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第七十九話 犯罪者たち

 










「ここが、アマゾネスの街ですか……」


 私は初めて入るアマゾネスたちの街を見ます。

 あまり、王都で暮らしている人々と生活は変わらないように思えます。


 ただ、気候が暖かいせいか、薄着な人たちが多いですね。

 そして、何よりも私たちのいる普通の街と違うのは、性別が女性の方ばかり……いえ、女性しか存在していないことです。


「どう? あたしたちの街は」

「そうですね。活気もあって、良い街だと思います」

「それは嬉しいねぇ」


 アンネさんの質問に答えれば、カタリーナさんがふっと笑う。

 彼女たちは、自分たちの故郷のことが大好きなようですね。


 ……少し文句でもつけた方がよかったでしょうか? 怒られたかったです。

 しかし、実際に活気はありますし、アマゾネスの皆さんもとても良い笑顔を浮かべているように感じられます。


「おぉ!」

「美人ばっかりじゃねえか!!」


 後ろの檻に閉じ込められている人相の悪い人たちも、嬉々として檻にしがみついてアマゾネスたちを見ています。

 褐色の肌とスタイルを存分にさらけ出しているので、彼らの目の保養になるのでしょう。


 これほど開放的でおおらかな人は、この街以外ではなかなか見られないことですしね。

 いささかのんきな気もしますが。


 男たちの不躾な視線を受けても、嫌がって逃げるような人もいません。

 ……おおらかすぎやしませんか?


 アマゾネスたちも、私たちを見てきゃいきゃいと楽しそうに周りの人たちと話しあっています。

 チラリと一瞬目が合えば、うっすらと微笑んで軽く手を振ってくれるような妙齢のアマゾネスまで。


「そりゃあ、あんたたちはアタイたちの娯楽になるんだからね。強かったら、大人気さ」

「闘技場には、強い男がいっぱいいるからね! これからそこに送られる君たちも、血と闘争で男を磨いたら、アマゾネスの誰かが見初めてくれるかもしれないよ!」


 カタリーナさんがふっと笑い、アンネさんが無邪気に言います。

 ああ、なるほど。闘技場に叩き込まれる、これからヒーローになるかもしれない卵を見てキャアキャア言っていたわけですね。


 うーん……やはり、アマゾネスは普通の人とは違いますねぇ。

 何だか、ちょっとゾクゾクしてしまいました。


「さ、着いたよ。降りな」


 カタリーナさんの言う通り、馬車が止まっていました。

 馬車から降りて、目の前にそびえたつ巨大な建造物を見上げます。


「これが、あたしたちの最高の場所、闘技場だよ!!」


 アンネさんが説明してくれます。

 おぉ……。大したコメントもできず、私はただ感心していました。


 こんなに巨大で立派な闘技場があるんですね。

 正直、ここで戦うような機会に恵まれるとは思っていなかったので、嬉しいです。


 男たちは、すでに檻ごと闘技場の中に運び込まれています。


「じゃあね。不様に死なないことを祈っているよ」

「またね! あたし、君には期待しているからねー!」


 カタリーナさんとアンネさんは、そう言って去って行きました。

 いつか、私をボコボコにしてもらいたいものです。


 私はそう思いながら、この闘技場の職員であろう男についていくのでした。










 ◆



 闘技場の中を歩いていると、街の中とは一変してほとんど男しかいませんでした。

 その変わりっぷりに驚いていると、私たちは少し開けた場所に集められていました。


 私と同じように並んでいるのは、おそらく今日ここに送り込まれた人たちでしょう。

 そして、そんな私たちと向き直るようにして立っているのは、この闘技場の運営者たち、もしくは先輩たちでしょうか。


 そんな中から、一人の一際屈強な男が前に出てきました。


「よく来たな、犯罪者ども!」


 私は犯罪者ではないのですが……。


「ラート領で罪を犯した者は、当然ここに送られてくることは知っているだろう? ならば、俺から貴様らに言うことはねえな!?」


 いえ、罪を犯したことはないはずなので、是非色々と聞かせてほしいのですが……。

 有無を言わさずといった感じですので、おそらく何かを言えば激怒するような人種でしょう。


 ……どのタイミングで言葉をはさみましょうか。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 私がそんなことを考えていると、先を越されてしまいました。

 くっ……! 私以外にもMの道を行く者がいましたか……!


 そう思ってそちらを見れば、汗を大量にかいておどおどとしている中年のおじさんがいました。

 ふっ、なかなか良いM人生を送っていそうな人ですねぇ。


「私は何も悪いことをしていないんだ! 騎士の奴らに、でっち上げられたんだ! だから、私はここから出してくれ!」


 なんと……そんな素晴らしい理不尽を受けていたのですか。

 ……であるならば、Mの者は喜ぶはずなのですが……どうやら、彼は同胞ではなかったようです。


 しかし、もし本当に罪をでっち上げられてこの闘技場に放り込まれたというのであれば、それは危ない話ですねぇ。

 このラート領を治める貴族が、これを認めているということなのでしょうか?


「ふん、それはできねえな」


 ですが、彼の要望はあっさりと却下されました。


「な、何故……!?」

「いいか? 過程なんて関係ないんだよ。ここに送られてきたってことは、もう戦うしかねえんだ。そして、アマゾネスのクソどもに認められること。それ以外、ここから抜け出す術はねえ」

「そ、そんな……!」


 愕然として肩を落とす中年の男性。

 もし、本当に殺し合いをここで強制されるのであれば、彼はとても生きていられそうにありませんね。


 鍛えている様子もありませんし……彼と話している厳つい男などは、もうムキムキですよ。

 しかし、そうですか。私は犯罪をしたわけでもないのですが、抜け出すこともできないんですね。


 くっ……快感……っ!


「いいか! ここでは剣闘士の実力を見て相手が決められるなんてことはねえ。訓練を受けられるなんてこともねえ。いきなり戦いに赴いて、そして勝って生き残る。それが、ここでやるべきことだ。後は貴様ら自身で何をするか考えろ。飯を食ってもいい、自主的に鍛錬をしてもいい。解散!!」


 男はそう言うと、さっさとどこかに歩いて行ってしまいました。

 彼と同じグループであろう男たちも、ニヤニヤと笑いながら出て行きました。


 まあ、彼らからすれば勝てそうな初心者がたくさん入ってきたわけですから、笑っても不思議ではありません。

 残された新人たちは、様々なことを行っていました。


 どこかに散らばる者や、近くにいる者と激しい喧嘩を繰り広げる者。

 うーん……流石は犯罪者ですねぇ……。


 さて、私はどうしましょうか。

 そんなことを思いながら佇んでいると……。


「少しいいか?」

「はい?」


 声をかけられたので振り向くと、そこには整った顔立ちの男が立っていました。

 はて、彼は檻で運ばれてきた犯罪者たちの中にはいなかったようですが……。


 彼は私の視線を受けて、薄く微笑むのでした。



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