表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

こちら竜殺し、転生したら愛妻が魔王(ガチ)なんだがどうすりゃいいんだよ

作者: 古坂意之

舞台に関して細かい事を考えてはいけません。

古代ドイツのその後イフ兼なんかよくある勇者ものの世界だと思ってお読みください。

 

「……えっ?」


「ですから、勇者として、魔王クリームヒルトを討伐してください」


「…………えっ??」


  俺には所謂前世の記憶というものがある。この時点でかなり痛々しいのに、更に痛々しいことにその前世はかの竜殺し・ジークフリートだ。

  ……うん、何言ってんだこいつって思うよな。俺もそう思う。だが残念ながら事実なんだよ。背後からグサッと殺られて意識が途絶えた所まで記憶もきっちりある。一つ文句を言わせて貰うと、こういうのにありがちな『死んだきっかけの前後は記憶がない』の方が絶対に良かった。考えてもみろ、自分が死んでいく感覚って発狂ものだぞ?お陰で今世では後ろを振り返る癖が付いてしまった。

  でもクリームヒルトに会えたからあの人生は嫌いじゃないし、思い出せてよかった。ほんとに、彼女は可愛すぎた。天使かよ。いや天使じゃ足りない。愛してる。はっきり言ってクリームヒルト分不足してるから一刻も早く会いたい。

  前世は王族だったが、今世は貴族……といってもそんな大層なものではなく、田舎の子爵家の次男に生まれた。名は相変わらずジークフリート、通称ジーク。記憶が戻ってからは「そのまんまだなオイ!」とツッコミを入れたくなる。なんでも「竜殺し」の英雄にあやかって、だそうだ。しかし、今世の俺は権力闘争に巻き込まれない上家を継ぐ必要もない立ち位置で、おまけに兄も真っ当な人物、安心して家を任せられる。最高だ。俺はどう考えても権力者には向いていないという事は前世で嫌という程思い知ったので、この立ち位置は非常に助かる。

  俺が自分の前世を完全に思い出したのは3年前、12歳の頃だが、物心付く前から薄らと記憶はあった。それ故に妙な事をする時もあったが、両親はそれを受け流してくれていた。感謝しかない。

  最初にはっきり既視感を覚えたのは、剣術の稽古中。初めて剣を握った筈なのに「体が重い」と違和感を持った事だった。毎日のように剣を振り己を鍛えていた前世と違い、未発達な体で自分より大きい剣を無理矢理振るっていたのだから、そう感じるのも当然だけど。その後も似たような事が幾度もあり、不安に思っていたけど、前世を完全に思い出した事で落ち着いた。

 前世を自覚したきっかけは、吟遊詩人が歌っていた前世の自分に関する伝説を聞いた事だった。偶々都市に出ていた時に耳にして、驚いたものだ。何せ聞いた事がない話なのに先の展開が分かるものだからぞっとした。そうして記憶を取り戻す取っ掛かりを掴んでからはとんとん拍子で、12の時にはすっかり俺はジークでもあるが「ジークフリート」に戻っていた。

  まあ、その後は、うん。

  そりゃな、「竜殺し」に一般人が敵う訳ないよな、無敵ではないとはいえ。そもそも無敵になったの竜殺した後だしな。

  いつの間にやら「天才」だの「若き剣聖」だのと祀り上げられ、おまけに「勇者」まで付いて来た。

  この時点でな、既に嫌な予感はしてたんだよ。まーた権力闘争に巻き込まれそうだなって。

  だから魔王討伐って聞いた時、正直「よっしゃ」って思った。周りはめっちゃ心配してくれたけど、そんな事より王都から離れられるのマジ万歳、って感じだった。

  それに、クリームヒルトも生まれ変わってたら、魔王城までの旅路で会えるかもと思ったしな。


 ――で、コレ。


「魔王、クリームヒルト……ですか???」


「はい。ジークフリートの伝説に出て来る、魔王クリームヒルトです」


「生きてるんですか?????」


「歴史上は斬り殺された事にして隠蔽してますけど、死後割とすぐに執念で魔族化して周囲呪い殺してます」


「え???????」


「その後当時の魔王始末して王権奪ったみたいですね。それ以来人間と全面戦争してます」


「はぁ……?????????」


「母国からジークフリート様のご棺と愛剣のバルムンクと結婚祝いの諸々だけはかっさらってったと聞いています」


「わ、分かりました……?」


「こちら勇者として旅立たれる方にお渡ししている『勇者セット』になります。それとこちら『勇者証明書』と勇者優待一覧です」


「ありがとう、ございます……?」


「行ってらっしゃいませ」


「……行ってきます」


  謎だ。謎すぎる、でもクリームヒルトに会うのが先決だ。つかこの『勇者セット』少なすぎじゃないか、優待考えるにしても――とまあ、こんな調子で俺は一人旅立った。





  それからおよそ1年。

  うん、どいつもこいつも骨がなさすぎだな。というか時代の経過と共に剣術退化してるな。そりゃここまで来れる奴が少ない訳だよ。

  という事で、着きましたよ魔王城。

  あの頃はお伽話扱いされてたけど、クリームヒルトが全面戦争仕掛けたから認知されたらしい。

  ……ダメ元だけど、やってみるか。


「……クリームヒルト、今来たぞ!」


「えっそっえぁっなっジークフリート様ぁぁぁぁぁぁ!」


  上から黒っぽい塊が降って来るのが見えたので、慌てて抱き抱えると、それはもう相変わらず天使……いや女神……いやそれ以上に可愛い、俺の(ここ重要)クリームヒルトだった。


