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第百九十四話 それほどいいものではない

 










 なんだか、意識がふわふわとしています。

 ぼーっとしている感覚のような……身体が宙に浮いているような不確かな気分……。


 私は自爆スキルを使ったので、苦痛を味わえているはずなのですが……残念なことに、それを感じることはできませんでした。

 不思議ですねぇ……。


 この自爆スキルを使うのは、これが初めてというわけではありません。

 実は、私が子供だった頃、一度使用したことがあるのです。


 あの時は、ミリヤムを逃がすためにオークと心中するつもりで行使したのですが……。

 オークと黄泉路を行くというのも、ドM的にポイントが高かったですね。


 しかし、結局私は黒い印象のある女性に不死スキルを与えられ、命をつなぐことができました。

 そんな私は、今まさに死に瀕していました。


 というのも、不死スキルがユリウスさんの使用する魔剣『パーシー』の力によって無効化されたようなのです。

 今まで散々お世話になってきたスキルだったのですが……しかし、死ねないというのもドM的には困りますから、良かったのかもしれませんね。


 ……いえ、ユリウスさんのように、大切な人……ミリヤムやデボラ、エレオノーラさん、ガブリエルさん、アンヘリタさんに次々に置いて逝かれるというのもドM的に快楽を得ることができるのかもしれませんが……それは少し嫌でした。

 ええ、そうですね。悪くない、のかもしれません。


 ……あぁ、何だか眠たくなってきました。

 不思議なことに、毎日感じるような眠気とは少し違うような気がします。


 どこか、冷たいような感覚が……。

 はっ! もしかして、これが死というものなのでしょうか!?


 うーむ……なんとも不思議な感覚……苦しいというわけではないんですね。

 くっ……! これは、ドM的にポイント低いですよ!!


 なんとか意識を食い止めようとするのですが、残念なことに抗いがたいほどの眠気が襲ってきました。

 くっ……殺せ!


 ……そう言えば、ユリウスさんは倒せたのでしょうか?

 私の自爆スキルは、今まで受けてきたダメージをそのまま爆発の威力に直結します。


 そのため、かなりの威力になったはずなのですが……ユリウスさんは不死のスキルを持っていたようなので、生きているかもしれませんね。

 私の死体を損壊していただけると嬉しいのですが、どうか近くにいたミリヤムのことは見逃してあげてほしいです。


 ……というか、私の自爆スキルの余波でダメージは負っていませんよね?

 一応、アンヘリタさんから教えていただいた結界魔法を使って、私とユリウスさんを閉じ込めたのですが……。


 今までかなりのダメージを蓄積してきたので、その結界も壊れてしまっているかもしれません。

 ……まあ、大丈夫でしょう。それなりにミリヤムとは離れていましたし、結界もちゃんと張れていましたから……。


 ふぅ……ここまで考えていたら、さらに眠気が強くなってきました。

 本当に、このまま死んでしまうのであれば……もっと苦しさを与えてほしかったです……!


 ドMにとって一生に一度の絶好の機会……快楽を最大限受けられるはずの死。

 それが、こんな穏やかなものなんて……私、納得できません!


 しかし、やはり眠気には抗えず、私の意識はどこかに落ちて行って……。


「…………?」


 ポタポタと私の顔に何かが垂れ落ちてくる感覚がして、意識は再浮上してきました。

 といっても、元気に飛び跳ねることができるほど……というわけではなく、ぼんやりとしていましたが。


 しかし、いったい何が……雨でしょうか?

 ……死体が野ざらしにされる、というのも興奮しますねぇ。


 目を開けようとすれば、うっすらと光りが入ってきました。

 なるほど、目が開けることができれば、情報が手に入りますね。


 ぼんやりとした視界の中、私は精一杯見ようとして……。


「――ッ!――――――ッ!!」


 私を見下ろしていたのは、ミリヤムでした。

 大粒の涙を流し、何かを叫んでいます。


 ……ああ、なるほど。視力はあっても、聴力はもうないのかもしれませんね。

 しかし……こんなにも大きく泣きじゃくっているミリヤムを見るのは、初めてかもしれません。


 雨と思うほどの水滴は、全て涙だったのですか……。


「――!!――――!!」

「――――――」


 ミリヤムが私から視線を外したかと思えば、誰かと会話をしているようです。

 そこにいたのは、黒という印象がある女性……ああ、私に不死スキルを与えてくださった方ですね。


 彼女もここに来ていたのですか。

 ……何かミリヤムが懇願しているようですが、女性は無表情ながら残念そうに眉を顰めて首を横に振っていました。


 うーむ……何の話をしているのでしょうか?

