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第八十三話 抜け出す方法

 










「もっと怒って当然でしょ!? どうしてそんなに……」

「うーん……まあ、今更怒って騒いだとしても、意味はないと思いますし。誘拐されたと主張したとして、私は解放されないでしょう?」

「そ、それは……」


 目を泳がせるガブリエルさん。

 ええ、絶望はありません。むしろ、興奮しました。


「ですから、剣闘士として活躍して、ここから脱出することを目標にしているんです。私を誘拐した人を恨んだところで、どうにもなりませんからね」


 むしろ、感謝しています。

 このような地獄に放り込んでくれて……。


「君……」

「それに、私を待っていてくれているであろう人たちもいますからね」


 目を大きくしてこちらを見てくるガブリエルさんに、私は笑いかけます。

 ……本当に待っていてくれているのでしょうか?


 完全に切り捨てられていたら、それはそれで嬉しいのですが……。


「……ふふっ。こんな最悪の環境に何の罪もないのに放り込まれて、不平も言わないんだ。流石、利他慈善の勇者っていうところかな? アマゾネス的には『狂戦士(バーサーカー)』の二つ名の通りの方が嬉しいのかもしれないけど、あたしはこっちの方がいいな」


 ガブリエルさんは、そう言って魅力的な笑みを見せてくれました。


「そうだなぁ。そんな君のことは、手助けしたくなるなぁ」

「おや、出してくださるのですか?」

「ごめん、それはできないんだよね。いくらあたしでも、これは昔からの慣習みたいなものだから」


 苦笑いするガブリエルさん。

 あたしでも……彼女はアマゾネスの中でも高い地位の人なのでしょうか?


 戦闘種族であるアマゾネスに、貴族などの特権階級なんてあったのでしょうか?

 ここにミリヤムがいれば、彼女に聞くことができたのですが……ないものねだりをしても仕方ないですね。


「それにしても、君を拉致してきたのは誰なの? あたしがちゃんと叱っておいてあげる」


 腰に手を当てて怒る仕草を見せるガブリエルさん。

 愛らしい態度なので、彼女が叱っているのを怖いとは思えませんが……善意ですし、受け取っていた方がいいですかね。


 私は、ガブリエルさんに私を拉致した人の名前を言うことにしました。


「アンネさんです」

「…………え?」


 アンネさんの名前を出すと、唖然とした顔を向けてくるガブリエルさん。

 まるで、予想していなかった人の名前が出てきたような……。


「ご、ごめん。もう一回言ってもらっていいかな?」


 取り繕うに笑みを浮かべるガブリエルさん。

 別に、名前を呼ぶくらいいくらでも構わないのですが。


「アンネさん」

「……もう一回」

「アンネさんです」


 信じられないのか、もう一度聞いてくるガブリエルさん。

 しかし、まぎれもない事実を捻じ曲げることはできず……。


「な、何しているのあの子はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ガブリエルさんの絶叫が響き渡りました。

 天を仰ぐその顔は、青くなっていました。


「えーと……知り合いですか?」


 私の問いかけに、ビクッと身体を震わせるガブリエルさん。

 凄く言いづらそうに横を向いて、もじもじとして……。


「い、妹……」

「はー……そうなんですかぁ」


 そう言われれば、どことなく似ているような気がする。

 見た目というよりは、愛想の良さとか人当たりの良さですね。


 スタイルはガブリエルさんの方がよさそうですし。


「本当にごめんなさい! アマゾネスが誘拐をしたということでもダメなのに、あたしの妹が実行犯だったなんて……!」

「良い一撃でしたよ。後頭部をズガンと」

「ごめんなさい!!」


 褒めたつもりだったのですが、ガブリエルさんはさらに頭を深く下げました。

 そういうつもりではなかったのですが……。


 しかし、アマゾネスの方に頭を下げられるとは思ってもいませんでしたねぇ……。

 ガブリエルさんは、他のアマゾネスの方と少し違うのかもしれません。


「その……闘技場を卒業させることはできないんだけど、相手選手の便宜を図るようにはさせてもらうから。それで、良い試合をして抜け出せるように……」


 私のために何かをしようとしてくれるガブリエルさん。

 ……個人的には強い相手がいいのですが。


「あの……たとえば、こういう形ではなく、剣闘士のお願いを聞いてくれるみたいな制度はないんですか?」

「え? そうだな……確か、闘技場で実績のある人を下剋上すれば、その差に応じて叶えるみたいな制度があったような……。でも、ほとんど使われたことはないと思うな。ここに来るのって、犯罪者ばかりだし」


 なるほど、やはりあるにはあるんですね。

 おそらく、アマゾネスの庇護下に置かれずに完全な自由の身となってこの闘技場から抜け出した人たちは、その制度を使ったのではないでしょうか?


