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第七話 癇癪姫たるゆえん

 










 デボラ王女のお願いをバッサリと切って捨てたミリヤム。

 そのせいで、この部屋の中の空気が恐ろしいまでに冷え切っていました。


 おっふ……鳥肌が立ちました。いいですねぇ……。


「…………あのさぁ、僕は君に頼んでいるわけじゃないんだけど。僕は勇者に頼んでいるの。引っ込んでいてくれる?」

「嫌です」


 デボラ王女の言葉に、ミリヤムは一切退くことをしません。

 考える間もなく、すぐに切り捨ててしまいます。


 これほど頑なに拒絶されたことがないのでしょう、デボラ王女も目に見えてうろたえていました。

 それもそのはず、この国で強権を振るい続ける王族に逆らう者など、ほとんど存在しないのですから。


 彼女も生まれてきて初めて拒絶されたのではないでしょうか?


「……っ!ゆ、勇者はどうなの?僕のお願いを断るの?」


 慌てて私の方を見るデボラ王女。

 私ならば、お願いを聞き入れてくれると信じているのでしょう。


 そして、それは正しいです。

 何故なら、デボラ王女のお願いを聞けば、間違いなく私に苦難が待ち受けているからです。


 私は了承の意を伝えるために、口を開きました。


「いえ、私は――――――」

「断らないと、もう回復してあげない」

「…………」

「勇者!?」


 私は口をつぐみます。

 すみません……!でも、ミリヤムの素晴らしい速度の回復力とあの激痛がなければ、私が旅をして被虐を楽しむことが半減してしまうのです……!


 デボラ王女と共にダンジョンに行くことも素晴らしい苦痛が待ち受けているでしょう。

 しかし!ミリヤムとこれからも旅を続けて回復魔法をかけてもらうためには、切り捨てなければならない選択もあるのです。


 ミリヤムほど優れた回復魔法使いは存在しませんし、そして私を痛めつけてくれる人もいません。


「うぅぅ……っ!ぼ、僕を裏切るのかい!?」

「…………」


 目をうるうるとさせて私を見ますが、それに応えることができません。

 くぅ……人生には苦渋の決断が迫られる時があるといいますが、まさにこの時ですね……。


「ふふん。諦めてください、デボラ王女。エリクは忙しいんですよ。あなたたち王族のせいで」

「うぅぅぅぅぅ……っ!!」


 私が折れないことを確認すると、ミリヤムが珍しく頬を緩ませて勝ち誇ります。

 ええ、まあ確かに私はレイ王から様々な無理難題を言いつけられているので、快楽に溺れることに忙しいですが……。


 ……というか、今デボラ王女は目に涙が後少しでこぼれてしまいそうなほど溜めて震えているから気づいていませんが、今の発言はなかなか危なかったですよ、ミリヤム。

 罰を受けるのであれば、私が代わりに引き受けますが。


「…………あっそ。じゃ、もういいや」


 妄想ではあはあしていると、デボラ王女が感情を全て抜き落としてしまったかのように、まっさらな表情でつぶやきました。

 それと同時、何やら部屋の中がおかしなことになっていました。


「な、なに、この魔力……!?」


 ミリヤムが目を見張っています。

 彼女は魔法使い、私よりも魔力の流れに敏感なのです。


 しかし、ほとんど魔法を使えない私でも分かるほど、濃密な魔力がこの部屋に充満しています。

 こ、これはまさか……!!


「邪魔な奴は、いらない」

「…………っ!?」


 デボラ王女がポツリと呟きます。

 そうすると、魔力渦巻くこの部屋で、さらに危険な……魅惑的なことが起こります。


 ミリヤムの周囲に、魔力が急速に集まっていくのです。

 それは、もはや私でも視認ができるほど。


 これはやはり……!!

 このままでは、ミリヤムが危険な目に合います!


 それは、絶対にさせません! 私の快楽も得ることができますし!


「ずる――――――じゃない、危ない!ミリヤム!!」


 私はミリヤムを突き飛ばします。

 そして、次の瞬間。


 ズドォンッ!!!!