 私を罵倒してくれる内容でしたらいいのですが……。


 しかし、よかった。ミリヤムは無事でした。

 ユリウスさんは近くにいらっしゃらないようなので、彼に殺されてしまうという不安も大丈夫だと思います。


 黒い女性と少しの間話していたかと思うと、ミリヤムはまた大泣きしながら私の頭に抱き着いてきました。

 どうしてこんなにも泣かれるのかと思っていましたが……自身の身体を見下ろして納得しました。


 私の身体は、自爆スキルの影響で焼失していました。

 存在するのは、胸の上のあたりからさらに上しかないですね。


 四肢も消し飛んでいますし……よくこれでまだ意識があるなと不思議にすら思います。

 やはり、無効化されたとはいえ、不死スキルの影響があるのでしょう。


 ……まあ、多分このまま死ぬのですが。


「エリ――!――ないで!!」


 ミリヤムのそんな声が聞こえました。

 ……しかし、どうにも眠たいんです。


 ああ……この欲望には、なかなか逆らえそうにありません。

 ミリヤムには申し訳ありませんが……私は再び目を閉じました。もう、彼女の泣き顔を見ることはできませんでした。


 あぁ……色々なことがありました。

 デボラと出会って、私のM道は豊かなものになりましたね。


 彼女の爆発……もう一度、この身に受けたかったです。

 とくに、彼女と『ビギナー殺しの小部屋』に誘い込まれて、オーガと戦った時のことは忘れられません。


 あの時受けた快楽から、一生デボラに付いて行こうと決めたのでしたね。

 ……そう言えば、デボラは私という絶好の癇癪のぶつけ相手がいなくなれば、どうなるのでしょうか?


 少し、心配です。

 しかし、癇癪姫と恐れられ忌避されていた時とは違い、今では私が引き受けることができるので無差別に癇癪爆発をすることもなくなり、昔ほど嫌われてはいないと思います。


 むしろ、子供らしさもあって親しまれているとか。

 ミリヤムたちという親しくできる仲間もいることですし、デボラは大丈夫でしょう。


 エレオノーラさんという、素晴らしい性癖のパートナーもできました。

 人を殺してしまいたいと思ってしまうほどの強烈な加虐性を持つ彼女は、私と対極の位置にあたるであろう究極のS。


 彼女の巨大な手甲でボコボコにされるのは、堪らない快楽でした。

 模擬戦という名で私をボコボコにしているため、加虐性は徐々に改善されているとは思うのですが……エレオノーラさんも私という発散相手がいなければどうなってしまうのでしょうか?


 また、悪人がフルボッコにされる時代に戻りますね。

 ……まあ、善人には手を出さないであろうと、私は彼女を信じています。


 エレオノーラさんはデボラと違ってしっかりとしていますし、大丈夫でしょう。

 ガブリエルさんも、私のMをくすぐる戦闘狂でした。


 あの苛烈で危険な闘技場で、また闘士として戦いたかったです。

 彼女にも、模擬戦という名で戦闘欲を満たしていましたが……ガブリエルさんに関しては心配する必要はありませんね。


 私より強い者なんて、この世にはあふれかえっていますし……。

 私が闘技場に拉致された時も、アマゾネスの中で唯一心配してくれていたのがガブリエルさんです。


 ……まあ、最後の戦いでは本当にズタズタにされましたが。

 アマゾネスの皆さんにリンチされるのは、私の夢でした。


 その夢がかない、私としては満足です。

 アンへリタさんはよく私の肝を抜き取っていただき、その快感と苦痛は想像を絶するものでした。


 しかし、彼女が思いを寄せていたあの人というのが、女性というのは想像できませんでしたねぇ……。

 同性愛というのはなかなか理解できないのですが、姉御肌の良い人なのは知っています。


 彼女は私たちの中で、最も歳を重ねています。私が死んでも冷静でいられるでしょうから、私がいなくなった後、皆さんのことをうまく制御してくださるでしょう。

 ……生き胆は、誰から抜き取るのでしょうか?


 くっ……! 私の代わりとなる人が羨ましいです……!

 クロは……記憶も戻ったみたいなので大丈夫でしょう。


 彼女は、私のM人生を彩ってくれた欠かせないスキルを与えてくださった恩人です。

 彼女を守ることができて良かった……。


 まあ、クロが何となく黒い女性と関係があるとは思っていましたが、ご本人だとは思いませんでした。

 小さくなることって……どのようなことがあったのでしょうか?


 私のドMセンサーが反応を見せているのですが……もうダメみたいなので残念です。

 そして、ミリヤム。この子こそが、黒い女性と肩を並べて……いえ、ミリヤムの方が頭一つ抜き出て私に欠かせない存在でした。


 長い間私の危険なたびに付き合ってくれ、激痛を苛むが素晴らしい治癒速度の回復魔法を使ってくれました。

 ミリヤム、この子こそが、私のパートナーなのです。


 今まで、本当に……これは、なんとか口に出したいですね。


「……ぁ……りがとう、ございました……」


 しかし……あぁ、もう瞼が重たいですね。

 これが、死というものなのでしょうか。


 ドMである私はこの人生で一度しか味わえない死を心待ちにしており、また生きてきた中で味わってきたどの苦痛よりも素晴らしいものだと確信していました。

 しかし、何故でしょうか?


 ミリヤムが大泣きしているのを見てから、あまり心が躍らないのです。ワクワクドキドキしないのです。

 デボラに爆発されたり、エレオノーラさんとガブリエルさんにボコボコにされたり、アンへリタさんに生き胆を引き抜かれたり、ミリヤムに回復魔法をかけてもらったりするときに感じる喜びがないのです。


 いったい、何故……?

 そう考えていますと、ミリヤムの泣きじゃくった顔を思い出します。


 あぁ、なるほど、だからですか……。

 私は納得して、うっすらと笑みを浮かべます。


 ――――――死というものは、それほどいいものではありませんね。




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