表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/196

第五話 王の思惑

 










 隣でミリヤムがゴクリと喉を鳴らすのが感じ取れました。

 ええ、わかりますとも。


 目の前で興味深そうに僕を見上げてくる少女は、見た目はとても可愛らしい女の子。

 しかし、その正体はあの悪名高き『癇癪姫』。


 私のようなスキルを持たないミリヤムにとっては、恐怖するのも当然の人なのですから。


「ワシの可愛い愛娘がお前に会いたいとうるさくてなぁ。……まったく、処刑したいわ、勇者」


 王様、めちゃくちゃ嫌そうに私を見ますね。

 娘のために遠い所にいた僕を呼び出すとか、理不尽にもほどがありますね。ありがとうございます。


 王の後半の言葉……あまりにも理不尽ですが、私の胸は期待に高鳴ります。

 処刑……すなわち死!


 私のようなMの者は一生に一度味わえる最上の責め苦……!

 しかし、私にはあのスキルがありますからねぇ……。


 まあ、いずれにせよ生物というものは死にゆくものですし、私もいつかは死ぬでしょう。

 ゴクリ……その時が楽しみですねぇ……。


「ねえっ、君が勇者でいいんだよね?」

「ええ。僭越ながら」


 死についてワクワクしながら考えていると、目の前の少女が話しかけてきます。

 明らかに年下である彼女に対しても、私は敬語です。


 まあ、これは癖ですから誰にでもそうなのですが、もしこの癖がなくても私は敬語を使っていたでしょう。

 何故なら、この人はヴィレムセ王国の王女殿下なのですから。


「ふーん、あんまり強そうじゃない……むしろ、弱そうなんだけどなぁ……まあ、いっか」

「…………」


 しばらく私を見ていたと思うと、そっぽを向いてそんなことを言われました。

 ふふ、興奮します。


 しかし、正面からけなされた私ではなく、隣にいるミリヤムが冷たい目をデボラ王女に向けていました。

 どーどー。落ち着いてください。


「おや?」


 ミリヤムを宥めていると、何故かデボラ王女に手を取られます。

 処刑ですか?


「パパ、勇者くんを借りていくね」


 しかし、デボラ王女は快活な笑みを浮かべると、予想もしなかった言葉を吐きました。

 ……えぇと……これはどういうことですか?


 私をこき使っていただけるのであれば嬉しいのですが……何に使うのでしょうか?

 肉壁?弾除け?どれも素晴らしいですねぇ……。


「ほ、本当に大丈夫か。お前はとても愛らしいから、勇者が魅力にやられて襲い掛かってくるかもしれん。やはり、精鋭の騎士を連れていた方がいいのではないか?」


 王は私の前では決して見せなかったうろたえ方をしています。

 なるほど、親ばかというものですね。


 しかし、デボラ王女が愛らしいというのは理解できますが、私が襲い掛かるということはないですねぇ。

 それなら、ミリヤムの激痛を伴う回復魔法を意味もなく受けている方が、性的欲求が満たされるのです。


 とはいえ、精鋭の護衛の騎士の前でデボラ王女に不貞を働き、処刑されるというのもなかなか……。


「大丈夫だよ、パパ。そんな勇気なさそうだし。それに……」


 おっと、大して交流もしていないのに罵倒を受けましたね。ありがとうございます。

 ミリヤムが先ほどからピクピクと身体を動かしているのが可愛いです。


「ぐふっ!?」

「エリク……!?」


 デボラ王女は少し間を空けてから、僕のお腹に拳を突き立てました。

 な、何故……このようなご褒美を……?


「僕、強いから!」


 ニカッと男の子勝りの笑みを浮かべるデボラ王女。

 なるほど、自身の強さを見せつけるためでしたか。


 そのために、無防備な私の腹部に拳を突き立てた、と。

 素晴らしい理不尽、ごちそうさまです。


 しかし、自分が強いと主張するだけあって、彼女の拳は良い威力でした。

 ふふ……是非とも、これから良いお付き合いをしたいですねぇ。


 ……ああ、ミリヤム。もう、お腹を心配そうに撫でてくれなくても大丈夫ですよ。


「そ、それは知っているが……でもなぁ」


 王様は私をチラチラと見ます。

 まったく信用されていませんね。ふふふ。


「大丈夫だってば!じゃあ、こっち来て、勇者!!」

「おっと」


 これ以上説得することが煩わしくなったようで、デボラ王女は私の手を引っ張って玉座の間を後にしようとします。

 私が連れ去られそうになってガンッとショックを受けたミリヤムも、すぐについて来ます。


 牢獄にでも連れて行ってくれるのでしょうか?


