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第三十三話 視察

 










「く、クソ!クソクソクソクソクソ!!」


 デボラ暗殺未遂事件の黒幕であるビリエル・ヘーグステットは、部屋の中で暴れていた。

 王女暗殺のために大金をはたいて買った通信用の水晶も、その過程で地面に落ちて割れてしまう。


 しかし、そんなことが気にならないくらい、今のビリエルは追い詰められていた。


「お、王族が視察に来るだと?しかも、数日のうちに?普通、何か月も前に言っておくものだろう!?」


 先ほど告げられた、唐突な視察の予告。

 普通、歓待するための時間も与えなければならないので、もっと余裕を持って伝えられるものである。


 まあ、そもそもヘーグステット領のような、国にとってあまり重要な場所にない領地は、王族が視察に行くことさえほとんどない。

 だからこそ、ビリエルは今まで好き勝手できていたのだが……。


「こ、今回の視察は、やはりあれが漏れたのか……!」


 それ以外に、心当たりがない。

 何か、王族が動くような問題でもなければ、ヘーグステット領にわざわざ王族本人が出向くことなどありえない。


 そして、そんな問題は、ビリエルにはとても心当たりがあった。


「ど、どうすればいい?このことが知れれば、私はよくて貴族位の剥奪、悪ければ……」


 断頭台の前に立たされる自分のことを想像し、ビリエルは顔を青ざめさせる。


「くそっ!それもこれも、あの役立たずの男のせいだ!私の完璧な計画を潰しおって……!奴の家族も、処刑してやる!!」


 たぷんたぷんと腹を揺らしながら激怒するビリエル。

 連座で、報告者の男の家族も殺してやろう。


「い、いや、待て。今はそんなことをしている余裕などない。とにかく、どうするべきか。私のことで、領民が請願に行かないことを徹底させなければ……。そして、王族の追求から逃れるための言い訳を考え……」


 やらなければならないことが、次から次へと浮かび上がる。

 領民への徹底は……まあ、家族を殺すと脅しておけば問題ないだろう。


 問題は、王族への言い訳である。

 これに関しては、誰かを脅して解決する問題ではないのだ。


 口止めしようにも、すでにその身柄は自分の手元にはなく、あちら側にわたっているのだから。


「『あの方々』に応援を……い、いや、私を役立たずで判断すれば、暗殺されてしまうだろう。そ、それは嫌だ……!」


 ビリエルの頭の中に、とある男の顔が浮かぶ。

 しかし、すぐに彼らに救いを求めることは諦める。


「これは、私がやらなければならないのだ。うまく……うまく……!」


 脂汗をびっしりと浮かべるビリエル。

 彼の目には、危険な色が宿った光が灯っていた。


「言い訳がうまくできなければ……その時は……」











 ◆



 私たちは、ヘーグステット領まで何の障害もなく向かうことができました。

 時折、魔物が襲い掛かってくることがありましたが、残念なことに私の身体を張る必要もなく、護衛の騎士たちがやっつけてくれました。


 彼らも、王族二人を護衛するとあって、気合が入っているようです。

 護衛の数は少ないのですが、精鋭なのでしょうね。


 その中には、ブレヒト率いる山賊戦でもお世話になったアルフレッドさんも含まれていました。

 笑みを浮かべて頭を下げてくるので、私もそれに従います。


「ここから先が、ヘーグステット領だ。何があるかわからん。気を抜くなよ、デボラ」

「大丈夫だって、お兄ちゃん。僕には、エリクがいるからね」


 オラース王子の言葉に、ふふんと笑うデボラ王女。

 どうにも、王女から信頼されるようになったようです。


 その信頼の元、難問を押し付けられることがあるよう願っております。


「…………」


 しかし、ようやくデボラ王女の(クッキー)から回復したミリヤムは、不機嫌です。

 彼女には、嫌いな王族関連のことに巻き込んでしまって、申し訳ないと思っています。


 だからこそ、今回は来なくてもよいと伝えたのですが……優しい彼女は私の頬を軽くつねってついてきてくれました。

 ……もう少し、強くつねってほしかったですねぇ。


「よし、行くぞ」


 オラース王子に従って、私たちはヘーグステット領に脚を踏み入れるのでした。











 ◆



 どうやら、ビリエル・ヘーグステットが居を構えている街は、領地の境界からあまり離れていない所のようです。

 ヘーグステット領に入ってから、荒野のような少し荒れた地を通り抜ければすぐの街でした。


 大きな崖が二つ向かい合い、その間を通りぬけるというのは少し貴重な経験だったかもしれません。


「お待ちしておりました、視察団の方々!!」


 街の入り口で私たちを待っていたのは、体格の良い……正直に言ってしまえば、不健康なまでに太った中年の男性でした。

 ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべていますが、その顔にはびっしりと汗が浮かび上がっていました。


「ああ。急な視察をすまないな、ヘーグステット」

「いえいえ!これが王族の方々の意思ならば、臣である私がどうして否定できましょうや」


 オラース王子の言葉に、過剰なまでに反応します。

 なるほど、この人がビリエル・ヘーグステットですか。


 見た目で判断するのはいけませんが、私のMセンサーが反応しています。

 ……これは、なかなかに黒そうな貴族ですねぇ。ゾクゾクします。


「さあさあ!急な話でしたので盛大な歓待はできませんが、質素ながら準備はさせていただいております。こちらに!」


 ビリエル自ら案内をしようとしているようです。

 貴族が出迎えるということだけでも凄いのですが……オラース王子とデボラ王女の凄さがわかりますね。


 ビリエルは、とても賑やかな道を通ろうとしているようです。


「いや、視察だからな。俺たちは街を回りながら、お前の城に行かせてもらおう」

「ぐっ……!」


 顔を凍りつかせるビリエル。


「し、視察は私の城についてから、ゆっくりしてからでよろしいのではないでしょうか?オラース王子はともかく、デボラ王女はお疲れかもしれませんし……」


 ビリエルは、どうしても城に直行させたいようですねぇ。

 デボラ王女をダシに使ってきました。


 それを受けた彼女は、心外そうに胸を張る。


「むっ!僕を舐めないでほしいな。そこそこ動けるんだよ?それに、途中エリクにおんぶしてもらったし、体力は万全だよ!」

「ええ、そうですね」


 ニッコリと笑うデボラ王女に、私もニッコリです。

 あの少し険しい山道を、おんぶさせられた私……よかったです。


「ぐぐぐ……っ!!」


 ビリエルの顔が、赤くなったり青くなったりしています。

 ……もう、これって調査の意味があるのでしょうか?


 いえ、デボラ王女暗殺未遂事件に関与しているかが調査の目的です。

 ビリエルが、どのような統治をおこなっているかは、今回は対象外ですから意味はありますね。


「……行くぞ」


 オラース王子がヴァルターさんたちを引き連れながら、歩き始めました。

 彼も、もはやビリエルが真っ黒であることは分かりきっているのでしょう。


「お、お待ちください!そちらは治安の悪い場所で、御身に危険が……!!」


 ビリエルは何とか止めようとしていますが、オラース王子がそんな脅しで止まるはずもありません。

 スタスタと歩いていく彼に、追いすがるビリエル。


「……何だか、僕、いらなくない?」


 そんな彼らを見て、ぽつりと呟くデボラ王女。

 まあ、とりあえず爆発させようとしている王女には、少し無茶なのかなぁと思います。



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