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最弱種族に革命を!  作者: 滝原秋真
第一章 兎人族編
9/12

不登校生徒!?

「てぃやっ!」


「ほれ、そこガードが甘いぞい!」


「うわっ!」


早朝六時頃、俺とワイズさんは日課となった組み手をしていた。

ワイズさんとの修行ではだいたい素振りと組み手がほとんどだ。

技みたいなものを教えてもらったり、ましてや魔法教えてもらったりなんてこともない。

というか異世界というのに、一度も魔法を見たことがない。

まさか、存在しないのだろうか。

訓練の休憩中、俺は思い切って聞いてみることにした。


「ワイズさん、魔法ってご存知ですかね?」


「?当たり前じゃろ。魔法がどうしたんじゃ」


おぉ、魔法を知ってる!!

ひとまずこの世界に魔法という概念があることは確認できた。

だがもしかしたら、ゲームの話をしてるなんてオチなのかもしれないので、もう少し踏み込んでみるか。


「魔法を使える人って、いるんですよねぇ……?」


「ん?兎人族にか?いやおらんよ」


「えぇ!?」


どうことだ!

やはりボードゲームにでてくるシステムの呼称とか、マホウとかいう名前の偉人がいるみたいなオチなのか!?



「魔法は魔族とダークエルフなんかが使う妙な技のことじゃ。それを現代の兎人族が使えるわけもないじゃろ?」


「そ、そうですよね……」


魔法が実際に存在することがわかったわけだが、同時に兎人族の俺には難しいということも知ってしまった。

どうやら手から炎を出すという子供の頃の夢は叶いそうもないらしい。


「じゃが心配するでない。魔族は先の戦争で衰退しつつあるし、ダークエルフも教会やエルフたちからの迫害を受け今は絶滅しておる。魔法を使える者なんぞいないも同然の世の中になったのじゃ」


兎人族でも戦える時代が来たのじゃ、とワイズさんは小さく呟いた。

だがその呟きが俺の耳に届くことはなく、再び地獄の組み手は始まった。

剣、槍、盾、弓を交互に持ち替えながら組み手をこなす。

獣人の戦闘本能のおかげか、みるみる上達していくのが俺にも実感できた。


それから数時間が過ぎ、日が沈みかけた頃。

ワイズさんは途端に攻撃をぴたりと止めた。


「よし。そろそろやめにするかのぅ」


「ありがとう……ござ、い……ました」


ぜぃはぁと荒い呼吸が繰り返される。

気づけば全身からびっしょりと汗が流れていた。


「ところでおぬし、学校はいいのか?」


「えっ、学校ですか!?」


実のところ、俺は現在学校には通っていない。

不登校の真っ只中だ。

最近はほぼ組み手だけする毎日なのだが、ワイズさんにはもちろん内緒にしている。


「教師が体調悪いとかで、連休が続いてるんですよ!」


「まぁワシが言うことではないかと思うんじゃが……」


「あ、おじいちゃーん」



走り寄ってくる甲高い声。

声の主に目を向けると、同い年くらいの兎人族だった。

母のソヨンくらいに真っ白な毛色に、整った顔立ち。

可憐な外見に、上品なたたずまい。

成長すれば美人になることは容易に想像できるほどの美少女であった。

ここまで真っ白な毛色の兎人族は、ソヨン以外には見たことがなかったので完全に目を奪われてしまっていた。


「おお、可愛いワシの孫よ。どうしたのじゃ?」


「カイセルくんはいる?」


「カイセル?ならここにいるが、何か用でもあるのか?」


ワイズさんの言葉を受けて、少女の整った顔立ちがこちらへと向けられる。

精神年齢高めのこの俺も、不覚にもドキッとしてしまった。


「はじめまして、隣のクラスのストラモス・ワイズ・ルルティナです。ティナって呼んでください」


「ティナね。俺はカイセル、よろしく……」


ティナが可愛すぎてうっかり忘れていたが、今ここで俺が学校に来ていないことを指摘されれば、今まで教師が病気だなんてワイズさんに言っていたのが嘘だとバレてしまう。


「ルルティナや、正直に言うんじゃ。ここ何日間か学校休みなんじゃろ?勉強道具もって今までどこに行ってたんじゃ?」


い、いかーん!!

さっそく大ピンチになってやがるっ!

