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第六十六話 仲直り?

 










 エレオノーラの騒動があった日から、数日が経った。

 その後、彼女とエリクたちは再び肩を並べて王都の治安のために活動をしていた。


 一時は相対して殺しあった(一方的)のだが、以前のように共に行動をしているのであった。

 しかし、完全に前と同じに戻ったというわけではもちろんない。


 いや、エリクとエレオノーラの関係は悪くない。むしろ、良くなったとも言えるだろう。

 問題は、エレオノーラとミリヤムである。


 エレオノーラはミリヤムに対して負い目があるし、ミリヤムはエリクをボコボコにした彼女に思うところがある。

 本当なら、距離をとって別々に行動したいくらいだ。


 しかし、加虐性を一身に受け止めると宣言したエリクはそうしようとしないし、エレオノーラもそんな彼を逃がそうとはしない。

 そのため、割と嫌々行動を共にしているのである。


「これは、いけませんねぇ……」


 そのことに憂慮しているのがエリクである。

 いや、彼は仲間の間での確執は嫌いではなく、むしろ好きである。


 その間に立てば、両者からの冷たい視線をいただくことができるし、それがなくともギスギス感を楽しむことができるからだ。

 しかし、エレオノーラとミリヤムの間にあるのは、そういったいがみ合いではないのである。


 ミリヤムとデボラの間にあるのは、そういうギスギス感であるのだが。

 エレオノーラは負い目のようなものをミリヤムに持っているし、ミリヤムはエレオノーラが欲望のままに望んでエリクをボコボコにしたのではないということを知っているので言いたくても言えない歯がゆさがある。


 つまり、ギスギス感はなく、気まずさがあるのである。

 まあ、別にそれでもエリクは楽しむことができているのであるが、彼女たちがそれを望んでいないことは明白。


 自身の欲望のためとはいえ、できる限り彼女たちに嫌な思いはさせたくない。

 そのため、エリクは彼女たちの仲を取り持つため、とある考えを思いついた。


 それは、酒の席を設けてとことん話し合いをさせようというものである。

 これで、少しでも自分たちの思いをぶつけ合って気まずさがなくなれば、と思った次第である。


 思い立ったが吉日。エリクは早速彼女たちを誘い、その日のうちに酒の席を設けることに成功したのであった。

 そして……。


「うぅぅぅぅ……」


 ミリヤムがエリクの膝の上で、顔色を悪くして唸っていた。

 酒に弱い彼女は、少し酒を飲んだかと思うとエレオノーラに対して思っていたことをぶちまけ、スヤスヤと眠ってしまったのであった。


 エレオノーラもまた酒を飲み、ミリヤムほどではないにしても少し酔っ払い、彼女と本心をぶつけ合った。

 今は、エリクの前で頬を真っ赤にしながら酒を静かに飲んでいた。


「……今日はありがとうございます、エリクさん」

「いえ、お気になさらず。少しは打ち解けることができましたか?」

「ミリヤムさんはどう思っているかわかりませんが……少しは壁を取り払うことができたのではないかと思います。エリクさんのおかげです」

「いえいえ。私のためでもありますので」


 礼を言ってくるエレオノーラに、エリクは軽く手を振る。

 そう、これは自分のためでもあるのだ。


 以前、エレオノーラと酒を飲んだ時に彼女が酒乱であることはすでに把握している。

 そして、今回のように心の中のものをぶちまけなければならない場合、酒を飲まなければやってられないだろう。


「(そうなれば、再び私に暴力が向くことは必須……!)」


 以前、エリクは顔面に尻を乗っけられて窒息死寸前までいった。

 あのときの快楽を、再び味わいたい。


 そんなエリクの欲望も多分に混じっての提案であったのだ。


「ふふ、私とミリヤムさんの仲を修復するのが自分のためですか。エリクさんは、本当に優しいんですね」


 エリクの性癖を知らないエレオノーラは、良い方向に勘違いしてくれている。

 誰にも決して見抜かれていない彼もまた、案外凄いのかもしれない。


「……どうして、エリクさんはそんなに人に優しくできるのですか?」

「優しく、ですか?」

「はい。私のように、加虐性が原因となって転じて人を助けるように、人は大抵何らかの対価を求めて人を助けると思うんです。でも、エリクさんはそれがない。不思議というか……理解ができないんですよね」


