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第五十七話 スリ

 










「…………」

「…………」


 エレオノーラさんによるお尻で私を窒息殺人未遂事件の翌日、再び私たちは警邏を行うために待ち合わせをしていました。

 先に待っていたのは、いかつい鎧を身に纏ったエレオノーラさんでした。


 昨日と同じように顔を合わせたのですが……エレオノーラさんが私と視線を合わせてくれません。

 私のすぐ隣でミリヤムが彼女をじとーっと睨んでいることも原因の一つかもしれませんが……何故でしょうか?


「えーと……エレオノーラさん?」

「……ッ」


 私が声をかければ、ビクッと反応するエレオノーラさん。

 えっ……まるで私が加害者で彼女が被害者のような反応……。


 出来ることなら、私が被害者の方がいいのですが……。

 いえ、根も葉もないうわさをこの場面を見て立てられることもいいかもしれません。


 誰かー! この場面だけを切り取って私の悪い噂を立ててくださいませんかー!?


「その……すみませんでした」


 そんな馬鹿なことを考えていますと、エレオノーラさんが私の顔を見ないようにしながら頭を下げてきました。

 ……黒髪の間から見える耳、赤いですよ。


 というか、酔っている時の記憶が消えないタイプの人なんですね。


「酒に酔っていたとはいえ、騎士として決してやってはいけないことをしてしまいました」

「騎士というか、女として……」

「ふぐっ!?」


 ボソリと呟いたミリヤムの言葉に、ダメージを受けるエレオノーラさん。

 まあ、年若い女性が男の顔面にお尻を乗っけるのは、なかなかマズイ絵になりますものね。


「本当に申し訳ありませんでした!」


 再び、深く頭を下げてくれるエレオノーラさん。

 私は彼女の肩に手を乗せ、顔を上げた彼女にニッコリと微笑みかけます。


「いえ、私は最初から怒ってなどいませんよ。一切お気になさらず」


 むしろ、ありがとうございましたと言いたいです。

 窒息する感覚……ふふ、また何かの機会があれば体験したいものです。


 また、エレオノーラさんとは飲みに行きたいものですねぇ……。


「……ちょっとは怒ってもいいと思うけど……」


 ミリヤムは頬を膨らませながらそう言いますが、怒りが微塵もありませんから……。


「さあ、エレオノーラさん。私たちの役目を果たしに行きましょう。民のため、この身を投げだして頑張りましょう」


 そろそろ、誰かを庇って大怪我を負いたいものです。

 確かに、王都は問題が多々あるようでしたが、今のところ大騒ぎになるような問題には直面していません。


 まあ、裏通りなどを行けば嫌でもそのようなことがあるでしょう。楽しみです。


「……ええ、そうですね。頑張りましょう」


 エレオノーラさんは私の顔をじっと見つめ、薄く微笑んで同意してくれました。

 さあ、早く私の身体を痛めつけてやりに行きましょう!











 ◆



「ありがとうございます! 騎士様!!」

「いえ、お気になさらず」


 また困っていた人を助けたエレオノーラさんは、薄く微笑んで手を振りかえしていました。

 警邏を初めて数時間が経ちましたが、今のところ活躍しているのはエレオノーラさんだけです。


 以前のような荒事であれば、私も矢面に立つことができるのですが……。

 彼女は私のMセンサーに似たような特技でもあるのでしょうか、誰よりも早く困っている人を察知して助けに行くのです。


 私とミリヤムはエレオノーラさんから離されないようにするだけで精一杯でした。


「断罪騎士だし警戒したけど……本当に良い人……?」


 ミリヤムが私の隣でポツリと呟きます。

 ああ、そうだ。このことを聞きたかったんです。


「ミリヤム、断罪騎士とはなんですか?」


 その威圧するような素晴らしい二つ名が、エレオノーラさんにあるのですか?

 ミリヤムはあまり詳しいわけではないと前置きしながら、教えてくれました。


「王都でない地方で、犯罪者に苛烈に処罰を下す騎士がいると噂で聞いたことがある。どんな小さな犯罪であっても許さず、血の制裁を加える騎士。だから、断罪騎士」

「それが、エレオノーラさんと……?」

「巨大な手甲で返り血にまみれながら断罪する騎士らしいから……」


 なるほど、手甲を武器にする騎士というのも限られていそうですしね。

 荒事に慣れているであろうグレーギルドの構成員を皆殺しにするくらいですから、彼女の実力も申し分ありません。


 ……そして、私が気になっていたこと。それは、エレオノーラさんがやけに『正義』と『悪』という言葉を重要視しているように感じられることです。

 彼女が正義で、犯罪者が悪。それはそうなのでしょうが、どうにも自分に言い聞かせているようにも感じました。


 ……何だか不穏な予感がしますねぇ。ワクワクです。


「どうかされましたか?」


 考え込んでいるうちに、エレオノーラさんが近くに来ていました。

 少し心配そうに見てくれる程度には、私たちは打ち解けられたようです。


 要は、私たちは悪とみなされていないようです。

 ……ミリヤムはともかく、私は悪と見られてほしいですねぇ。


「いえ、エレオノーラさんの働きに感心していたのです。民に親身になる騎士、尊敬します」

「いえ、これくらい当然です。騎士は正義なのですから、民のために行動するのは当たり前です」


 私の賛辞にも顔色一つ変えないエレオノーラさん。

 ……また、正義という言葉を使いましたね。これが、俗に言うフラグ……!?


 私がウキウキワクワクしていると……。


「待てぇっ、泥棒!!」


 大きな騒ぎが発生しました。

 皆その声の発生源の方を振り返り、私たちの目もそちらに向きます。


 そこには、怒りの形相の男と子供のような少年が追いかけっこをしていました。


「このスリガキ……逃げられると思うなよ……!!」


 少年の手には、大きく膨らんだ財布が。

 うーむ……王都の治安はまだまだ改善途中にあるということですね。


「捕まえたぞ、クソガキ!!」

「は、放せ……っ!!」


 私たちが向かうまでもなく、すでに被害者の男性が少年を捕まえてしまいました。

 これなら、私たちの出る幕もないだろうと思っていると……。


「いってぇっ!?」


 男性の悲鳴が上がりました。

 少年が捕まえられていた腕にかみついたのです。


 拘束が緩んだ隙に、少年はスルリと抜け出して駆け出してしまいました。

 私たちは、男性の元に向かいます。


「大丈夫ですか?」

「ああ、大した傷じゃねえ。……だが、あのガキ、タダじゃおかねぇ……っ!!」


 怒りを露わにする男性。

 その怒りを、私にぶつけてほしい……。


「さて、どうしましょうか、エレオノーラさ……あれ?」


 私たちと行動を共にしていたエレオノーラさんの姿がありません。

 もしかして、また何か困っている人を見つけたのでしょうか?


「……あっち。スリをした子を追いかけて行った」


 ミリヤムが私に教えてくれたのは、この活気ある表通りではなく、暗い裏路地でした。

 これは……事件の香り?


 私は嬉々としてエレオノーラさんたちを追っていくのでした。



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