この時点ではワイズさんもまだ俺が学校をサボっていることには気づいていないだろう。

単に娘が嘘をついたと思い、怪訝に思っている段階だろう。

だがここでティナが正直に言えば、俺の嘘が露呈してしまう。

あたふたと俺が焦っていると、ルルティナはこちらを一瞥するなりウインクを飛ばしてきた。

これは……俺の様子からなにかを察してくれたのだろうか。


「もーう、おじいちゃん。さっき言ったでしょ?私とカイくんはクラスが別なんだよ」


「ん?じゃあルルティナのクラスだけ授業があったのか?」


「そうだよ、隣のクラスみんな休んでるのに私たちだけ授業で大変だったんだからー」


この場はなんとかティナが上手くごまかしてくれたようだった。

た、助かった……。


「なんとっ!ルルティナのクラスだけ勉強させるじゃとっ!!許せん、今から理事長に文句を……」


「わわ、待っておじいちゃん!私は勉強すきだし大丈夫よ?」


「じゃが、先ほど大変だったと言っていたじゃないか」


「それは……大変だったけど、その倍くらい楽しかったしいいの!」


「ほほぅ、そうかそうか!ルルティナはそんなに勉強が好きか!じゃあワシが村一番の学者を呼んで家庭教師をさせようかのぅ」


「ええっ!」


「どうしたのじゃ?嬉しくないのか?」


「ち、違うのよ。逆に嬉しすぎて驚いちゃっただけよっ!ワーイ、勉強ダイスキ……」


なんだかティナに申し訳ない気持ちになってきた。

よく知りもしない俺のためにせっかくここまでしてくれたのだから、俺もなにか報いなければならないだろう。

と、そこで俺は妙案が浮かんだ。


「ワイズさん!その家庭教師、僕にも受けさせてもらえませんか?」


俺は自分で言うのもなんだが、この世界では勉強に困っていない。

前世での知識もあるし、論理的な思考も十分に身についていると思っている。

そんな俺がティナと一緒に授業を受ければ、多少なりとも俺もティナに恩を返せる瞬間がくるのかと思ったのだ。

決して将来有望そうなティナに唾をつけておこうとか、勉強しながら眼福に預かることができるとか考えているわけではない。

何度どもいうが、断じてない。


「ん?それは別に構わないのじゃが、おぬし授業料は払えるのかの?」


「あっ……」



両親から押し付けられるようにしてもらったお金はあるのだが、それらは入学費やら教材費やらで今はもう雀の涙ほどしかない。

それに加え、家庭教師ともなると授業料は高額になるだろう。

払えるはずもなかった。


「そうじゃカイセル。おぬしルルティナのボディーガードとして働かぬか?」


「ティナの――ボディーガード?」


「給料は高いし、それなら家庭教師の授業料くらい余裕を持って払えると思うのじゃが」


「是非働かせてくださいっ!!」


もちろん俺は即答した。

美人の傍で美人を堪能しながら美人の護衛……きっとこれが俺の天職だな。

うん幸せすぎる。


「もうおじいちゃん!勝手に決めないでよー」


「なんじゃ嫌か?」


ルルティナはちらりと俺を一瞥すると、頬を朱色に染めた。

ぼそぼそとなにか呟いているが、よく聞き取れない。

辛うじて『多すぎる』とか聞き取れた気がするが……。

果たしてなんのことやら。


「明日からさっそくボディーガードよろしく頼むぞ、カイセル」


「よろしくねカイセルくん!」


「はい!よろしくお願いしますっ」



***



翌日、ルルティナのボディーガードの仕事をすることになったわけだが……。

黒いローブに身を包み、護衛たちはルルティナにぴったりと付いて歩く。

そこはいいのだが、ただひとつ、気になることがある。


「あのぅー、なぜにこんなにボディーガードさん達が?」


ルルティナには俺の他にもボディーガードが大勢いたのだ。

それも全員がかなりのイケメン。

逆ハーレム状態だな。

もしかしなくてもルルティナ、かなりマセた子供なんじゃ……。

いや、女の子なんてみんなこんなものだろう。

そう思うことにした。


「ほら、私って真っ白な毛色でしょ?だから奴隷商とかに連れ去られないようにいつもこんくらいのボディーガード連れているのよ」


「な、なるほど……」


