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第四十九話 商会の黒いうわさ

 










 警邏を続けて一週間程度経ち、私たちは王都で少し有名になっていました。

 残念なことに、元々私は利他慈善の勇者ということもあって有名でしたが、王都で人助けをしていることもあってさらに顔を知られるようになりました。


 私のパートナーであるミリヤムもまた同じ。

 そして、エレオノーラさんも好意的に受け止められていました。


 あのゴツゴツとした厳つい鎧は少し民を怯えさせるのですが、それ以上に彼女の献身的な働きを見ていれば好印象を抱くのは当然でしょう。

 あまり表情を変えずとっつきにくいということはありますが、しかし民には優しいことは明らかでした。


 そのため、最近では市場の人から果物をもらったりなど、とても良い関係を築いていると思います。

 ……まあ、エレオノーラさんはちゃんと金銭を払わないと正義に反するとして、あげると何度も言われているのに固持してお金を払っていましたが。


 融通が利かないんですよねぇ……。


「王都の治安が悪いと聞いていましたが……最近は落ち着いてきましたね」

「そうですね。これも、エリクさんやミリヤムさんの尽力のおかげです」

「いえいえ、エレオノーラさんの力ですよ」


 太陽も高くなってきましたので、私たちは昼食をとっていました。

 色々と期待してこの任務に望んでいるのですが、なかなか私が望むような苦難は待ち構えていませんでした。


 これなら、レイ王に無茶な命令をされていた方が良かったのですが……。


「……本当に、いつもこれくらい穏やかな命令だったらよかったのに……」


 ミリヤムもボソリと呟きます。

 私は苦笑するのでしたが、エレオノーラさんの顔つきが少し変わりました。


「いえ、私もこのままであれば騎士として喜ばしいのですが、少しきな臭い噂を聞きました」

「きな臭い、とは?」


 私が問いかければ、ズイッと顔を寄せてくる。

 あまり、人前ではおおらかに話せないようなことなのでしょうか?


 ……ふふ、ワクワクしますねぇ。


「以前から陳情を受けていたのですが、クレト・ラボイという男を知っているでしょうか?」

「はて……」


 クレト・ラボイ……申し訳ないですが、記憶にないですね。


「……ラボイ商会の会長ですよね? 最近、利益を上げているという……」


 私の代わりにミリヤムが答えてくれます。

 流石は私のパートナー。


「そうです。近年、急速に勢力を伸ばしているラボイ商会。競争の激しい王都でも、その影響力は無視できないほどになりました」


 なるほど……しかし、商人のことは申し訳ないですがあまり知りませんねぇ。

 暴君やら独裁者といった者のことなら知識は豊富なのですが。


 世の中には、レイ王よりも苛烈な王もいると聞きます。

 いずれ、移住したいですねぇ……。


「そのラボイ商会が、きな臭いんですか?」


 ミリヤムがエレオノーラさんに聞きます。

 おっと……楽しい妄想は後にしませんと……。


 エレオノーラさんは、真剣な表情で小さく頷きます。


「ええ。元々、短期間で急速に成長したので、黒い噂は流れていたのです。もちろん、成長をねたむ者がデマを流しているということも考えられるのですが……」

「何か、確信させるだけの情報が?」

「はい。以前、警邏中に直接問題を訴えられました。その者が言うには、クレト・ラボイは公権力にわいろを渡しているらしく、下手に訴えれば逆に処断されてしまう恐れがあるとのことです」


