表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱種族に革命を!  作者: 滝原秋真
第一章 兎人族編
4/12

初めての外出

異世界に転生して三年がたった。

兎人族としての三歳を迎えたわけだが、未だに家から出たことがなかった。

子供を外に出させるのは危ないから、というのは理解できる。

もちろん、半魔であることの自覚もある。


だが、あまりにも過剰すぎるのだ。

家の近くで遊ぶことも許されない。

ゆえに近所の同じく兎人族の子供と遊ぶ、なんて経験もしたことがないのだ。


「カイセル、早く準備しろよー。置いていくぞー」


「ちょ、ちょっと待ってよ父さん」


しかし俺が駄々をこね続けた末、ついに外出許可が出されたのだ。

母ソヨンは家で留守番、俺と父バンコの二人で採集に行くことになったのだ。


「忘れ物はないか?」


「えーと……麻袋に水、短剣っと。うん、準備バッチリだ」


「よし、じゃあ行くぞ」


バンコはおもむろに立ち上がると、家の外に出た。

俺もその背中を追って家の外へと足を踏み出す。


顔を撫でる風、照り付ける日向をここまで心地よく感じるのも不思議だ。

きっと三年もの年月を家の中で過ごしたせいだろう。

身体もきっと弱っているはずだ。

今日からはしっかり運動しないと。


「待ってよ二人ともーっ!」


振り返ると、ソヨン母さんが心配そうにこちらを見ていた。

三年も外出を禁止するほどの心配性だ。

今もきっと不安で胸をいっぱいにしているに違いない。


「バンさん、カイセルちゃんをしっかり守ってね?カイセルちゃんも、お父さんの傍を離れちゃダメよ?」


「「はーい」」


「本当に大丈夫かしら……不安だわ」


「ソヨン、大丈夫だから心配するな。俺の腕を知っているだろ?」


それを聞くと、ソヨン母さんはぎゅっとバンコ父さんの服の袖を固く握る。

その手は小刻みに震えていた。


「でも、いざとなったときに闘えないんじゃ……」


ん?

闘えないとはどういうことだ?

ソヨン母さんの話だと、バンコ父さんは魔王近衛隊に入る程の実力者だと聞いているが……。


「その時は逃げるだけさ。俺の逃げ足の速さはソヨンも知ってるだろ?」


「……だけど」


「いいから、家で待ってなさい。ほら、手を離せ。そろそろ行かないと帰りが遅くなるぞ?」


「……わかった。絶対に無事で帰ってきてね?」


「ああ。まかせろ」


そうバンコ父さん言うと、ソヨン母さんは握っていた手をそっと放した。

ソヨン母さんの不安げな顔を見ていると、こっちまで不安になってくる。


「カイセル、こっちこい。おんぶしてやるから、絶対に落ちるんじゃねーぞ」


そう言ってしゃがみこんだバンコの背中に、俺は飛びつく。

俺が乗ったのを確認したバンコは、雄叫びを挙げる。


『ォォォオオオオオ!!』


「!?」


雄叫びに呼応するように、バンコの身体が変化する。

丸く太くなり、手足からは爪が伸び始める。

人間らしい顔は完全なる兎の顔へと変化する。

バンコは二足歩行する人型の兎から四足歩行する完全な兎へと姿を変えた。

しかし体長は通常の兎サイズではなく、胴体は二メートル程ある。

腹や腕など産毛しかなかった部位までもが漆黒の体毛で覆われ、外見的には巨大な兎である。


『これが《獣化変形(ビーストトランス)》だ。しっかり掴まっとけよ』


慌てて俺は首へと両腕をまわすと、手首を掴んで、振り落とされないようにしっかり固定する。


『――――行くぞ!!』


刹那、身体が思いっきり真後ろに引っ張られる。


「うわぁぁああああああっ!」


急発進により仰け反った身体をゆっくりと前へと持っていく。

なんとか体勢を整えると、そのままぴったりとバンコの背中にしがみついた。

それから数分後、果樹で生い茂った一帯が見えてくる。


『……ここら辺かな。カイセル、降りていいぞ』


「うん」


俺はバンコの背中から降りると、周囲を見渡す。

家を出てすぐは景色を見る暇もなかったが、なんとなくわかる。

ここは家とかなり離れている。

空気がずっしりと重い。

圧し掛かる重力に押しつぶされそうだ。

それでいて、ピリピリと肌を刺激してくる。

ここはいったい……。


「いいかカイセル、ランゴやキャロントはなぁ、魔素濃度の濃い地帯じゃないと育たない。今まで魔素濃度がほとんどなかった家に住んでたお前からすれば、空気がピリついてるように感じるはずだ」


