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第二十一話 王都への帰還

 










「外だぁぁぁっ!!」


 デボラ王女は外に出ると同時、両腕を上げて歓喜の声を上げました。

 今回潜ったダンジョンの中は日が当たりませんから、太陽の光がありがたく感じるのでしょう。


 私は、じめじめとした空間にしばらく監禁されても構わないのですが。


「……うるさい」


 私の隣に立っているミリヤムは、煩わしそうにデボラ王女を見ています。

 うーむ……彼女の王族に対する嫌悪感が増しているような気がします。


 何故でしょうか……?


「勇者殿」

「はい?」


 デボラ王女とミリヤム以外に声をかけられて振り向くと、そこには騎士甲冑を身に着けた数人の男たちがいました。

 彼らは、オラース王子かレイ王によって派遣された、デボラ王女を陰から護衛する騎士たちです。


「私たちが至らなかったのにもかかわらず、よくぞデボラ王女をお守りしてくださいました。心から、感謝します」


 そう言って、騎士たちは深く私に頭を下げました。

 あー……まあ、彼らは護衛の任務を全うすることができませんでしたからね。


 といっても、彼らのことをむちゃくちゃに責めることはできません。

 冒険がしたいと主張していたデボラ王女に気づかれれば機嫌を損ねることになりますから、少し離れた距離から気づかれないように注意しつつ護衛しなければなりません。


 さらに、デボラ王女の爆発によって、私たちは予想外の落下をすることになりました。

 彼らも必死について行こうとしたのでしょうが、ダンジョンの地盤すら破壊する爆発の中を突き進めというのは無茶でしょう。


「いえいえ、顔を上げてください。私は、私にできることをしたまでです」


 私としても、彼らに対する怒りなど微塵も持っていません。

 むしろ、彼らがいなかったからこそ私は爆発を受けられたとも言えるので、感謝しましょう。


 まあ、ミリヤムは少し怒っているみたいですが。

 彼女の場合、公権力に対する不信感や嫌悪感が強いですからねぇ……。


「おぉ……これが利他慈善の勇者か……」


 感動したように見つめてくる騎士たち。

 ……うーむ、利他慈善活動なんてしたことはないのですが……。


 ただ、ミリヤムが嬉しそうにするので、否定はしないでおきましょう。


「さっ、これからどこに行こっか、エリク!」


 ニコニコとしながら近づいてくるデボラ王女。

 なんだか、距離が縮まったような気がしますねぇ。


 その親しさで、もっと私を爆発に巻き込んでください。


「…………」


 しかし、隣にいるミリヤムの機嫌が悪いこと悪いこと。

 そのチクチクとした雰囲気に当てられるのも、なかなかおつなものですねぇ……。


「……なれなれしい」


 ボソリと呟くミリヤム。

 おっと……わざとデボラ王女に聞こえるように呟きましたね。


 これは再びぎすぎすとした空気に……?是非私を間に挟んでください!


「ふっ……」

「っ!?」


 しかし、私やおそらくミリヤムも予想していたように、デボラ王女が怒って睨み合うなんてことはありませんでした。

 むしろ、デボラ王女が余裕の笑みを浮かべてミリヤムを見下したのです。


 ば、馬鹿な……あの短気な王女が、大人の対応を……?


「なれなれしく見えちゃったかい?でも、ごめんね。エリクは僕の騎士なんだ。だから、少しそう見えちゃっても不思議ではないよね」


 近寄ってきて、私の身体をぺちぺちと叩くデボラ王女。

 まるで、これは自分のものだと主張する子供のようです。


 まあ、デボラ王女は子供ですけど。


「うぐぐぐぐっ……」

「いやー、ごめんね。『忠節の指輪』を受け取ったから、エリクは僕の騎士なんだ!ぼ・く・の!騎士なんだ!」


 いや、まあ確かにそうですけど……どうしてそんなに強調するんですか?