「勇者ぁっ!デボラに手を出したら、ワシが許さんからなぁっ!!」


 私の背中に、そんな王様の声が届いて来ました。

 出しませんってば。


 無論、デボラ王女から私に手を出してくれることは歓迎しますが。

 もちろん、物理的な意味で。


 デボラ王女は私の腕を引きながら、面白そうに笑っているのでした。











 ◆



 エリクとミリヤムがデボラに手を引かれて去った後、側近の貴族がレイ王に近づいて話しかける。


「王よ、あの勇者のことですが……」

「何だ?」


 ピクリと眉を動かし、老齢の王・レイは貴族を見る。

 その顔には、先ほどまでの親ばかな父のものではなく、一国を支配する絶対君主のものであった。


 国民から支持率が低いにもかかわらず、未だなお反乱が起きない理由はひとえにレイ王の力であった。


「このまま、奴を野放しにしておいてよろしいのでしょうか?国民の中での奴の評価は、最近ではうなぎ上りです。このままでは、我が王への評価が相対的に……」

「ああ、そうだな」


 側近はエリクの影響力を恐れていた。

 かつては力のないただの駒だったはずが、現在では利他慈善の勇者と国民から非常に慕われる存在となった。


 今のところ、王家や王国に忠実な態度を見せているが、少なくとも良い扱いは受けていない。

 そんな彼が、いずれ国民たちを先導して自分たちに剣を向けることを、側近は恐れているのであった。


 レイ王も、このことが一笑に付すべきものではないことは重々理解している。

 彼は少し考える時間を空けて、口を開いた。


「……まあ、今はまだ生かしておけ。奴の力は確かに役に立つ。ここで殺すのは惜しい」

「……はい」


 エリクという人間は非常に良い性能を持つ駒だ。

 最初は一兵卒の騎士に手も足も出なかった男だが、彼の特殊なスキルもあって、今では最強とはいえないもののなかなかのものだ。


 さらに、自分に従順な態度も高評価だ。

 今まで何度も無理難題を言いつけてきたが、一度も彼は断ることはしなかった。


 ……まあ、断れなかったと言うこともできるだろう。


「それに、奴はワシに逆らうことなどできんさ。奴には故郷という守るべきものがある。まったく……守るものがあれば人は強くなれるというが、奴に限れば真逆よ。可愛そうになぁ」

「くくくっ、まったくです」


 レイ王がかわいそうなものに同情するような表情と共に発した言葉に、側近がほの暗い笑みを浮かべる。

 エリクは弱みを握られている。


 彼の故郷である寒村は、王国から支援されなければ冬を越すことができないような場所にある。

 さらには、治安がいい場所ではないため、まれに賊が発生して暴れることもある。


 そんな問題を解決する見返りに、エリクはレイ王に非常に忠実であらねばならないし、現状忠実なのだ……と彼らには思われている。


「奴のスキルはかなり役立つ……が、いつまでも使い続ければ確実に精神が死ぬ。廃人になれば、処分すればよい」

「わかりました」


 使えるところまで使い、役に立たなくなれば処分する。

 使い捨ての雑巾みたいなものだ。


 レイ王の冷酷な判断に側近はごくりと喉を鳴らしながらも頷いた。

 この冷たくなった空気をどうにかしようと、別の側近がレイ王に話しかける。


 下手な話題を出せば処刑されかねないので、レイ王が必ず食いついてくるであろう話題であるデボラ王女のことを出した。


「……それはそうと、デボラ王女殿下はえらく勇者に懐いていまし――――――」

「貴様、それ以上言うと処刑するぞ」

「――――――たねすみません」


 地雷だった。

 レイ王の無表情に見つめられて、側近は慌てて言葉を変える。危ない危ない。


 レイ王は先ほどまでの冷徹な王の姿をかなぐり捨て、悔しげに玉座を殴りつける。


「くそぅっ!どうしてデボラはあのような血みどろ勇者を呼び寄せたいなどと言うのだ!嫌われたくないから呼びよせたが!!」


 血や泥にまみれているエリクを呼び寄せ、あろうことか最愛の娘であるデボラに近づけるなんてことは死んでもしたくなかった。

 しかし、当の本人におねだりされたら応えるしかない。嫌われたくないから。


 エリクが辺境から呼び出されたのは、こんなしょうもない個人的な理由であった。


「しかも、あの子の私室に勇者を入れるだと!?ワシも最近入れてくれんぞ!!どうなっておる!」


 ギャイギャイと泣きわめくレイ王……おっさん。

 お前どうにかしろよと話題を吹っかけた側近にアイコンタクトが飛びまくるが、すっかり親ばか全開になっているレイ王に届く声などない。


「しばらく一緒に風呂にも入ってくれんし……あぁ、デボラ。どうして……」


 いや、年頃なんだから当たり前だろという言葉は、誰も言うことができないのであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


過去作のコミカライズです!
コミカライズ7巻まで発売中!
挿絵(By みてみん)
期間限定無料公開中です!
書影はこちら
挿絵(By みてみん)
挿絵(By みてみん)
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