いつの間にやら元の人型の兎へと戻っていたバンコがそう説明する。


「確かに、棘でちくちく突かれてるような感じがする。それと…………あれ?気のせいか、体の調子がいいような」


先ほどまで感じていた圧力が嘘のように消えた……いや、厳密には身体の内側からエネルギーが膨張していくような感じがする。

重く感じていた空気が通常通りに変化し、徐々に軽くなっていくような体感を得る。

俺は自身の腕や脚へと視線を移すと、全身がほんのりと光っていることに気づく。

そこでバンコへと顔を向けると、バンコの身体にも同様に光の奔流が見られた。

俺よりも強く発光し、その様は光自体が意思を持ち、荒れ狂っているかのようだ。

バンコの瞳がこちらを見つめていた。

普段は黒く落ち着いた色のバンコの瞳は、真っ赤になっていた。

真紅にギラギラと煌く瞳。

獣だ。

獣がいる。

ここには一匹の獣が、こちらを睨み機を狙っているのだ。

しばらくの間、俺はそんな錯覚に陥っていた。


「……やっぱお前も半魔の子か」


ぼそりとバンコがそんなことを呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。

悲しげに、心底苦しげにバンコは呟いた。

その発言でふと俺は我にかえる。

眼前の生命体が父であると思い出したのだ。


「――と、父さんっ!!光が急に……それに瞳が真っ赤にっ!」


「落ち着け。大丈夫だ、半魔の特徴が出ただけだからな。安心しろ」


「半魔は体が光ったり、目が赤くなったりするの?」


「――今はそれより先を急ごう」


俺は父さんのような真っ黒な毛色ではなく、母同様に雪原のごとく真っ白な毛色をしている。

確か半魔は黒い毛色や肌色をしているはずだが、俺はそのどちらにも当てはまらない。

父や母も俺の外見に安心していたようだし、半魔はこの異世界じゃ差別対象になるみたいだな。


と、途端に何の脈絡もなく地球でのホームレス生活が思いだされた。

同年代の子供には馬鹿にされ、道行く人には汚物を見るような目を向けられる。

もしも、もしも半魔であることが卑しく、罪なことであるなら。

この世界でも俺は、そんな境遇に耐えなければいけないのだろうか。


「――まずい、隠れろっ!」


父バンコは俺の手を掴むと、木の陰へと身を潜める。

ゆっくり覗き見ようと俺は木の陰から身を乗り出すが、すぐに父に引き戻される。

一瞬しか見えなかったが、しかし確かに視界に捉えた。

そこへ現れたのは、緑色の身体に、真っ赤な瞳、手には棍棒を持つソイツは――ゴブリンだった。

それもたった一体の、こちらに気づいていない無防備なゴブリンである。


(あれは……ゴブリン?なぜ俺たちはゴブリンから身を隠しているんだ?)


父であるバンコがどれほどの強さかはわからない。

しかしゴブリン程度の魔物、倒せるのではないだろうか。

ソヨンの話では、バンコは超一流の冒険者ということだったし、実際この一帯に来るまでのバンコの走る速度はなかなかのものだった。

仮にバンコがパワーに自信がなかったとしても、先ほどの《獣化変形(ビーストトランス)》なるものでヒット&アウェイで圧勝できるのではないだろうか。

と、そんなことを考えている間に、ゴブリンがいくつかのランゴを抱えるとどこかへ行ってしまった。


「よし。今のうちにランゴとキャロントを採集して、すぐに帰るぞ」


「う、うん……」


俺とバンコはそうして素早く採集を済ませると、逃げるように帰路へとついた。

初めての外出体験は色々な意味で忘れられない思い出になりそうだ。

特に、ゴブリンのあの真紅の瞳。

あの瞳には既視感を抱かずにはいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