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第九十一話 エリクvs.カタリーナ

 










「まさか、カタリーナさんが戦ってくださるとは思っていませんでした」

「うん? 何でだい?」


 戦いが始まる前、私とカタリーナさんは向かい合って話していました。

 ガブリエルさんとアンネさんの献身のおかげもあって、私は目以外全快していました。


 献身……というか、なかなかきつかったのですが、私からすればご褒美です。ありがとうございます。

 片目だけというのはなかなか動きづらかったですが、この後遺症が私を悦ばせる……っ!


 日常生活でも支障をきたすほどだったのですから、これが戦闘となれば……どれほどでしょうか?

 ワクワクしてあまり眠られませんでしたよ、ふふ。


 全快した私を待っていたのは、アマゾネスとの連戦です。

 そして、その記念すべき一人目のアマゾネスの方が、このカタリーナさんでした。


 しかし、意外でしたねぇ……。


「いえ、カタリーナさんは、私に興味がないのかと思っていまして……」

「あー、まあ、そうかもね」


 私の言葉に、頬をかくカタリーナさん。


「確かに、アタイはアンネみたいにあんたに興味があったわけじゃないからね。正直、拉致をしようと分かっていたら、アタイは止めていただろうしね」


 なんと……カタリーナさんにアンネさんの目的がばれていなくてよかったです。

 もしかしたら、私はこの理不尽な闘技場に放りこまれて片目を失うという貴重な経験を得られなかったかもしれなかったんですね。


「あんたには災難だったかもしれないけど、よかったよ。まさか、こんな掘り出し物だったなんてね。アンネに感謝しなきゃ。……それにしても、あんたも意地悪だね。強いんだったら、もっとそういう見た目になりなよ」

「いやぁ……私は強いというわけではありませんし……」


 カタリーナさんはニヤニヤとしながら言ってきますが、私は別に特段強いというわけではありません。

 まあ、多少は戦うことができるとは思いますが、それもレイ王の理不尽に勇者として応えなければならないという必要に迫られて上達したものですし……。


 それに、エレオノーラさんなどの優れた騎士と比べられると、私は全然です。

 不死のスキルを活かして、ひたすら前に進むことしかできません。


「心の強さも立派な男の強さだよ。アタイはそう思うけどね」


 ……快楽を求めて前に進んでいるということがばれたら、何発か殴ってくれるでしょうか?


「さて、お話はここまでにしようか。そろそろ観客も待ちかねているようだし……」


 カタリーナさんは戦うための武器を召喚しました。

 それは、身体を覆い隠せるほどの巨大な盾でした。


「アタイも、獲物を前にしてそろそろ限界だよ」


 私、獲物なんですか。興奮しますねぇ……。

 野性的な笑みを浮かべるカタリーナさんが、とても魅力的に見えました。


 私のことを、知り合いだからといって手加減するような女性ではないことは、やる気満々の様子を見れば明らかです。


「この前のあんたの戦いを見て、アタイの胸もほんの少し高鳴ったんだ。もし、あんたがこの試合で男を直接アタイに見せてくれたら……惚れてしまうかもしれないね」

「なんと……それは、頑張らなければいけませんねぇ……」


 そう言うと、カタリーナさんはキョトンとしてしまいます。

 そして、くくっと笑うではありませんか。


「いや、悪いね。まさか、そんなことを言われるとは思っていなかったんだよ。アタイはあんたを無理やり拉致したアンネに協力したというのに、そんな言葉をかけてくれるだなんてね。勇者様って、皆そんなに優しいのかい? アタイみたいな、女らしくない女にお世辞を言うような」

「はい?」


 私以前の勇者の方々がどのような人かは知りません。

 ミリヤムかエレオノーラさんなら知っているかもしれませんが、あいにく無学な農民出身なものですから。


 しかし、これだけは言えます。


「カタリーナさんは、とても魅力的な女性だと思いますよ」


 私を良い感じにボコボコにしてくれそうですし。

 私の言葉を聞いたカタリーナさんは、またもやポカンとした顔をした後、褐色の頬を薄く赤に染めました。


「……止めな。今から殺し合いをするっていうのに、そんなことを言われたら……戦いづらくなるだろ」

「えっ、すみません」


 それは困ります。カタリーナさんには、遠慮なく私を攻撃していただきたいのですから。


「あー、もう! 良いから始めるよ!!」


 カタリーナさんはそう言って、巨大な盾を構えます。

 観客のアマゾネスの方々も、私たちに早く戦えと歓声で急かしてきます。


 ふっ、そうですね。そろそろ、私もボコボコにされる時が来たかもしれません。

 剣を抜いて、彼女を見ます。


 カタリーナさんも、流石は闘争に慣れたアマゾネスらしく、すでに緩んだ顔は引き締まって戦士のものになっていました。

 やられ甲斐がありそうですねぇ……。


「ふむ……」


 しかし、どう攻撃に行けばいいのでしょうか?