 なんと……それは私を引き付けるには十分な理不尽ですねぇ……。

 助けてくれるはずの国が、実は悪徳商人とグルだった……なんてことになれば、その人の絶望感は果てしないでしょう。


「……だから、王都に出て直接民を助けている私たちに、助けを乞うてきたわけですね」

「その通りです。私もなかなか信じられなかったのですが、調べた結果、それが真実であることが判明しました」


 淡々と言うエレオノーラさんですが、私もミリヤムも驚きを隠せないでいました。

 私たちは、ここ最近朝から晩まで警邏を続けていました。


 そのような情報を集めるとしたら、深夜から早朝にかけての時間しかありません。

 普通、日中動きまくって疲れて眠りこけてしまっているはずなのに、エレオノーラさんは民のために行動をしていたのです。


 なるほど、正義の騎士らしいですね。


「流石はエレオノーラさんですね」

「……凄いです」

「あぁ、いえ。そんなに苦労せずに済みましたから」


 私とミリヤムが褒めれば、エレオノーラさんは薄く苦笑いして答えます。

 まったく……謙虚ですね。


「さて、クレト・ラボイの件ですが……」

「私が単独潜入して決定的な証拠を掴みましょうか?」


 私はエレオノーラさんにそう提案します。

 この発言、まさにとっ捕まるフラグです!


 捕まったら、どこの手の者か、色々と拷問されるんでしょうねぇ……。

 そして、用済みと分かれば……ふふ、興奮してまいりました。


「ダメ、エリク。自分のことを、もっと大切にして」


 しかし、ミリヤムから強い口調でメッとされてしまいます。

 これでも少し快感を得られるのですから、自分でも中々のドMだと自負します。


 しかし、心優しいミリヤムの前で提案するのは失敗でしたね。

 彼女なら、反対するのは目に見えていたのですから。


「そうですね。エリクさんだけをラボイの懐に忍び込ませるわけにはいきません。私も行きます」

「えっ」


 それはあまり……嬉しくないです……。

 私一人なら、わざと囚われの身になることができるというのに……。


 私を待っているであろう拷問が……。


「……私も行く!」

「ミリヤム……」


 ですよねぇ。エレオノーラさんも行くとなれば、ミリヤムも当然について来ますよねぇ。

 くっ……どうやってとっ捕まって拷問をされるようにしましょうか……!


「ええ。むしろ、最初からあなたたちに頼んでついてきてもらうつもりでした」


 えっ……?


「すでに、クレト・ラボイには会って話がしたいということを伝えています。そして、私たちが騎士と勇者であることも。そうすれば、ラボイ側も邪険に断ることはできないですからね」


 なるほど、手が早い。

 確かに、最近王都で有名になってきている私たちとの会談を拒絶すれば、クレト・ラボイに対しておかしな噂もたつかもしれません。


 商人というのは、評判が大切ですからね。国民から疑われるようなことは避けたいのでしょう。


「おそらく、ですよ。おそらくですが、ラボイが黒い噂通りの男ならば、確実に私たちに何かを仕掛けてくるでしょう。十中八九、戦闘になります。しかも、会談場所はあちらの本拠地であるラボイ商店。この情報を聞いても、私と共に来てくれますか?」


 どこか窺うように私たちを見てくるエレオノーラさん。

 ふっ……愚問ですね。


「もちろんです。情報を集めてくださったのはエレオノーラさんなのですから、これからは私に任せていただきたい。荒事も、多少なら慣れていますしね」

「……エリクもこう言っているし、エレオノーラさんがちゃんとした騎士だってわかりましたから、私も協力します」


 そもそも、敵の本拠地に乗り込むだなんて苦難が明らかに待ち受けていることを、私が拒絶するとお思いか?

 出来ることならば、ミリヤムとエレオノーラさんにはここで待機していただき、私一人で直撃したいくらいです。


「……そうですか、ありがとうございます」


 エレオノーラさんは、嬉しそうな……しかしどこか複雑そうな笑みを浮かべて礼を言ってきました。

 ……何かあるのでしょうか?

 私、ワクワクします。


「約束の日は、明日の夜ということになっています。明日の日中は警邏を休みにして、英気を養いましょう」


 エレオノーラさんの言葉に、私とミリヤムは頷くのでした。

 ふっ……何だかいい予感がしますねぇ……。



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