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最弱種族に革命を!  作者: 滝原秋真
第一章 兎人族編
10/12

作戦始動!女装した兎は部族衝突に巻き込まれる

ワイズ村を改めて散策してみると、人通りはどこも少なく、閑散としていた。

店の陳列する大通りでさえ、数えられるほどの人数しか歩いていない。

そこで俺はあることに気づいた。


「ねぇねぇ、マイケル。なんか爆買いしてる人が多いみたいだけど」


マイケルとはボディーガードのうちの一人だ。

さらりとした金髪の爽やかイケメンで、見る度に羨ましく思ってしまう。

まあ俺も現世はイケメンな部類に入るだろうが、バンコはどちらかというと強面系なので、こういった爽やかな感じの顔だちには憧れてしまう。


「……この村も治安悪いからな。なるべく外出しないための工夫さ」


「けどあんな食料あっても腐らすだけなんじゃない?」


「ランゴとキャロントは一か月は持つからな。みんな大概その二つを爆買いするさ」


「へぇ、一か月も持つんだー」


沈黙が続く。

マイケルは根が真面目なのか、なかなか会話が弾まない。

沈黙に耐え切れなくなった俺は話題を必死に探す。


「あ、そういえば。ボディーガード全部こっちでよかったの?学校は安全とは言い切れないし、もうちょっと人数置いてきたほうがよかったんじゃない?」


ルルティナのボディーガードは七人しかいないが、その全員が俺の方に付いている。

これはではルルティナになにかあったとき、すぐに対応できないのではないだろうか。


「問題ない。学校内にもルルティナ様をお守りする人材は送り込んでいる。それに護衛を一人でも多くルルティナ様につければ、それだけお前が影武者だと知られる可能性が高まる」


「な、なるほどー」


そこまで考えていなかった。

確かにマイケルの言うとおりだ。

おそらく学校に送り込んだという護衛も、バレないようにティナを見守っているはずだ。

そこまで思い至ると、ティナを心配する必要はなさそうだなと安堵する。

それを感じ取ったのか、マイケルは鋭い目つきで俺を睨む。


「警戒を緩めるな、任務に集中しろ。遊びじゃないんだぞ」


「……はいはい」


こっちは碌に説明も受けていないってのに、なにが任務だ。

だがティナたちの事情を推察すると、文句を言ってるわけにもいかない。

ティナみたいな可愛い子が傷つけられるよりは、俺が身代わりになったほうがいいいに決まってるしな。


「っ、おまえらルルティナ様をお守りしろ!!」


「「「オッス」」」


マイケルがいち早く他の護衛たちに指示を飛ばす。

マイケル以外のボディーガードたちも反応が早く、瞬時に俺を守る体制フォーメーションに移った。


「なんだっ!?なにが起きてるんだ?」



状況についていけず困惑していると、どこからともなくローブで全身を覆った集団に囲まれた。


(何者か知らねぇけど……でけぇな)


身長は軽く五メートルはあるだろう。

ローブで顔は見えないため誰なのかはわからないが、本能でわかる。

こいつら全員、兎人族だ。

本来なら敵意を感じればすぐにでも逃げたくなる衝動に駆られる、兎人族特有の性質である《脱兎の本能》が反応しないのが何よりの証拠だ。

しかし仮にそうだとして、同族同士でなにするつもりなんだ。

やはり狙いはルルティナか?



「おまえらぁ、ボーパル族だなぁ?」


ローブ集団のひとりがそう話しかけてきた。

ボーパル族ってのは……俺たちのことか?


「貴様ら、どこの部族の兎人だ!」


マイケルは巨体だらけの敵に臆することなく、毅然と振舞う。

あのワイズさんが娘につける護衛達だ、弱いはずがない。

ここはボディーガードさんたちに任せよう。


「ワイズの娘を置いていけ」


「きゃあー、マイケル助けて!怖いわぁー」


「「「「…………」」」」


その代わりに俺も全力でルルティナを演じよう。

決して相手が強そうでビビってるとか、そういうわけではない。


「ルルティナ様を置いていけだと?はんっ、バカなことを。貴様らに従う義理はない!」


「そうか……ならば力ずくで奪うまでだ!」


巨体集団が全員ローブを脱ぐ。

あらわになった姿は、ムキムキでゴリゴリの兎達だった。

頭頂部には茶色の耳が生えていたが、他のものはなにひとつ生えていなかった。

端的に言って、全員が禿げていた。


(……もうやだ!なんでこの世界こんなに兎が怖いの!?)


地球ではあんなに可愛い生物が、どうやったらここまで気持ち悪くなれるのだろう。

俺がこの日、日本で囁かれてい兎耳うさみみの魅惑の魔力がまやかしであると知った瞬間だった。


なんにせよ相手の数は八人なのに対し、こちらは俺含めて八人。

……あれ?これ俺も戦わなきゃいけないやつ?