 私の身体に凄まじい衝撃が走ります。

 それなりに頑丈な私の身体ですが、内臓は揺れて骨が折れ、血が溢れます。


 さらに、猛烈な熱が襲い掛かり、汗が噴き出ます。

 これは、まさしく爆発。


「がはぁぁぁっ……!!!!」

「え、エリク……っ!!」


 ふらりと倒れそうになる私に駆け寄ろうとするミリヤム。

 しかし、まだです!私のMセンサーが、まだだと主張しているのです!


「王族の……というか、僕のお願いを断るってなに? ありえないんだけど」

「がふっ!ごはぁっ!!!!」


 デボラ王女は冷たく言い放ちます。

 血反吐を吐いている私を見る目も、子供がするようなものではないほど恐ろしく冷たいものでした。


 今この場で起きているのは凄惨の一言に尽きます。

 地面に突っ伏すことすら許されず、私の身体は二たび三たびと爆発に打たれます。


 口からあふれ出る生暖かい血液。あぁ……これは、内臓がいくつかやられましたか?

 ちらりと右腕を見ると、半分千切れかかっています。


 激痛と熱さ、これらが私を襲います。

 あぁ……意識が遠くなってきました。


 痛みではありません。私の痛みへの耐性はなかなかのものですからね。

 おそらく、血を流し過ぎたのでしょう。


「や、止めてっ!エリクが死んじゃう……!!」


 ミリヤムが爆発の中にも、怖気づくことなく私に近寄ってきます。

 ……危ないですよ。これは、熟練したMにしか楽しめない酷な場です。


 それに、私は死なないですしね。

 ミリヤムの制止の声にも、デボラ王女の爆発は止まりません。


『癇癪姫』……噂に違わぬ逸材のようです。


「分かった!私もエリクもダンジョンに連れて行ってあげるから!だから、止めて……!」

「えっ、本当?」


 くりくりと大きな瞳から涙をこぼしながら、ミリヤムが哀願します。

 すると、先ほどまで一切聞かなかったデボラ王女もあっさりと爆発を止めます。


 ……残念です。

 というか、自身の要望が通るとなればあっさりと止めるとは……『癇癪姫』とはよく言ったものです。


「あーあ、最初から僕の言うことを聞いていたらよかったのに……。君のせいで、勇者が死んだんだよ? もぉ……別の人にダンジョンに連れて行ってくれるようにお願いしないといけないじゃないか」

「エリク……!」


 しかも、私をズタボロにした原因をミリヤムに押し付けるという畜生ぶり。

 頬を膨らませて可愛らしい顔をしているのですが、やっていることは悪魔の如くです。


 とはいえ、レイ王とは違って、デボラ王女にそのようなあくどい考えはないように思えます。

 おそらく、幼いが故の無邪気な残酷さなのでしょう。


 ……しかし、私は死んでいないのですが。

 まあ、全身やけどだらけでかつ身体のあらゆるところが衝撃でボロボロになっており、吐いた血の量もなかなかのものですから。


 普通の人なら、すでにお陀仏でしょう。


「ぐっ、ふっ……。だい、じょうぶ……ですよ、ミリヤム……」

「エリクっ!!」


 目からポロポロと涙をこぼして私の身体を大切そうに抱きしめるミリヤム。

 ふふっ……私の性癖のために彼女を悲しませるのは、私の望むところではありません。


 このようなことは、できるだけ避けねばなりませんねぇ。


「回復魔法を……お願いします……」

「う、うん……っ」


 ミリヤムは少しためらいながらも、私に回復魔法をかけてくれます。

 流石はミリヤム。他の回復魔法使いとは一線を画した回復スピードと治癒の完成度。


 そして、この痛みもまたすばらしく……!


「嘘ぉ……。僕の魔法を直撃しても、死なないなんて……」


 私が激痛による快感で身体をビクンビクンさせていると、デボラ王女が信じられないと目を見張っていました。

 いや、普通は死にますよ?


 ただ、私のスキルがあったということと、私が苦痛を快楽に変換することができるという性癖を持っていたということです。


「えへへっ!凄いんだね、勇者!僕、君のことを気に入ったよ!」

「そう……ですか……」

「うん!僕と一緒に、ダンジョンに行こうねっ!」


 私の手を握ってブンブンと上下に振るデボラ王女。

 ……あぁ、身体を無理に動かされるからまた出血が……。


 ふっ……やはり、この国の王族は素晴らしいですねぇ……。



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新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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