 つまり、剣闘士として入れられてすぐに下剋上を達成して、脱出したと。


「では、私とその強い人を戦わせてください」

「えっ!? いいの、そんなことをして? 下手をすれば、死んでしまうかもしれないのに。気持ちは分かるけど、少しずつ実績を積み重ねてアマゾネスと対戦して、誰かの庇護下に入って抜け出す方が安全だと思うんだけど……」


 ガブリエルさんは、私の心配をしてくださっているのでしょう。

 先ほど、弱い相手ばかりをあてがおうかとも提案してくださいましたし、アマゾネスと対戦する時も八百長みたいな形でしようとしていてくれたのかもしれません。


 しかし……。


「それでは、少し時間がかかりすぎるんです。私を待っている人たちを、これ以上待たせるわけにはいきませんから」


 ミリヤム、デボラ、エレオノーラさん……彼女たちの回復魔法、爆発、加虐性が恋しくなってきますしね。


「ですから、お願いします」


 私が頭を下げると、ふうっとため息を吐く音が聞こえました。


「……確かに、こんな所に君を連れてきてしまったのは、あたしの妹のせいだし……分かった。そういうことができるように、仕込んでおく」

「ありがとうございます」


 ガブリエルさんは、私の想いを受け止めてくれたようです。

 ……しかし、感謝すると同時に、私はふと疑問に思ったことがありました。


 それは、ガブリエルさんが何故そのようなことができるのかということです。

 いくらアマゾネスだからといって、彼女たちが大切にしているであろうこの闘技場の仕組みに干渉することは、普通であればできないはずです。


「あの……そんなことができるということは、ガブリエルさんは普通のアマゾネスではないのでしょうか?」

「あー……」


 私が聞けば、やってしまったなぁといったふうに髪をかきます。

 しかし、誤魔化すことはできず、諦めたように息を吐きます。


「まあ、そういう感じ。えっとね……」


 ガブリエルさんは、少し恥ずかしそうに頬を染めて言ってくれました。


「あたし、一応アマゾネスの女王みたいな役職なんだ。だから、少しは融通が利くというか……まあ、そんな感じ」


 ……アマゾネスの女王に、私は怪我の手当てをしてもらっていたのですか。

 というよりも、何だか人当たりもいいんですね、女王って。


 そんなことを考えていると、ガブリエルさんは立ち上がりました。


「エリクくんの言う通りにするけど、彼を倒すのは難しいと思うよ。剣闘士が願いをかなえてもらうということは、それくらい難しいということなんだけど」


 ガブリエルさんは、この闘技場最強の剣闘士のことを知っているようでした。


「その人の名前を、聞いてもいいですか?」

「え? もちろん、いいけど。……というか、知らないで勝負を挑もうとしていたの?」


 ジトーッとした目を向けてくるガブリエルさん。

 誰が相手かよりも、強い相手かどうかを重視するのがドMクォリティ。


 うーんと記憶をたどるようにして、ガブリエルさんは教えてくれました。


「確か、今はユーリ・ヴァレンニコフという剣闘士だったかな」


 ユーリ・ヴァレンニコフ……私はよく知っている名前でした。

 なんと……彼と戦う機会を得られるとは……僥倖です。


「じゃあね、エリクくん。応援しているから、頑張ってね。……あ、妹はすっごく叱っておくから、安心してね」


 ニッコリと微笑むガブリエルさん。

 どうしてでしょう……彼女に怒られるアンネさんが、とてもうらやましく思えました。


 彼女の説教は、私のMをくすぐる何かがあるようです。


「じゃあ、期待しているからね」


 ガブリエルさんは、魅力的な笑みを浮かべて去って行きました。

 ……妹さんと、言うことは同じなんですね。



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