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第六十七話 老人の悪意

 










「そうか。ご苦労だったの」


 ナータンは報告を受けると、そう言って報告者を労った。

 その言葉が部屋から出て行けと言っていることを暗に秘めていることを察知した報告者は、静かにその場を去った。


 一人になったナータンは、独り言をつぶやき始める。


「うーむ……エレオノーラは勇者を殺せなんだか。あの正義狂いが、まさか一度悪とみなした者を見逃すとは……世の中は分からんものじゃ」


 ナータンはしわくちゃの顔をさらに深くさせる。

 エレオノーラがエリクを見逃すことは、まったく想定していなかったことだ。


 エレオノーラが彼を殺す。またはエリクが彼女を殺すということは考えていたが……。


「さてはて、どうするかのう……」


 ここでエリクを殺せていれば、王族側の戦力を大きく削ぐことができていたのだが……。

 また、彼を忠節の騎士として側近にしているデボラにつけいる隙ができたかもしれない。


 王族の中で取り込むことができそうなのは、彼女だけだからだ。

 レイ王は言うまでもない。ヴィレムセ王国の頂点に立つ存在にして暴君とも言える存在であり、民からの評判は決して良いものではない。


 しかし、民主導での反乱を一切起こさせずに国家運営をしているその技量は確かなものである。

 ナータンの子分的な存在であったビリエルの反乱の後も、見事な事後処理で混乱や続いた反乱を起こさせなかった。


 では、オラース王子はどうかと言われれば、それもまた不可能だろう。

 彼はレイ王と違って民を心から思いやり、民のために何かをしようと積極的に活動している。


 まあ、これは父と違って清濁併せのむことができないということでもあるのだが。

 そのため、民からの評価も王族の中では最も高い。


 そんな彼を取り込むことは、できそうにない。

 一方、デボラ王女はどうか。


 彼女はレイ王遺伝の傍若無人な性格を持っており、スキルである『爆発』で何人もの死者を出していることから、民からも良い評判は聞かれない。

 家族以外から、ほとんど孤立していたと言えるだろう。


 ナータンはこれまで、彼女に何とか取り入って国家の中枢に潜り込もうとしていたのだが……。


「勇者などというぽっと出の者が現れたからのぅ。しかも、デボラ王女に気に入られたときた。本当に、困った虫じゃわい……」


 ナータンは、仲間内では穏健な派閥なのだ。

 王族を皆殺しにして国盗りをする、なんて過激派とは違う。


 正直言えば、自分さえ良ければ良いのだ。

 したがって、王族を皆殺しにして体制をひっくり返す必要はまったくなく、ただ自分が中枢にもぐりこんで美味い汁が啜れたらそれでよいのだ。


「じゃが、それにはワシの血がのぅ……」


 貴族というのは血で得られる特権である。

 王族の側近、または近くにいられる者は、相当貴い血の一族である。


 ナータンの一族の血は、そこにもぐりこむだけのものではなかった。

 だからこそ、王族に気に入られて中に入り込むしかないのである。


 穏健な彼は、自分に強固な警備の間を潜り抜けて王族を皆殺しにできるとも思わないし、大規模な反乱を起こせるとも思っていなかった。

 ビリエルのような行為は、決してしてはならない悪手であった。


 たとえ反乱がうまくいったとしても、その後荒廃した国をどうしようというのか。隣国も黙っていないだろう。

 うまい汁を啜るためには、国がボロボロに疲弊してはならないのである。


「じゃが、そうも言っていられんわな……」


 いくら暴力を避けているからといって、まったく使わないということではない。

 実際、彼自身が手を下さずとも、エレオノーラを使って今まで暴力を振るってきたのだから。


「勇者が生きているだけでなく、エレオノーラまであちら側にいってしまえば、本当にワシに好機がなくなってしまうからの」


 エリクは国民から、とくに王都の民たちからは高い人気がある。

 そんな彼がデボラに仕えていれば、いずれエリクを従えているデボラを見る目も変わってくるだろう。


 そうなれば、彼女が自分の傀儡にできなくなってしまうかもしれない。

 だからこそ、エリクに生きていてもらっては困るのであり、そんな彼を処分するためにエレオノーラをけしかけたのだが……。


 そんな彼女が逆にほだされ、ナータンの元からデボラの派閥へ……エリクの元へと行ってしまうのは断じて避けなければならない。

 正義狂いの扱いやすい女であるが、彼女の持つ力というものは非常に強大で役に立つ。


 さらに、エレオノーラもまた民を結果的には救っているため、評判も良い。

 そんな彼女がデボラの元に行けば、さらにデボラの名声が高まるだろう。


 また、エレオノーラ自身の高い戦闘能力で、ナータンの都合の悪い奴を処理していくこともできなくなる。

 ナータンのしていることは、傍から見れば間違いなく悪とみなされるものだ。


 それがエレオノーラにばれてしまえば、その強大な力は自身に向くに違いない。


「それはマズイのぅ。やるのであれば、信頼されているであろう今のうちじゃ。少しでも不審に思われれば、こちらがやられかねん」


 ナータンはエレオノーラを切り捨てる覚悟を決めた。

 彼女を失うことは痛いが……自身の未来と命のためならば、あっさりと切り捨てることができる。


 エレオノーラが抵抗すれば、殺すことは難しそうだが……。


「なに、別に殺す必要はない。あれだけの美貌じゃ。最後の最後に、ワシの役に立ってくれるだろうて」


 エレオノーラの美しい容貌を思い出すナータン。

 美しい黒髪、凛々しい顔立ち、整った豊満なスタイル。どれも、高額な評価がつけられるだろう。


 ナータンはほくそ笑んで、自身の都合の良い未来を信じてやまなかった。



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