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第五十話 ラボイ商会へ

 










 ふっ……ついにこの時がやってまいりました。

 私がいるのは、ラボイ商会の前です。


 隣には、当然のことながらエレオノーラさんとミリヤムがいます。

 しかし……とても大きな館ですね。


 どうやら、お店でもありクレト・ラボイが住む家でもあるようです。

 立派な建物に、広大な敷地。庭もあるようです。


 寒村の出である私とミリヤムは、まさに圧倒されてしまいます。

 とはいえ、流石にヴィレムセ王国の王城ほどではありませんがね。


 デボラと知り合ってから王城に行く機会も増え、みっともなく狼狽することはありませんでした。

 ……いえ、狼狽して馬鹿にしたような目で見られた方が、私的にはよかったかもしれませんね。


 しかし、最近急成長した商会とは思えないような建物です。成金というのでしょうか?

 ぼけーっと私たちが立ちつくしていると、建物からこちらに近づいてくる男たちがいました。


 うーむ……見るからに堅気の者ではありません。


「私は王都の治安を預かっている騎士エレオノーラ・ブラトゥヒナ。こちらは勇者であられるエリクさんとミリヤムさんです。クレト・ラボイさんと約束があって参りました」


 しかし、そんな厳つい連中に対しても、エレオノーラさんは毅然とした態度をとっていました。

 ミリヤムは少し怯えていましたし、私は怒らせて一発くらい殴ってもらおうかと思っていたので、やはり彼女がいて助かりました。


 彼らはジロジロと私たち……というよりエレオノーラさんとミリヤムの顔や身体を見ると、ニヤニヤと笑い出しました。

 ミリヤムはそれを受けてすぐさま私の背に隠れました。


 まあ、不躾でしたからね。

 ……私も女性にあのような視線をぶつければ、平手一発くらいいただけるでしょうか?


「おう、依頼主から聞いているぜ。ついて来な。案内してやる」


 彼らはそう言うと、重厚そうな門を開けて中に迎え入れてくれました。

 そして、先導してズンズンと進んでいきます。


 私たちも彼らについていきますが、その間に広い庭や絢爛な建物の中を拝見して息を吐きます。


「まさに、成金という感じですねぇ……」

「私たちの村とは凄い違い……」


 家名持ちのエレオノーラさんはおそらく免疫があるのでしょうが、寒村出身の私とミリヤムはこの豪華さに少し飲まれてしまいました。

 実際に資産を持っているのはデボラたち王族の方なのでしょうが、こんなに『自分は金持ちです!』とアピールしている建物は初めてのものですから……。


 王城は、豪華というよりかは荘厳なんですよねぇ……。

 そんなことを考えていると、エレオノーラさんが近づいてきてこそこそと小さな声で話しはじめます。


「彼らは、ただの使用人ではありません。おそらく、クレト・ラボイが個人的に雇った傭兵か冒険者ギルドの者でしょう。用心棒というわけですね」


 なるほど。やはり、クレト側も無警戒で私たちを迎え入れることはないということですね。

 まあ、それも当然でしょう。


「今、私たちの視界に入っている数だけではないでしょう。あちらこちらから、私たちを監視しているような視線を感じます」

「そうですね」


 ふっ……それは私も気づいていましたとも。

 時折、『馬鹿な奴らだ。こんな場所にまでやってきて……』みたいな嘲りを含んだ視線がありましたからね。


 私のMセンサーに引っ掛からないはずがありません。


「……流石ですね。しかし、この状況を考えて、最悪の場合も覚悟しておいてください」

「わかりました」


 エレオノーラさんの言う最悪の場合……すなわち、戦闘になるということです。

 数はあちらの方が圧倒的に有利ですし、敵の本拠地でもあるので何があるのかわかりませんからね。


 罠も仕込んであるかもしれません。

 くっ……! やはり、私が一人で来た方がいい思いをできたかもしれません……!


