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第四十五話 新たな命令

 










「おぉっ、デボラ! 無事で何よりだ。怪我はないか?」

「もう、パパ。大丈夫だよ」


 玉座の間に赴けば、この国の王であるレイ王が飛んできます。

 そして、デボラに抱き着いて身体を心配そうに撫でまわします。


 デボラ、ちょっと嫌そうですね。そういうお年頃なのでしょうが。

 しかし、命令を遂行して報告に戻ってきても、私たちだけの時ではこのような反応を見せたことは一度としてありませんね。


 やはり、デボラが大切なのでしょうが……少し理不尽に思えて興奮します。


「エリクよ、本当にデボラに危険なことはなかったのであろうな?」


 そんなことを考えていると、ギロリと私を睨みつけてくるレイ王。

 デボラに向ける目とは大きな違いです。ありがとうございます。


 私がゴブリンたちにリンチされていたので、本当に彼女に危険はなかったです。

 ですが、ここで嘘をついて少し危険でした、なんてことを言えば処刑……いえ、そうなれば私だけでなくミリヤムにも危険が及ぶかもしれません。


 私と同じM道を行かないミリヤムに、それはあまりにも酷でしょう。


「いえ、危険はありませんでした。デボラのおかげで、皆無事です」

「そうかそうか。流石はワシの娘だ」


 ふふんとドヤ顔をするデボラの頭を、優しい父の顔で撫でるレイ王。

 そういう顔をもっと国民に見せれば、支持率も上がると思うのですが……。


 そんなことを考えていると、レイ王が一転して無表情で私を見ます。


「だが、何ワシのデボラを呼び捨てにしているんだ。許さん、死刑」

「っ!?」


 感情の上下が急すぎます! しかし、それがいい……!


「もー、パパ。冗談が上手いんだから。エリクに許可を出したのは僕だって知っているでしょ」

「……ふはは、そうだな」


 デボラは冗談だと思っているようですが、あの顔は本気でした。

 だからこそ、仕え甲斐がある国なのですが。


「それで、パパ。どうしてエリクを呼びつけたの?」


 デボラがレイ王の拘束から逃れて、こちらに寄ってきながら質問しました。

 新たな過酷な命令でしょうか? ワクワクしますねぇ。


 しかし、レイ王は複雑そうな顔をしながら首を横に振ります。


「本来であれば、確実に死ぬような命令を与えたいのだが……そうすると、デボラに嫌われそうだから止めておく。まずは、デボラに冒険の一時休止を言いつける」

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 デボラの絶叫が響き渡りました。

 それにしても、あのむちゃくちゃな本音……いいです!


「どうしてさ! せっかく楽しかったのにぃっ!」


 デボラはご立腹です。

 私たちと共に命令を遂行する時、一番楽しそうにしていたのは彼女ですからね。


 いえ、私も苦痛を味わうことに関しては負けませんよ?

 デボラの質問に、レイ王は苦笑いします。


「お前が楽しそうにしているのは、ワシも嬉しいのだが……いくら何でも付いて行きすぎだ。これからは、王女としての仕事もしなければならんのだ。そのための教育も、しっかりと受けなければならん。それを考えると、お前は少し外に行き過ぎだ」

