者たれ」
意識を手に入れた僕の中に、ひとつの声があった。視界は全面を白で覆われ、自らの存在だけをそこに感じる。
「汝、干渉することなかれ」
再度、声が告げる。僕という存在の定義を想起しようとするが、即座にそれは無意味なことに思えた。
「ただし汝、ただ一度のみ干渉せらる」
声は告げる。この声を振り払い、ただ茫漠と思慕する日常へ帰るのは、そう難しいことでもないのだろう。
僕は答えた。
「まあそうして欲しいって言うなら、やりはするけど……」
――刹那、僕の意識は闇へと落ちる。
今にして思えば、こんな安請け合いをしなければ僕はもう少し幸せな道を歩めたのかもしれない。僕の脳内で100人の僕がこの件に関する是非を議論し始めたが、その会議は0.2秒で決着した。
「「「まあいっか」」」
全会一致。討議終了。
――結局のところ、何人いようが僕は僕だった。