 エレオノーラは酒も入っているせいか、少し踏み込んでエリクに尋ねる。

 いいえ、エリクも欲望を満たすためにやっています。


 ただ、それを他者に決して感づかせないだけである。

 演技で言えば、エレオノーラも相当なものである。


 似たような性癖を持つエリクでなければ、決して見破られるようなことはなかったのだから。


「昔からそうなんですよ。私の性分みたいなものです」


 そう、エリクのドMは昔からである。

 ゆえに、昔から自身の身体を投げだすようなことを繰り返してきたのだ。


「……本当に、エリクさんは優しいですね」


 クスクスと笑うエレオノーラ。

 彼女の顔が真っ赤になっており、目が据わっていることにエリクは気づく。


「(ふっ……もうすぐですか)」


 すでに、エレオノーラにいつもの理性はないものとエリクは判断した。

 以前と同じ状況を作りだしたのである。


 エレオノーラを色々な意味で警戒するミリヤムを酒で酔い潰したのは正解だったようだ。

 目の前の彼女は、ふらふらと頭を揺らし始めている。完全に酔った合図だ。


 さて、これからどのようなことをされるのだろうか。

 エリクはワクワクして待っていた。


 以前のように、尻にしかれて窒息死? あの厳つい手甲を召喚してフルボッコ?