 ミリヤムは悔しそうに唸ると、私の腕を引っ張って抗議してきます。


「どうしてあんな奴の騎士になったの!?」


 爆発でボコボコにしてくれると思ったからです。

 あと、オラース王子と違って、彼女はレイ王と同じように私をこき使ってくれると思ったからです。


 理由は至極簡単ですね。


「ふふん。エリクは僕に忠義を誓っているんだよ。まだ君にはわからないかなぁ?」

「忠義なんてありません……!!」


 睨み合うデボラ王女とミリヤム。

 確かに、忠義はとくにありませんけど……。


「デボラ王女殿下」


 一触即発の雰囲気が流れる中、その悪い空気を換えるように声をかけてきたのは護衛の騎士でした。


「ん、なに?」

「次の行き先ということですが、もう冒険はここまでにしていただきたいのです」

「えぇぇぇぇぇぇっ!!」


 声を上げるデボラ王女。

 まったく納得していませんねぇ。


「なんでさぁっ!というか、どうして君に僕の行き先を決められなければいけないのさ!」

「今回、殿下は『ビギナー殺しの小部屋』に入ってしまいました。これは、まったく予想外のことですので、陛下にも報告しなければなりません」


 騎士さんの言う通りですね。

 むしろ、あの過保護なレイ王がもし『ビギナー殺しの小部屋』などという危険な場所に行くことになっていれば、絶対にデボラ王女を送らなかったでしょう。


 送ったとしても、超大規模な騎士団が付随していたかもしれませんね。


「で、でも、うまく切り抜けられたし……」

「確かに、殿下の素晴らしい攻撃によって難を逃れたようですが、消耗は激しいでしょう。それに、勇者殿も深刻なダメージを負った様子。ミリヤム殿によって回復されているといえども、一度王宮の魔法使いに掛かった方がよろしいでしょう」

「うっ……」


 デボラ王女は言葉に詰まります。

 彼女はどうか知りませんが、確かに私は体力的にとても消耗しています。


 まあ、さらなる困難もばっち来いですが。

 わがままなデボラ王女ならはねつけてもいい言葉のはずですが、どうにも私の顔をチラチラと見てとても考え込む様子。


 ……ここはひとつ、王女の騎士として忠言をしなければなりませんね。


「デボラ王女、私のことは構いません。あなたの進みたい方に行きましょう」

「え、エリクっ?」


 私はニッコリと微笑みかけます。

 更なる無茶ぶりをしていただいても……構わないんですよ?


 ミリヤムがちょっと怖い目で見てきますが、今はスルーです。

 護衛の騎士たちからは、何故か尊敬するようなまなざしを送られます。


「自分のことよりも、王女のやりたいことを望む、か。……これが、忠節の騎士として選ばれる者か」


 ……はい?デボラ王女のしたいことをやらせてあげるのではなく、私のやりたいことを全力で取り組んでいるだけですが?

 どうにも、認識の相違があるようですねぇ。


 まあ、とにかくこれでデボラ王女はさらなる冒険へと歩み出すでしょう。

 わがままな王女が、私の身体の心配などするはずがありませんからね。


 そして、ボロボロのまま苦難に引きずり出されるというのも、興奮します。

 さあ、デボラ王女!次は、いずこへ!?


『ビギナー殺しの小部屋』並……いや、それよりも刺激的な場所に行きますか!?

 私の期待のまなざしを受けてデボラ王女は……。


「お、王都に帰る」


 なん……ですって……?

 口を尖らせながら、ぼそぼそと呟いたデボラ王女の言葉が信じられません。


 将来はあのレイ王をも超えるであろう暴君に育つはずの彼女が、一時撤退を選ぶ……ですって……?

 そんな……どうしてオラース王子みたいにまともなことを……?


「べ、別にエリクの身体の心配をしたわけじゃないんだからねっ!」

「分かっていますとも」


 私のためを思うのであれば、冒険を続行していただく方がありがたいのです。

 身体の調子?スキルがあるし、死なないので大丈夫です。構わないで突撃しなさい。


「……ふっ、ご英断です、殿下」


 意味深に笑う護衛の騎士。

 なに満足そうに頷いているんですか。


 ほら、あなたも早く更なる冒険へと誘いなさい。


「……当たり前だけど、何かムカつく」


 ミリヤムは私の腕を掴みながら言います。

 私に対する怒りですか?それならウェルカムなのですが……吊り上った目をデボラ王女に向けているので、いつもの王族アレルギーが発動したのでしょう。


 し、しかしマズイです。

 何故か安全な王都に戻る流れになってしまっています。


 まあ、過保護なレイ王がいつまでもデボラ王女を外に出すことを認めるはずもないのですが、まだもう少し危険に身を置くことはできるはず……!


「殿下は勇者殿を大切に想っていらっしゃるのですね」

「ま、まあ、僕の騎士だしね。ある程度の便宜は図ってあげるよ」


 ニコニコと娘を見るように温かい笑顔を浮かべる護衛の騎士と、ぷいっとそっぽを向きながら答えるデボラ王女は、すでにスタスタと歩いて行ってしまっていました。

 あぁ……もうどうしようもないですね……。


 仕方ありません、大人しく戻るとしましょうか。

 帰ったら、おそらくレイ王から無茶ぶりをしていただけるでしょうし。


 それに……何だか良い予感がするのです。

 私のドMセンサーが、何かに反応している。


 ……ふふっ、楽しみですねぇ。



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