 今更後悔しますが、後悔先に立たず……今は、リンチしていただけることを願いましょう。


「おい、着いたぞ。ここで待っているから、入ってくれ」


 私が後悔している間に、彼らは一つの扉の前に立っていました。

 この中に、限りなく黒に近いとエレオノーラさんが言うクレト・ラボイが……。


 私はどのような人物が待っているのかと、ワクワクしていました。

 エレオノーラさんが私とミリヤムを見るので、頷いて促します。


 そして、彼女によって扉が開けられ、私たちは中に入るのでした。


「お待ちしておりました、騎士殿、勇者殿」


 そんな私たちを出迎えてくれたのは、人の良さそうな笑みを浮かべている小太りのおじさんでした。

 彼は軽く頭を下げて、その禿げ頭を披露します。


 私たちを椅子に誘導して、彼も座って口を開きました。


「私がこのラボイ商会の会長、クレトでございます。……さて、本日はどのようなご用件で?」


 薄く微笑むクレトの顔は、笑みこそ浮かべているものの友好的ではありませんでした。

 何だかこう……腹の中で何かを抱えているような……漠然とした不安を相手方に与えるような人です。


 私、こういう人大好きです。

 しかし、ミリヤムは苦手なようで、私の衣服を軽く摘まんできます。


「まず、私たちと話をする機会を与えてくださって、感謝します」


 エレオノーラさんが一歩前に出て話しはじめます。

 その姿は堂々としたもので、私も感心してしまいます。


「今日来たのは他でもありません。あなたに対する黒い噂が真実かどうか、確かめに来たのです」


 エレオノーラさんは誤魔化すことなく、単刀直入に問いただす。

 この気の強さと肝の据わりぶりは、見習った方がいいかもしれません。


「ほほう、黒い噂ですか」


 クレトはうろたえたりせず、笑みを絶やしません。

 まだ、彼にも余裕があるようです。


「私の商会は近年急成長しましてな……その分、やっかみや逆恨みというものをされやすいのです」

「噂も、その類だと?」

「ええ、その通りです。なにせ、私は公正な商売をしているのですから。他人様に見られて、困ることなど何もありません」


 自信満々に頷くクレト。

 確かに、一人頭を抜け出していれば、他人から嫉妬の目で見られることも多いでしょう。


「それに、何か決定的な証拠でもあるのですかな? 噂の真偽を確かめに来たのですから、当然あるとは思いますが」


 クレトの目に怪しい光が灯ります。

 今度はこっちの番だと言いたげです。


「そうですね。あなたの商売に関しては、正直言ってこれといった証拠はありません」

「なんと! それなのに、私を疑ってかかったわけですか?」


 エレオノーラさんがあっさりと引き下がったのを見て、クレトはニヤリと笑います。


「それはいけませんねぇ。あなたも騎士でしょう? 私のような、良民の味方だと思っていたのですが……。これは、あなたの上司にも話さないといけないですね」


 エレオノーラさんが反抗しないことを見て、さらにニヤニヤと笑い出します。

 ……もう、悪いところを隠すつもりがないですよね、この人。


「あなたは王都の騎士でしょう? 私には、少しつながりがありましてね。彼に話せば、あなたは辺境に飛ばされるやもしれませんなぁ」


 ……あれ? これって脅迫じゃないですか?

 これだけでも犯罪としてしょっ引くことができそうですが……。


 ……いえ、これくらいだったら今まで揉み消していたのでしょうね。


「しかし、そうですなぁ……。あなたと彼の後ろに隠れている女性二人で、この商人の御話し相手になってくださるのであれば、ここだけの話に留めておきましょう」


 クレトはそう言って、じっとりとした目でエレオノーラさんとミリヤムを見ました。

 えぇ……少しあからさま過ぎやしませんか?


 何というか……もはや本当に隠すつもりがないですよね。

 いえ、もしかしたら、今までもこのようなことを続けてきたのかもしれません。


 何かを訴えようとする人を突っかからせ、証拠の提示を求め、相手がそれをできなければこのように迫る。

 ふっ……私の身体は必要ありませんか? ありとあらゆる拷問を受ける覚悟があります。


「話、ですか……」

「ええ、ええ。できれば、一昼夜お相手を願いたいものですな。私には妻もおらず、寂しい身なもので……」

「……豚の相手はしたくない」


 ミリヤム、ボソリと呟くのではなく、もっと大きな声で!

 私が必ず庇いますから!


「残念ながら、それは出来かねます」

「おや、いいのですか? 私には、王都の治安を任されている騎士の上役に顔が……」

「オリヴェルのことですね?」


 エレオノーラさんがクレトの言葉を遮って誰かの名前を言うと、彼の顔が初めて強張りました。

 お知り合いでしょうか?


「先ほど、私はあなたの商売に関しての違法な証拠を持っていないと言いました」

「え、ええ……」


 雰囲気の変わったエレオノーラさんに、クレトの頬にも汗が伝います。


「ですが、私にはあなたが違法な商売をしているとの情報も得ています」

「い、違法な商売? い、いったいどんな商売だというんですか?」

「言わずとも分かっているはずです。あなたは……」


 エレオノーラさんの冷たい目に見据えられ、クレトはびくりと身体を震えさせます。


「――――――人身売買……奴隷商売をしていますね」



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