 どちらにしても、エリクからすれば大歓迎である。


 酒によって枷が外れ、加虐性が解放されるかもしれない。

 以前は店主によって制止があり、その問答でミリヤムが起きてしまったらしいのだが、今はその反省を活かして個室を借りている。


 もはや、誰も暴走したエレオノーラを止める存在はない。


「(さあ、エレオノーラさん。私をボコボコにしてください!)」

「……エリクさん」


 あからさまに不純な欲望を内心で昂らせていたエリクであったが、エレオノーラの声音が真剣な色を帯びていたので、一度自重することにする。


「エリクさんが私の加虐性を受け止めると言ってくれたので、私ももう一度それに向き直って戦おうと思います。まずは、悪人でも殺さない、いたぶらない努力をします」

「……なるほど」


 エレオノーラの決意表明に、神妙な顔つきで頷くエリク。

 それをしていれば、いつかミリヤムと本当にわかり合える日がくるかもしれない。


「どうしても我慢できなくなれば、私がその加虐性を受け止めますので、ご安心ください」


 むしろ、我慢している分以前より強力な暴力が襲い掛かってくるかもしれない。

 エリクは今から興奮して止まない。


「……ふふ、自分で殴られると宣言する人がどこにいますか」


 エレオノーラはそう言いつつも嬉しそうに微笑んだ。

 そして、少し恥ずかしそうにしながらも口を開く。


「私がこうしてまた加虐性と向き直り、あなたたちとお酒を飲むことができているのは、エリクさんのおかげです。改めて、感謝します」


 ハラハラと黒髪を垂らしながら、軽く頭を下げるエレオノーラ。

 さて、ボコボコにしてもらおうと考えていたエリクは、感謝を受けても不完全燃焼である。


 しかし、エレオノーラに非がないことは明らかであり、彼も分かっている。

 エリクが勝手に期待していただけのことなのだから。


「顔を上げてください。私のしたことなんて、大したことないんですよ。加虐性に立ち向かおうとしたエレオノーラさんの気持ちを、少しお手伝いしただけのことです」


 複雑な心境だが、何とか言葉を絞り出すエリク。

 その言葉を受けて、エレオノーラは微笑みながら顔を上げた。


 その後、しばらく無言で静かな時が流れた。

 エリクは自身の性癖を落ち着かせるため、エレオノーラは気恥ずかしさをこらえているためであった。


「……ふふ。他人に感謝なんて慣れないことをしたので、少し暑く感じますね」


 パタパタと手を仰いで空気を送るエレオノーラ。

 確かに、顔は真っ赤だ。暑く感じるのは、酒と気恥ずかしさ両方があるためだろう。


「ふぅ……少し脱ぎますね」


 そう言うと、エレオノーラは肩に羽織らせていたものを外した。

 エリクもとくに何も反応せずそれを見ていたのだが……。


「よいしょ」


 エレオノーラが簡素な衣服もたくし上げたことには、流石に目を丸くした。

 普段は厳つくて重厚な鎧に覆われている彼女の豊満な胸が、エリクの前で跳ねる。


 幸い、ブラをつけているため全て見えているわけではないのだが、彼は驚きを禁じ得ない。

 しかし、Mを刺激されているわけではないので微塵も興奮しないのは、流石エリクと言えるだろう。


「あのぉ……エレオノーラさん? そこまで脱ぐ必要はないのではないでしょうか……」

「何を言っているんですか? 暑いんだから、脱がないといけないんです。私は当たり前のことをしているんです」


 頬を膨らませて、むんと意気込むエレオノーラ。

 普段は冷静で凛々しい女騎士が、まさか目の前で脱衣ショーを披露するとは……エリクは困り果てる。


 酒に酔わせてボコボコにしてもらう算段だったのに、まさかのストリップである。嬉しくない。

 エレオノーラほど美しい女を前にしてそう思えるのは、エリクくらいだろうが。


 さて困ったと悩む彼をしり目に、彼女は足首まで隠すほどのロングスカートをもズリ下ろす。

 肌の露出を極限まで減らしている普段のエレオノーラからは考えられないほど露出が多い無防備な状態。


 エリクは個室にしておいてよかったと思うと同時に、どうして処理をしようかと悩む。


「エリクさん」

「はい?」


 考え込んでいるうちに、エレオノーラは前の席から隣に移動していたようだ。

 下着姿の彼女が覗きこんでくる。


 目の前に重そうな双丘があるが、もちろんエリクがどうこうするはずもない。

 何を言うのか? もしかして、正気に戻って一発くらいビンタをくれるのだろうか?


 そう思っていると……。


「エリクさんも暑いでしょう? 脱ぎましょう」

「え、は……いえ、私は……」


 断ろうとするエリクを無理やり脱がそうとするエレオノーラ。

 多くの人の目がある場所で屈辱的に脱がされるのは大歓迎だが、個室で脱いで何になるというのか。


 エリクは抵抗して、エレオノーラと共に倒れこんでしまった。


「ふぎっ!? ……痛い」


 エリクの膝の上から頭を落とされたミリヤムは、涙目になって起きる。

 タイミングが非常に良いのか悪いのか……。


「…………は?」


 ミリヤムの目に飛び込んできたのは、衣服をはだけさせて倒れこんでいるエリクとエレオノーラであった。

 下になっているエリクはまだしも、彼の上に乗っかっているエレオノーラなど完全に下着姿である。


 エリクは肌に色々と柔らかな感触を感じながらも、ミリヤムが目を覚ましたことに目を輝かせる。

 フルフルと震えている彼女の爆発が楽しみだからだ。


「エリクさん、脱ぎましょうよぉ……」


 一方、脱衣魔となったエレオノーラはミリヤムの起床に気づいておらず、ぐいぐいと身体を押し付けながら衣服を脱がそうとしている。

 それを見たミリヤムは、ついに堪忍袋の緒が切れて……。


「もう、エレオノーラさんはお酒を飲まないでください!!!!」


 小さな雷が落とされるのであった。



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