「うぐっ……」


 なるほど、そういうことですか。

 確かに、デボラはこれから国を背負って仕事をすることも増えそうですからね。


 レイ王が親馬鹿を発揮して閉じ込めようとした、などと邪推してしまうところでした。


「これで、ワシとずっと一緒……」


 …………。

 レイ王のヤンデレですか……需要はありそうにないですね。


 しかし、監禁されるということも、一度是非経験してみたいですね。十年くらい。


「お前たちにはこれからも命令をするぞ。今度は、辺境に巣食っているというドラゴンの卵でも取ってきてもらおうか」


 おっと、無茶振りがきましたね。

 デボラと行動を共にするようになってからというものの、このようなことがなくて寂しかったのです。


「……だから王族って……!!」


 しかし、私は嬉しくともミリヤムの怒りはマシマシです。

 それはそうでしょう、ミリヤムは私と違ってMでもなければ不死でもないのです。


 そんな英雄しかできないような命令、受ける必要なんてありません。

 私も残念ですが、彼女のためにお断りをしようとすると……。


「えー! それはダメだよー! そんな物語みたいな冒険、僕を抜きに行くなんて許さないんだから! パパもダメだよ!」

「う、うぐぅ……!」


 その前に、私たちにとって予想外の人から反対意見が出ました。

 それが、デボラです。


 彼女の忠節の騎士である私、そして父であるレイ王両方を黙らせることのできる唯一の存在です。

 冒険大好きな彼女からすれば、ドラゴンの卵探しも面白そうに聞こえるのでしょう。


 私たちにとっては、死刑宣告にしか聞こえませんでしたが。


「うぐぐぐ……! し、仕方ない……」


 デボラに何も言われなかったら、そのまま押し通すつもりでしたね。

 レイ王の私に対する憎悪が心地いい……。


「にへっ」


 私たちの方をチラリと見て、舌を出すデボラ。

 どうやら、助けてくれたようです。


 ミリヤムを助けてくれたことは感謝を、私だけなら余計なお世話といったところですね。


「仕方ない。次善の策でいくとするか」


 ボソリと呟いたレイ王は、私とミリヤムに向き直ります。


「先ほどの命令は撤回だ。お前たちには、この王都の治安を守ってもらおう」

「治安、ですか」


 まともな内容に、私は落胆します。

 ドラゴンがダメなら、ベヒーモスと戦って来いと言ってくれるかと思っていたのですが……。


「最近……というか、伝統的に王都の治安は悪い」

「……王が王だし」


 ミリヤム、できれば聞こえないような小声でなく、レイ王に届くように言ってください。


「そのため、治安の改善化に力を入れることになってな。オラースの提案で」


 そのようなまともなこと、レイ王が提案するはずもありませんからね。

 ヴィレムセ王国の王族とは思えないほどできた王子が関係していることは、聞いた途端にわかりました。


 いえ、まあ革命を起こされていないので、レイ王が無能というわけではないでしょうけれど……。


「騎士団を王都中に派遣するのですか?」

「それだと金がかかるし、王城の警備も薄くなる。訓練もしなければならないし、手が足りんのだ。そこで、お前の力を借りたい」


 なるほど。私は勇者であって騎士ではないですからね。

 ちゃんとした福利厚生などは気にしないで使い潰すことができるでしょう。


 しかし、王都の警備ですか。これは、あまり私が期待できることは……。


「王都……治安も悪いし、受けない方がいいんじゃない、エリク。どうせ、治安が特に悪い場所に配置されるだろうし」


 こそこそとミリヤムが教えてくれます。

 ……はっ! そうです、治安が悪い場所に行かされるのです。


 ということは、つまり私が悦べるような展開が待っていることも確実!

 そりゃあ、レイ王の過酷な命令を受けている時の方が刺激的でしょうが、こちらも悪いわけではないでしょう。


「ミリヤム、故郷のためには仕方ありません。デボラもこれは助けてくれるつもりはないようですし、大人しく受けておきましょう。これより酷いことを押し付けられたら、(快楽的に)堪りませんからね」

「……そう」


 ミリヤムは、先ほど命令されかけたドラゴンの卵探しのことを思い出し、苦虫をかみつぶしたような顔をします。

 まあ、そんな帰ってくることができなさそうな命令よりは、王都の治安悪い場所に派遣される方が、まだマシでしょう。


 私は対人戦であれば、様々な山賊討伐や犯罪者捕縛の経験をしたことによって、そこそこ戦えますから。

 無論、全てレイ王の命令でした。


「その命令、承りました」

「うむ」


 当然だとばかりに頷くレイ王。

 その高慢さ、嫌いではありません。


「だが、お前たちだけに任せるわけにもいくまい。そこで、お前と同じ任務に就く者を呼んでいる。入れ」


 レイ王の言葉に従って、扉を開けて入室してくる者たちがいました。

 一人は大柄な老人です。


 人の良さそうな笑みを浮かべていますが、ああいうのは大体信用できない存在だということを、私のMセンサーが伝えてきていました。

 そして、もう一人は黒髪をおかっぱ頭にした、美しい女性でした。


 キリッとした眉は、彼女の気の強さを表しているようです。

 そして、何より目を引くのは女性が装着するようなものではない、あまりにもゴツゴツとした大きな鎧でした。


 ……何だか、私にとって良い匂いがしてきましたねぇ。



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