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第八十八話 アマゾネス姉妹との交流

 










「ふっ……どうしてこのような状況になったのでしょうか……?」


 エリクはニヤリと笑って呟いた。

 彼のいる場所は、闘技場の中でも重傷者を安静にさせるための病室である。


 普通は重傷者でも何人も同じ部屋で過ごすのだが、彼の場合は誰かの好意のおかげで個室を与えられていた。

 そして、そんな場所でエリクはベッドに縛り付けられて達観した笑みを浮かべていたのであった。


「いや、それはエリクくんがすぐにベッドから抜け出そうとするからでしょ」

「ガブリエルさん……」


 病室に入ってきたのは、アマゾネスの女王であるガブリエルであった。

 彼女はひらひらと手を振りながら笑うと、備え付けの椅子を引っ張ってきてエリクの側に逆座りの形で座った。


 後ろから見れば、綺麗な背筋のラインや服の上からでも分かるほど豊満な臀部などが見られるのだが、ここには二人以外誰もいないので見る者はいなかった。

 横からなら背もたれに潰される張りのある胸も見られるのだが……これも見る者はいなかった。


 無論、性癖が残念な方に飛びぬけているエリクも、何も思うことはなかった。


「聞いたよ? すぐに病室を抜け出して試合をしようとするから困るって。だから、あたしの権限でこんないい一人部屋をあてがったんだよ?」

「そうは言われましても……戦うのは剣闘士としての義務ですし……」

「君、本当はここから出たくないんじゃない?」


 アマゾネスに負けず劣らずの戦闘狂じゃないか、とガブリエルは笑ってしまう。

 まあ、少し触れただけでも分かる彼の優しい心根を見れば、そんなことは思っていないに違いないのだが。


「いいから、まずは休んで傷を治さないとダメだよ。どんな剣闘士でも、怪我をすれば回復するまで試合をしなくてもいいんだから」


 とくに、エリクのように見事な試合をした剣闘士であれば、十分な休息をとることができる。

 不様に逃げ回ったりしていれば……また話は変わってくるのだが。


「あー……でも、うちの技術でもその目は治せなかったよ。ごめんね」


 ガブリエルは言いづらそうにして謝罪した。

 目というのは、エリクが自らユーリを驚愕させるために突かせた片目である。


 それだけは、もう治療しても治るものではなかった。


「いえいえ、それは分かっていてしたことですから」

「ふーん、そんなに勝ちたかったんだ。そういうの、アマゾネス的にありだよ」


 うんうんと嬉しそうに頷くガブリエル。

 ドMが快感を得たくて片目を失ったと聞いたら、どのような顔をするのだろうか。


「それに、これを治していただく心当たりもありますしね」

「えっ? それは無理じゃないかなぁ。それこそ、エリクサーとか持っていたりするの?」

「いえ、私のパートナーが、非常に高度な回復魔法を使うことができまして」

「回復魔法って、失ったものを再生することはできないんじゃなかった?」


 アマゾネスの中にも、非常に少ないが回復魔法を使うことができる者はいる。

 しかし、多少の傷を治したり出血を止めたりとする程度の、応急処置みたいなものである。


 それでも、重宝するに値するのだが……。


「ミリヤムは特別なんですよ」

「へー」


 どこか誇らしげに言うエリクに、ガブリエルは何とも言えない感情が胸にあるのを感じる。

 パートナーと言ったり、嬉しそうに話していたりするのを見ると……何だかムッとする。


「でも、それはここから脱出できたらの話だからね。今、エリクくんと戦うアマゾネスを決めている最中だけど、凄いことになっているよ」

「凄いこと?」

「あの戦いで、一気にエリクくんの人気が上がったからね。君と戦いたいというアマゾネスが殺到しちゃって……二人の狭い枠に入らんとする人たちが、武力で勝ち取ろうとしているんだ」

「なんと……」


 アマゾネスたちの武力衝突……是非自分を真ん中に入れてやってもらいたい。多分、死ぬ。

 しかし、そうすると最も強い者がエリクの相手になるということである。


 戦闘に参加した中で最強のアマゾネス二人が相手……エリクはゾクゾクしてきた。

 一刻も早く、目以外の怪我を治してボコボコにしてもらわなければならない。


 そこまで考えて、ふとあることに気づいた。


「あの……最初は三人だと聞いたような気がしたのですが……」


 そうだ。確か、あの時ガブリエルは三人のアマゾネスを倒す必要があると教えてくれた。

 しかし、彼女が言ったのは二人である。言い間違いだろうか?