「やろうども!抜刀を許可する。戦闘だぁあああ」


「「「「オッス」」」」


ボディーガードたちは順々に抜刀していくと、一斉に走り出す。

そのスピードは凄まじく早かった。

一瞬にして距離をつめ、相手の急所めがけて剣を振るう。

完璧に統率のとれた動きからも、相当訓練されていることがわかった。

しかし巨体集団も素早く腰に携えられている柄を握り、抜刀した。

ボディーガードたちの攻撃と巨体集団の攻撃が重なり合い、ガキィィンと金属音がカイセルの耳をつんざいた。

一旦距離をとるため後方にタイミングよく飛ぶボディーガードたち。

そこで初めて俺は相手の武器をはっきりとみた。

それは彼らの巨体に見合う剣――――ではなく、丸形の盾だった。


「え、なんでぇ!?」


俺は思わず驚きの声をあげてしまった。

先ほど彼らが鞘から引き抜いた瞬間、それらは確かに剣であった。

しかし今のこの瞬間、彼らが手にしているのは間違いなく盾だ。

間髪入れずに盾を取り出し、持ち替えたのだろうか。

だがわざわざ巨人集団がそんな面倒なことをするとも思えない。


「ルルティナ様、お気をつけください!あれは〈変形武器トランスアーツ〉です」


「変形武器?」


「ドワーフって種族が造った武器でよ。これが凄いんだぜ?どんな武器にも変形できるのよ。盾にもなりゃ槍にも剣にもなるし、鞭に鎖、投げナイフにもなるってわけだぁ」


なんじゃそりゃ、と俺が思っていると巨人集団のひとりが自慢げに語りだした。

相手に情報を与えるとは、よっぽどのアホがいるな。

いや、それとも戦闘によほどの自信があるのだろうか。


「バッキャロー!!なに相手に情報流してんだよっ!」


「あっ、すいやせん兄貴」


と思ったら普通に怒られてた。

ただの馬鹿だったらしい。


「――――ルルティナ様っ」


突如として眼前にマイケルは現れると、俺を思いっきり突き飛ばした。

すると直後、俺が元いた場所をブーメランのようなものが通り過ぎていった。

ほんの僅かでも回避が遅れていれば、俺の足は流血し歩けなくなっていただろう。

ブーメランの内と外には小さな刃がついているように見えた。

いや、おそらく元々ついていたのではなく、そう変形したのだろう。



(あっぶね!なんだ、なにが起こってんだ!?)


