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第八十二話 闘技場の中で出会ったアマゾネス

 










 あれから、何週間か経ちました。

 私も何度か剣闘士の方や魔物と戦う機会を得られました。


 多少の傷を負いながらも、私は致命傷を負うことはありませんでした。

 それほどの相手がいなかったということもありますが、一度怪我をしてしまえばミリヤムのように一瞬で治癒をしてくれる存在がいないということが大きいです。


 闘技場にも一応備え付けの医療施設が存在し、有望な剣闘士は死なないように手当もしてくれるのですが、やはりミリヤムのあの高度な回復魔法とは比べるまでもありません。

 腕が吹き飛んでもすぐに引っ付けられる彼女の魔法は、やはり希少なのだと改めて実感します。


 ここから脱出して再会した時には、改めてお礼を言いたいと思いました。

 とはいえ、多少の傷程度ならば、この医療施設で十分です。


 戦闘の怪我を治してもらおうと、そちらに向かっているところです。

 そう言えば、私はまだユーリさんとの戦いの機会に恵まれていませんでした。


 一度、私の後に彼が戦っていたのを見たことがあるのですが、私たちとは比べ物にならないほどのアマゾネスたちが観客としてやってきていました。

 キャアキャアと黄色い声援が彼に飛んでおり、その人気の高さをうかがい知れます。


 結局、その試合も難なく勝っていたようですしね。

 いやはや……いつか戦ってボコボコにしていただきたいものです。


 そんなことを考えながら歩いていますと……。


「あれぇ? ここ、どこだっけかなぁ……」


 女性の声がしたので、思わずそちらを見てしまいました。

 この闘技場に詰め込まれている剣闘士は、ほぼ全員が男です。


 アマゾネスという女性しかいない街の中にある闘技場だからなのかはわかりませんが、とにかく男所帯です。

 そんな中で、久々に女性の声を聞いたので目を向けてしまいました。


 女性に飢えているわけではありませんが、久々に女性から痛めつけられたいと思っていたことも理由の一つです。

 エレオノーラさんの加虐性が懐かしい……。


「ほとんど来ないから、もうわからないなぁ……」


 その女性も、やはりアマゾネスのようでした。

 枯れているというわけではないと思いますが、白い髪を後ろでまとめています。


 肌はアマゾネスらしく、綺麗な褐色でした。

 唇に艶があり、近くにほくろがあるのが色気を醸し出しています。


 カタリーナさんのような強気な女性がアマゾネスには多いらしいのですが、困ったように眉を下げている彼女は、何だか温和そうな雰囲気がありました。

 服装も、露出度が高くて開放的なものを着ている方が多いアマゾネスですが、彼女はあまり肌を見せていません。


 とはいえ、衣服の上からでも分かるほど、そのスタイルの良さは際立っていましたが。

 豊満な胸やお尻は、エレオノーラさんに匹敵するかもしれません。


 ……あれで窒息させられたら、またどのような快感が生まれるのでしょうか。


「あの……お困りですか?」


 私がそう声をかけると、驚いたように目を丸くして振り返ります。

 近くで見ると、彼女の美しさがよく分かりました。


「あー……少しね。見学のつもりで来たんだけど、久しぶりすぎて道がわからなくなっちゃって……。本当、迷路みたいよね」


 頬を恥ずかしそうにかきながら、口を開くアマゾネス。


「そうですねぇ。ここにはたくさんの剣闘士がいますから、それなりの広さでないとダメなんでしょうね。それに、アマゾネスの皆さんがここをとても重要だと思っているみたいですし……」