「ジークフリート様、どうして……」


  涙で瞳を潤ませて、俺の腕の中から訊いてくるクリームヒルト。あー、可愛い。


「俗に言う生まれ変わりって奴だ。記憶戻してここまで来るのに16年かかったけど。遅れてごめんな」


「酷いです、でも、また会いに来て下さっただけで、私はぁぁぁぁ」


「泣くなって、な?」


「ひっく、うぅぅ」


「よしよし」



「……お見苦しい所をお見せしました……」


「俺のために泣いてくれたんだろ?夫冥利に尽きるよ」


「まだ、私の事を妻だと思って下さるのですか?」


「当たり前だろ。俺が死んだ後、随分無理したみたいだな。ほんとにごめんな」


「いいのです、平気でした!」


「ところで、何で黒服なんだ?黒を着てるクリームヒルトを見るのは初めてだけど。黒も似合うな」


「……喪中、なのです。ジークフリート様の。もうずっとですけど」


「……そういうのは反則だろ……」


「ジークフリート様、突然ぎゅってするのも反則です!」


「クリームヒルトはさ、俺が偽者とか、騙そうとしてるんじゃないかとは思わないのか?」


「私が、ジークフリート様の事分からないはずがないでしょう?今まで何度か偽者も来ましたけれど」


「……そっか、お前ほんっと可愛いなぁ……」


「ジークフリート様の方がかっこいいです!」


  そんなこんなで再会を果たした俺とクリームヒルトは、即座に停戦協定(とは名ばかりで、永続なので実質終戦協定)を締結させた。討伐とは言われたが、書類見たら「戦争終わらせろ」って事らしかったし。こんな可愛い魔王倒せるか馬鹿。

  そしてその後、クリームヒルトから驚きの真実を知らされた。


「魔族って、想いの力や魔法の力、幻獣とか竜とかの力によって変質して、強く、長寿になった人間やその子孫なんです。弾圧されて殺され掛けてたの見て、ジークフリート様の事思い出したので、色々復讐しようと思って人間に戦争吹っ掛けたのですが。それで、魔族も人間と子供作れるのではないか、と……」


「頼む、俺の理性が持たないからそれを恥じらいつつ上目遣いで言わないでくれ」


  戦争が終わった事で、若干の差別意識は残っているみたいだが世界は平和になった。そして俺は、当然ながら――


「やっぱり、クリームヒルトは本当に可愛いな」


「ジークフリート様も、今日もとってもかっこいいです!」


  うん、籍入れました。それと子供生まれました。前は……な。この子は意地でも俺が守るけど。

  今日も俺の愛妻が最高に可愛いのでもう何も文句ない。






 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  条約締結後、勇者ジークフリートが魔王クリームヒルトを娶ったのは余りにも有名である。一目惚れ、政略結婚など様々な説が飛び交っているが、戯曲などでよく使われるのは「勇者ジークフリートは竜殺しジークフリートと同一人物である」という説だ。最も、勇者ジークフリートは出自が明確であるため大変ロマンチックな話ではある。しかし、そうとしか思えない程二人の夫婦仲は良好であったと伝えられている。

  二人の仲睦まじさを思わせる逸話として、こんな物がある。

  「条約締結直後、人間側にはまだ魔族に対する差別意識が根強く、ジークフリートに対し嫌味を言う貴族も多かった。しかし彼はそういった者に対し、柔らかな笑みで妻の愛らしさについて語ったという――半日に渡って。

  また、魔族の中でも人間に対する不信感が残っている者が多く、ジークフリートを信じていいのかとクリームヒルトに進言した者も多かったらしい。しかし彼女はそういった者に対し、天使の如く微笑んで夫の素晴らしさを説いたという――半日掛けて。」

  また、ジークフリートは妻に代わり各国に謝罪して回ったが、どの国もあっさりと和解を受け入れたのはジークフリートに力を行使される事を恐れていたからだという逸話もある。とにかく、二人は規格外の夫婦であったことは間違いない。



  ―**氏による歴史に関する手記より抜粋

ちなみに、元ネタの「ニーベルンゲンの歌」はラブストーリーありの王道騎士文学に見せ掛けて最愛の夫を喪った姫による復讐劇っていうとっても面白い代物なので、是非とも読んでみてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