「ああ。それは、もう一人は決まっちゃっているからね。だから、残りの二人を決めるトーナメントをしているんだ」

「なるほどぉ……」


 問答無用で決まるようなアマゾネス……いったい、どのような人物なのか。

 エリクは今想像するだけでもワクワクしてきた。とても強かったら嬉しい。


「楽しみにしていてね」

「はい」


 ニッコリと笑うガブリエルに、エリクも笑い返す。

 強いアマゾネスの戦士と殺し合いをすることを告げられて笑っていられるのは、エリクみたいな性癖の持ち主や戦闘狂くらいである。


 そんな会話をしていると……。


「あ……」


 ぐぅっとエリクの腹が鳴った。

 そう言えば、起きてからまだ何も食べていなかった。


「ああ、食事をとっていなかったんだ。じゃあ、持ってこさせよう」

「すみません」


 ガブリエルは一度外に出て、エリクの食事を手配してくれた。

 ふぅっと息を吐いてから、少しの間待っていると……何だか外が騒がしくなった。


 何かあったのかと考えていると……。


「食事、持ってきたよー!」


 入ってきたのは、ガブリエルの妹であるアンネであった。

 エリクを拉致した張本人である。


「アンネさん……」

「やっほ、勇者。元気?」

「元気ではないですねぇ……」


 ニコニコと楽しそうに話しかけてくる後ろから、ガブリエルが申し訳なさそうに戻ってきた。


「はぁ……アンネ。エリクくんはけが人なんだから、そんな元気な声で話さない」

「えー? いいじゃん、別に。ね?」


 問いかけてくるアンネに、エリクは笑うことしかできない。

 傷に響くのが気持ちいいからだ。


「それで、どうしてアンネさんが?」

「いやー、勇者と話したかったんだけど、面会謝絶? とか言われちゃって……」


 だから、食事を持ってくるという形でエリクに会いに来たわけである。


「お姉ちゃん、自分が話したいからってズルいよ」

「い、いや、そういうつもりじゃないし……」


 ジトーッとした目を向けられて身体を小さくしているガブリエル。

 こうして見ると、あまり性格は似ていない姉妹のような気がする。


 やんちゃな妹としっかり者の姉という感じだ。


「(まあ、一癖はありそうですけどね)」


 エリクのMセンサーは、ガブリエルの何かに引っ掛かっていたのであった。

 そんな時、再び彼の腹の音が鳴った。


「あ、ごめんね、エリクくん。食べてくれていいから」

「はあ、それはありがたいのですが……拘束を解いていただけないでしょうか?」


 エリクの身体はすぐに抜け出すからとベッドに縛り付けられている。

 これでは、食事をとることもできない。


「あぁ、ごめんね! すぐにほどくから……」

「ちょっと待って、お姉ちゃん!」


 近寄ろうとしたガブリエルを止めるアンネ。


「な、何?」

「ダメだよ、お姉ちゃん。拘束を解いたら、勇者はさっさと逃げ出してしまうかもしれない。まだ戦っていないから、それは許されないよ」

「いえ、逃げる気はないのですが……」


 エリクの言葉は届かない。


「うーん……それは確かに……。じゃあ、どうするの?」

「そこはお姉ちゃん。はい、あーん、だよ!」

「えぇっ!?」


 キラリと歯を煌めかせて親指を突き出すアンネに、ガブリエルは頬を赤く染める。

 そんな恋人みたいなこと、したことない。


 戦いぶりが少し気になっているエリクにするとなると、少し恥ずかしい。


「大丈夫、大丈夫。あたしたちでもたまにするじゃん。勇者にするのも、一緒だよ」

「そ、それはそうかもしれないけど……それであーんをするの?」


 ガブリエルはアンネの持ってきた食事を見る。

 入院患者に食べさせる者は、食べやすいおかゆや汁物が良いはずだ。


 そんな常識の中、アンネが持ってきたのは巨大な肉塊であった。

 肉汁と血が滴って非常に香ばしい。


「ん? 何かおかしい? 血を失ったと思ったから、これがいいかなって。あたしが入院している時に一番持ってきてほしいやつだし」

「アンネとエリクくんを一緒にしたらダメでしょ……」


 ガブリエルの呆れた言葉に、内心で同意するエリク。

 無理やり口に突っ込まれるのであれば歓迎するが、できれば遠慮したいところがある。


「あー……食べられないかぁ。じゃあ、お姉ちゃん。口移しで食べさせてあげなよ」

「…………はぁ!?」


 唖然とするガブリエルとエリク。

 とんでもないことを提案したアンネはニコニコ笑顔だ。


「ほら、そういうことって、食べ物を噛めない子にするでしょ?」

「そ、それは同性だからでしょ! エリクくんはアマゾネスでもなければ同性でもないし!」


 闘争を追い求めるアマゾネスたちは、大きな怪我を負って固形物を食べられなくなる戦士もたまに出る。

 その時は、噛み砕いて飲み下しやすくした物を口移しで与えることはすることもあるが……流石にエリクにはできない。


「いいからいいから。お姉ちゃんも勇者のこと、悪くは思っていないでしょ」

「むぐっ!?」


 ガブリエルの口に肉を押し付けるアンネ。

 勿体ないことができないという常識を持っていたガブリエルは、吐き出すこともできずに口に含んでしまう。


「さあ、早く早く」

「んんんんんんんんんんんんんっ!?」


 頬を膨らませたガブリエルを、エリクに近づけていくアンネ。

 抵抗する姉であるが、同じくアマゾネスで優秀な戦士である妹の力にグイグイと押されてしまう。


 頬を赤らめて嫌がるガブリエルであるが、ふっと何故か達観した笑みを浮かべているエリクの元に近づいて行って……。


「ふぎゃっ!?」


 プルプルの唇がエリクの口に触れる瞬間、凄まじい速度でアンネの背後に回ったガブリエルは、岩のように固くした拳を彼女の頭部に叩き込むのであった。

 エリクを拉致したことを怒られた時のように、アンネは巨大なたんこぶを作って地面に沈むのであった。



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