 命を落とすことも稀ではないこの場所ですが、戦いは毎日繰り広げられます。

 そのために多くの剣闘士を補充しておいて、欠員が出ても問題がならないようにしているのだと、先輩から教えていただきました。


 その分、その人たちの寝る場所などが多くいるので、非常に大きくて複雑な作りなのです。

 私も、ユーリさんに見つけられるまで迷ったことが一度あります。


 そのまま遭難死するのもいいかなと思っていたのですが……。


「出口に向かうのでしょうか? それならば、案内できますが……」

「本当! よかった、凄く助かるぅ」


 私の申し出に、嬉しそうに破顔する女性。

 彼女を見ていると、何だかアンネさんを思い出しますね。


 私に期待していると言ってくれたアマゾネス。彼女は、あまり注目されていない私の試合に、カタリーナさんと毎試合見に来てくれています。

 勝つたびに飛び跳ねて喜んでくれている彼女を見ると、何だか嬉しくなりますね。


 彼女が私を殴りつけて誘拐した張本人なんですが。


「では、行きましょうか」

「あ、待って」


 案内しようとすると、女性に呼び止められてしまいました。

 何事かと見れば、彼女は私の腕をまじまじと見ていました。


「君、怪我しているじゃない」

「ええ、まあ。先ほど戦っていたものでして……まあ、これくらいなら大丈夫です。あなたを案内してから、治療していただきますよ」

「先に治療だよ。確か、こっちだよね?」


 女性は怪我をしていない方の腕を掴んで、グイグイと先に行ってしまいます。

 ち、力が強い……。流石はアマゾネスですね。


 こんな力で攻撃をされたら、いったいどれほどの苦痛を味わうことができるのでしょうか……。

 ……確か、ここの剣闘士はアマゾネスに強いと認められたら、彼女たちと戦うことができるんですよね。


 ユーリさんも、何人かと戦ったとおじさんが言っていましたし。

 ……私も認められて、彼女のような人と戦ってボコボコにされてみたいものです。


「あっ、やっぱりあった。おぼろげだったけど、記憶に従ってきてよかった」


 女性と私がたどり着いたのは、軽傷の人が来る医療部屋でした。

 重傷の人は、また別の場所に運ばれるんですよね。


 中に入ると、そこに人はいませんでした。

 普段はここに一人くらいは職員の方がいらっしゃるのですが……もしかしたら、重傷者が何人も出てそちらに応援に行ったのかもしれませんね。


「あ、誰もいない。うーん……こういうところは改善しないといけないなぁ。……あ、そこに座って。それくらいなら、あたしでも治療できるからさ」


 女性はそう言うと、色々な物がしまわれている棚をごそごそとあさり始めました。

 勝手に物資を使ったらいけないはずなんですが……ばれて怒られるときは、私が身代わりになりましょう。


「そう言えば、まだ自己紹介していなかったよね? 私の名前はガブリエルっていうの。君は?」

「私の名前はエリクです」

「エリク? どこかで聞いたことがあるような……」


 うーんとぽってりとした唇に手を当てながら、何かを考える女性――――ガブリエルさん。

 奇遇なことに、私もガブリエルという名前をどこかで聞いたことがあるような気がします。


「あ、確か、この国の勇者の名前がそうだった気が……えっ!? 何でここにいるの!?」


 先に思い出したのはガブリエルさんの方でした。

 彼女は棚から薬や包帯を取り出しながら、ぎょっとしたように私を見ます。


「罪を犯したの?」


 ガブリエルさんは私の前に座り、腕の傷を治療し始めてくれました。

 傷薬がしみるのが、また気持ちいい……!


「いえ、していませんね。ラート領にも滞在していたわけではなく、通り抜けようとしていただけですから」

「え、そうなの? じゃあ、いったいどうして……」

「いやぁ。アマゾネスの方に後頭部をいきなり殴りつけられて、誘拐されまして……」

「えぇっ!?」


 いやはや、あれは素晴らしい体験でした。

 正直、殴りつけられて誘拐されるという経験は、未だになかったものですから……快楽もまた大きなものでした。


 あれほどのアグレッシブで素晴らしい体験をさせてくださったアマゾネスに、感謝を。


「ど、どういうこと!? そんな方法で、今まで剣闘士を集めてきたの!?」

「いえ、私が初めてらしいですよ? 僭越ながら勇者と名乗らせてもらっているからでしょうか」

「どうしてそんなに穏やかなの!?」


 ガブリエルさんは、とてもショックを受けたようでした。

 ……この方は、アマゾネスらしくない思想の持ち主なのかもしれません。



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