ティナの話だと、真っ白な毛色の兎人族ってだけでも珍しいのに、それが族長の娘となると不貞の輩に狙われることも少なくないそうだ。

だからこそこの人数らしく、ワイズさんからすれば少ないくらいとも言っていた。

外出中は目立たない格好が絶対条件で、今もティナは全身をローブで多い、さらに周囲をボディーガードで囲って姿が見えないようにしている。

逆にバレるのではとも思うが……。

だが気になるのは護衛人数だけじゃない。


「ティナ、ちょっといい?」


「ん?どうしたの?」


「いやさ、なんで俺、女装させられてるのかなーて……」


そう、俺は女装した状態でルルティナの護衛をさせられていた。

ワイズさんに強引に着させられたヒラヒラのワンピース。

パンツまで女の子用のものを履かされ、正直穴があったら入りたい、どころか穴に自分の墓標を立てたいレベルで恥ずかしい。


「私の趣味だよっ!」


「……え?」


今なにか、とんでもないことを聞かされなかったか。

もう一度聞いてみよう。


「ごめん、もう一度――」


「冗談だよーもうっ!真面目に受け取らないでよー、こっちまで恥ずかしくなるじゃーん」


ぷんぷん、と怒ったようにティナは頬を膨らませた。

しかし顔全体はりんごのように赤く、本気で恥ずかしがっていることがわかる。


「ご、ごめん」


「謝るのはこっちだよー。こっちこそ、そんな格好させてごめんね?実は私おじいちゃんに何度も女装はダメ―って言ったんだけどね?そしたらおじいちゃんったら、逆に凄い形相で『その頼みだけは聞けんのじゃ』とか言われたんだよ」


「……そっか。なら仕方ないね」


そう言いつつも、俺は一つの可能性に辿り着いていた。

ワイズさんが俺に女装をさせた真の狙いはなんなのか。

それはまず間違いなく、俺に影武者をさせティナを守ることだろう。

厳密には囮役といったところか。

そして十中八九、こうせざるを得ない理由があるのだろう。

脅迫めいた手紙でも届いたのだろうか。

娘の命はいただく、みたいな……。

だがそれだと、あのワイズさんが溺愛する愛娘を脅迫を受けている最中に外出させていることになる。

さすがにそれは考えにくいだろう。

だとするとこれは、おそらくおびき寄せようとしているのだ。

ワイズさんの敵、つまりティナを狙う連中を。


「そうだ、せっかくだしカイセルくん学校来なよ!サボってばっかじゃ馬鹿になっちゃうよ?」


ティナは突拍子もなくそんなことを言い出した。

しかしもう少し俺の状況を考えて言って欲しいものだ。


「大丈夫だよ。家庭教師に教えてもらえることになったわけだし、なによりこんな女装全開で学校に出るのもちょっと……」


「そうだよねぇー、チャック全開で学校に行くようなものだもんねぇ」


「……まあいいや、そういうことで」


時々変な言動が目立つルルティナだが、基本的には温厚的で優しくて、天真爛漫な女の子なんだということがこの数時間で十分なほど伝わっていた。

わずか五歳のルルティナに、出会って間もないにも関わらず惹かれている自分がいると自覚した。


(囮役でも影武者でもいい。とにかくティナは絶対に俺が守る)


そうこうしているうちに、木造建築の建物へと辿り着いた。

このワイズ村ではワイズさんの屋敷の次に土地面積の広い建物。

久しぶりの学校であった。


「じゃあ私学校行ってくるから、外で待っててね」


「「「「「「オッス(うんわかった)」」」」」」


俺の返事とボディーガードたちの掛け声が重なる。

ルルティナはローブを脱ぐと護衛の一人に渡し、ぴょんぴょん跳ねるように学校の門を通り抜けていった。

門前にいるのは俺と護衛達だけだ。

思わずため息がでた。

学校終わるまで待ってるのかと考えると、億劫になる。

しんどいなぁー。


「おい新入り、お前はこれから仕事だ」


「仕事ですか?」


「ああそうだ。これから街を散策する、それだけでいい。俺たちも同行する。なにか怪しげな動きをした奴がいればすぐに俺たちに知らせろ。それからなるべくルルティナお嬢様らしく振舞うのだ。いいな?」


どうやら本格的に囮役の仕事が始まってしまったらしい。

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