俺はブーメランを目で追うと、くるりと方向転換してブーメランは巨体集団のひとりの手元へと戻った。

そいつは、先ほど相手に情報を渡す馬鹿を演じたやつの後ろに隠れていたのだ。


「へへぇ、俺は身長はフレッシュ族の平均より下回っているが、それを利用した戦い方もできるのさ」


全員が〈変形武器〉を持っているように見せかけるために後ろに隠れていたのか。

あいつはそれを隠すためにわざと相手に有益な情報を流し、相手の集中力を削ごうとしたのだろう。


「ルルティナ様、気を付けてください。あいつらフレッシュ族は見てくれと違ってズル賢いんですよ」


「ああ……そうみたいだね」


「聡明と言ってもらいたいなぁ。おまえらぁ、作戦その3だ」


「「「「うぃっす」」」」



フレッシュ族と名乗った巨体集団たちは、一斉に地面へとなにかを投げつける。

刹那、辺りは黒い煙で覆われた。


「ちっ、煙幕か。お前ら、ルルティナ様の傍を離れるなぁ!」


「「「「オッ――――うわぁぁあ!」」」」


「お前ら大丈夫か!返事をしろ!」


「マイケル、近くにいんのか!?くそ、なんも見えねぇ」


視界が真っ暗に染まる最中、誰かに右腕を掴まれた。

マイケルかと一瞬思ったが、それにしては手が大きすぎる。


――――敵のほうかッ。


俺は賢明に振りほどこうと腕を引っ張るが、びくともしない。

パワーが違いすぎる。

振りほどくのが無理だと悟った俺は、すかさずナイフを取り出し敵へと突き出す。

が、鈍い感触が金属音とともに跳ね返ってくるだけで、突き刺せた感触はない。

直後、ふわりと強烈な浮遊感に襲われた。

なにか大きな力に持ち上げられる。


「マイケルッ!助けてく……れぇ」


「ルルティナ様っ!ルルティナさまぁあああ」


首筋に激しい痛みが走り、徐々に俺の意識は沈んでいった。

マイケルの声を合図に、意識はぷっつり途切れた。


***


カイセルとマイケルたちがフレッシュ族の者達と交戦している頃、ルルティナは無事に学校で授業を受けている最中であった。


「ふんふん~、ふんふんふ~んっと」


ルルティナはカイセルには偉そうに学校に来いと説教じみたことを言ったが、実は大の勉強嫌いであった。

ルルティナのノートにはカイセルの似顔絵が描かれている。

ちなみに、ノートは羊皮紙ではなくパピルスという紙が使われていた。

パピルスとはカミガヤツリという植物を材料にした紙であり、ススを使った顔料インクで文字を記すのが一般的になっている。

パピルスは羊皮紙と比べ原材料が比較的容易に入手可能なため、安価で取り扱われていた。

そのため庶民や発展途上国の市民たちの間では、パピルスをノートとして用いるのである。


だがこのクラスには一人だけ例外的に羊皮紙を使っている者がいた。

ルルティナの隣の席に、赤茶の毛色を持つ美少女の兎人がいる。

彼女の名はティファ。

族長たち、つまりボーパル族に組する者であり、マイケルが言うところの密かに忍び込んでいるルルティナの護衛である。


『ルルティナ様、またそのような安価なノートをっ!羊皮紙を用いた最高級のノートを使ってくださいと前々から言ってますよね?』


ティファはルルティナと同じく五歳の少女であるが、護衛としては優秀であった。

が、五歳である。

彼女はルルティナの世話係としての役目も負っていると、自身はそう考えていた。

別にそのような役目までは誰も期待していないのに、である。


『もーう、ティファもしつこいねぇー。羊皮紙はお高くとまってる感じがしてイヤなの』


『ですがっ、それでは他の部族どもに示しがつきません!それにパピルスはカビなどが発生したりして痛みやすいので長時間の保存にも不向きですっ!』


『でも私、パピルスのほうが好きなのっ!においとかさわり心地とか!それに羊皮紙って……羊からできるんでしょ?』


ルルティナは悲しげな顔でそう訊ねた。

ティファもこれには言葉が詰まった。


『羊人族の獣皮は薄くて柔軟性も優れていますから、多少使われている代物もあると思いますが……』


『私、同じ亜人の獣皮からできた紙なんて使いたくない』


『ルルティナ様……』


ティファはこの小さな少女の純粋さ、優しさに触れ、心から忠義を誓っている。

今日もそんなルルティナの人柄の良さ、器の大きさに心酔しきっていた。


(あぁ……ルルティナ様。なんと天使のごときお方なのでしょう。尊いお立場ながら可憐であり、下々のことにまで気を配ってパピルスを使い――ん?)


そこでティファはルルティナのパピルスに描かれた一人の少年の絵が目に留まる。

今までルルティナを凝視していたあまり――本人は護衛のために見守っていると思っている――そこに描かれていた小さな絵になど気にも留めなかったのだ。


『ルルティナ様、あの――こちらの似顔絵はどなたなのでしょうか?』


そうティファに訊ねられたルルティナは途端に赤面し、きゃっと自身の両腕で似顔絵を隠した。

真横にティファはいるので普通はバレバレだと考えるだろうが、ルルティナの場合本気でバレていないと考えていた。

そして実際に、ティファも今の今まで気づいていなかった。


『(か、かわいい……)ルルティナ様、まさか殿方の似顔絵ではございませんよね?』


するとルルティナの顔は爆発寸前のごとく真っ赤に染まった。

対してティファの表情はゾンビのごとく生気が抜けていった。


『ぶッコロ……デス』


ぼそりとティファは呟いた。

しかしその言葉は誰の耳にも届いていない。


「どうしたの?ティファちゃん?」


「……」


ルルティナがそう訊ねても、沈黙を貫いたままだ。

しかしルルティナは長年の付き合いから知っていた。

これは嵐の前の静けさ、なのだと。


「ダ、ダレ――誰なのですかぁー!!ルルティナ様をたぶらかした不埒者わぁーッ!」


『ちょっ、ティファちゃん!?声が大きいって!!』


ティファの真っ青だった表情はこのとき、鬼の形相へと変わっていた。

ティファは大声で叫んだわけだが、今は授業中である。

もちろん先生が気づかないはずはなかった。


「ティファちゃーん?あとで職員室きてねー?」


「ころずぅ!ぜっだいゴロズ!!ルルティナ様の純情を弄ぶとはっ、万死に値するっ」


「もうやめてぇー!?それ以上は言わないでー!」



ティファに注意する教師。

怒り狂うティファ。

自身の想いを大声で叫ばれ、恥ずかしさで死にそうなルルティナ。


一年A組の教室はカオス状態であった。


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