第三十話 レイ王の駄々
結局、私たちが王都に戻ったその日には、レイ王と謁見することは叶いませんでした。
そのため、一日の間が空きました。
まあ、その間に私はデボラ王女の作成した毒を食らうことができたので、この暇も苦痛になり得ませんでした。
デボラ王女……一生ついていきます。
それに、一日休んだことで、本調子とは言えないものの体力も回復しました。
私は死なないだけで、体力も減らないわけではありませんからね。
とはいえ、いつでも苦痛を味わうことができるように、体力の回復スピードもなかなかのものです。
「エリクー!!」
そんなことを考えていると、私にあてがわれた部屋の扉ががんがんと叩かれる。
声からして、すぐにデボラ王女だとわかりました。
扉を開けると……。
「遅い!!」
ぷくっと頬を膨らませたデボラ王女がいました。
まったく待たせていないはずなのですが……ふっ、良い理不尽です。
「申し訳ありません。どうかされましたか?」
何か無茶振りでもしてくださるのでしょうか?
「どうかしたもないよ。パパとの謁見が決まったから、君も来るんだよ」
「はい?私もですか?」
私は驚いてしまいます。
デボラ王女の暗殺未遂事件は、それこそ国家のトップクラスの地位にある人々が集まって対策を練るべきものです。
勇者ではありますが、出自は確かなものではない私など、そんな所に行ってもよいものでしょうか?
「君はもう僕の騎士なんだよ?むしろ、来て当然だし、誰も文句は言わないよ」
自信満々に言うデボラ王女。
主である彼女がそう言うのであれば、私も拒絶することはしませんが……。
うーむ……文句を言いそうで言えそうな人は、一人心当たりがあるのですが……。
◆
やはりというべきか、デボラ王女に引き連れられて向かった場所には、そうそうたる面々がそろっていました。
国家運営を担う宰相や、デボラ王女の兄であるオラース王子の姿と彼の忠節の騎士であるヴァルターさんの姿もありました。
彼は、たまたま王城にいたのでしょうね。
残念ながら、ここにミリヤムはいません。
彼女は私のパートナーですが、彼女自身はデボラ王女の忠節の騎士というわけではないからです。
また、王女作成の毒を食らったことは、まだ彼女を本調子に戻していないのでした。
……強烈ですねぇ。
そして、この集まりのトップであるお人は……。
「望ましからぬ者が入り込んでいるな。死刑で」
レイ王は私を睨みつけながら、早速死刑判決を下しました。
嬉しいですけれど、唐突過ぎやしませんか?
「あのぉ……」
「誰が話して良いと言った?死刑だ」
とりつくしまもありません。
よっぽど、私の存在が不快なのでしょう。
うーむ……予想通りですねぇ。
「はぁ……父上、落ち着いてください。これでは、何のために集まったのかわからないではないですか」
オラース王子が、頭を抱えて忠言します。
流石、ヴィレムセ王国の王族の中で唯一まともだと言われるだけの人ではありますね。
しかし、息子の忠言も受け取らないのがレイ王クォリティーです。
「オラースよ。ワシはあんな使い捨てを呼んだつもりはないぞ。これから話すべきことは、非常に機密性の高いものだ。故に、入り込んだ虫を駆除しなければならんのだ」
つ、使い捨て……む、虫……。
私の良い所を突いてくるレイ王に、私は内心歓喜します。
これだから勇者は止められない……。
「彼は、今では父上の使い捨て道具ではありません。デボラの騎士です」
オラース王子は、なおも私を庇ってくれます。
寄ってたかって私を責めていただければ嬉しいのですが……。
「それが許せんのだ!!」
私がそんなことを考えていると、レイ王が爆発しました。
顔を真っ赤にして、私を睨みつけます。
「ワシの大切なデボラの忠節の騎士が、こやつだと!?そんなもの、認められるかぁっ!!」
流石は親馬鹿、予想通りの反応ですねぇ。
確かに、大切な愛娘に最も近い騎士が、ドM野郎では心配になって当然かもしれませんが……。
「やだやだ!ワシやだ!早くこやつを殺せっ!!」
子供ですか?
立派な椅子の上で駄々をこねるその姿は、割と国民から恐れられている暴君とは思えません。
このままでは、一向に話が進まない。
そんな時、レイ王を止めることができるのは、やはり彼女だけでした。
「もう!パパ!エリクは僕が選んだんだから、認めてよね!」
「で、デボラ……」
ギャイギャイと騒いでいたレイ王が、ピタリと静かになります。
プンプンとご立腹のデボラ王女を、まるで恐れているかのようです。
「パパもお兄ちゃんも、忠節の騎士を持っているじゃん!僕も忠節の騎士を持っていいでしょ!?」
「そ、それは構わんのだがな?しかしな、デボラ。お前には、もっとふさわしい騎士がいるはずだ。ワシも探してやるから……」
「いいもん!エリクで遊ぶのが、面白いし!!」
「で、デボラ……!!」
私も弄ばれることは大好きです、デボラ王女。
しかし、やけに頑なにレイ王の提案を拒絶しますね。少し、驚きです。
それは、父であるレイ王の方が驚きも大きく、また衝撃的でもあったようで愕然とした表情を浮かべます。
「で、デボラがワシの言うことを聞いてくれない!」
「国王陛下、年頃の女性というものは、親に対して気難しくなるものなのです」
「おぉ、宰相。これが、反抗期というものなのか……!!」
レイ王と宰相が顔を寄せ合って、涙を流しています。
宰相も娘さんから嫌われているのでしょうか?
『お父さんと一緒のタオル使いたくない』とか言われているのでしょうか?
……私も子ができたら、是非言ってほしいですねぇ。
「はぁ……話を戻そう。今回、俺たちが集まったのは、デボラの反抗期の話ではないだろう」
オラース王子は頭が痛そうに言います。
彼の精神的負担は、非常に大きそうですね。
是非、肩代わりして差し上げたい。
「デボラの暗殺未遂事件、その黒幕を暴き出すことだ」