 カタリーナさんは巨大な盾を持っています。あれでは、私の剣では貫くことはできないでしょう。


 しかし、彼女もまた素早く動くことはできないでしょう。

 ユーリさんのように魔法で動きを速くすることができるのであれば話は変わるでしょうが、あの盾はとても重そうですし……。


 うーむ……これでは拮抗して私が痛めつけられない……もとい、観客のアマゾネスたちも戦いが始まらずに不満でしょう。

 正直、私から突撃しても手痛いカウンターを受けるだけのような気もしますが……。


「行きます!」


 それこそが、私が望んでいることそのものなのです!

 カタリーナさん目がけて駆け出しながら、私はさてと考え始めます。


 彼女の持っている盾は、見るからに立派そうで硬そうなのですが、いったいどれほどの硬さなのでしょうか?

 それに、どれくらいの重さなのでしょうか? これが分かれば、カタリーナさんの動きの速度を予想することができます。


 とにかく、情報がありません。まずは、彼女のことを知らなければなりませんね。


「おっ、軽快だね」


 私は正面から突っ込むと見せかけて、直前でブレーキをかけて横に移動します。

 カタリーナさんの声音には余裕がありました。


 まあ、正面から突っ込む人なんて、ほとんどいませんから予想されていたんでしょうね。

 しかし、その言葉に反してカタリーナさんはまだ盾を移動させることができず、無防備な身体を見せていました。


 これは、チャンスです。

 私は剣を振りおろし……。


 ガキィンという金属音と共に、私の剣は盾に阻まれたのでした。


「うーむ……」


 ビリビリと痺れが走るほどのこの手の痛み、快感です。

 しかし、一度ぶつかって分かったのですが、カタリーナさんの持っている盾はとても硬いようです。


 斬撃を受けても、傷一つ付いていません。

 これは、私程度では破壊することはできないでしょう。


 エレオノーラさんの拳やデボラの爆発ならば突破できそうですが、あいにく私にあれほどの威力を誇る攻撃方法はありません。

 さて、どうしようか、と悩んでいた時でした。


「がっ!?」


 私の顔面に強烈な衝撃を受け、そのまま後ろに吹き飛ばされてしまいました。

 あまりにも突然のことで、私は受け身をとることもできずに不様に転がってしまいました。


 多くの観客がいる中で不様な転がり方……羞恥プレイも大丈夫です!


「うっ……」


 熱いものを感じて鼻に手をやれば、だくだくと鼻血が溢れ出していました。

 口内も切ってしまったようで、唾を吐き出すと血が混じっていました。


 こんな嬉しい攻撃、いったいどうやって……。

 そう思ってカタリーナさんを見れば、彼女の盾に少し血が付着していました。


 ははぁ、なるほど……。


「盾だから攻撃できないって油断したね? 盾にも、攻撃方法はあるんだよ」


 カタリーナさんは盾で私の攻撃を防いだ後、思い切りそれを押し出したんですね。

 盾から攻撃はできないと先入観を持っていた私は、それをもろに顔面で受けてしまったようです。


 頭が少しフラフラしますが……後ろに吹き飛ぶことができたので、まだマシですね。

 エレオノーラさんにぶんなぐられた時の方が危なかったです。


 しかし、これは嬉しい……厄介ですねぇ。

 カタリーナさんはあの巨大な盾で私の攻撃を全て防ぐことができ、さらにカウンターを食らわせることもできます。


 一方、私は彼女に通用するであろう攻撃手段がまったく思いつきません。

 デボラのような爆発が使えればよかったのですが……盾ごと吹き飛ばせそうですし。


 しかし、ない物ねだりをしても仕方ないですからねぇ……。

 私は再び剣を構えます。


 やはり、愚直に攻撃を続けるほかありませんね。


「ふっ、あははっ! いいね、その目! アタイは……というより、アマゾネスは皆好きだよ! 血で格好よく化粧もされているしね」

「ありがとうございます」


 嬉々として笑うカタリーナさん。

 そんな彼女に、私はもう一度挑みかかるのでした。



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