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第百八十三話 大事件

 










「わー、凄いねー」

 デボラは他人事のように呟きますが、この状況でヘラヘラ笑えるのは本当に肝が据わっているなと思います。


 私も悦びでビクンビクンしてしまいそうになるのを、何とかこらえているという状況ですのに……。

 私たちは、王都に戻ってきていました。


 あれから、ツァイス家の私兵たちのように襲われるようなことはなく、無事に王城目指して歩くことができているのですが……。

 王都に戻った私たちを出迎えたのは、人々の恐ろしいまでの冷たく敵意に満ちた目だったのです。


 ……なんですか、この素晴らしき状況は。ドM神様は私にこのようなご褒美を……?


「…………ッ」

「ミリヤム、あなたのせいではありませんよ」


 心から悔やんだように顔を歪めるミリヤムに、私はそう言います。

 半魔ということが天使教に暴露されてから、確かに私たちを見る目はきつくなったのですが……以前はこれほどまでではありませんでした。


 私たちがレイ王の命令で王都を離れて、この戻ってくるまでの短い期間に、何かがあったのでしょう。


「でも……」

「確かに、ミリヤムさんに対する暗い感情もあるでしょうが……これは、それ以上の何かを感じます。少なくとも、ミリヤムさんだけのせいではありません」


 エレオノーラさんも、私と同じ意見のようです。

 ふっ……これもユリウスさんのお力でしょうか?


 やはり、彼こそが私の……。


「はぁ……ウザったいのぉ。力のない者は、数が集まれば勝てると思うておる。人間の浅はかな知恵よの」

「いやー、流石にマズイんじゃない?」

「爆発も?」

「もっとダメでしょー、王女様」


 アンヘリタさんやデボラは露骨にイライラしていそうです。

 とくに、アンヘリタさんはもともとが人間を見下していますから、このような目を向けられれば苛立ちしか感じないのでしょう。


 デボラは癇癪姫ですしね。最近は落ち着いてきたらしいですけど。

 ガブリエルさんが抑えていてくれているので、私のやるべきことは一つです。


 ドMイヤー、解放!

 これで、私に向けられる罵声や恨み言を余すことなく聞き取ることができます!


「あれは……国王の狗じゃねえか。今更何しに戻ってきやがった……」

「もう、あんな奴ら必要じゃないのにねー。あたしたちに必要なのは、レイ王でも勇者でもなくて……」

「半魔を庇って、あの暴君の使い走りだぞ? ろくでもねえ。あの人たちが来たら、殺してもら――――――」


 ……ふぅ。私の評価も順調に下がっていっているようでなによりです。

 使えるうちはちやほやされて、そうでなくなればゴミのように扱われる……ドMとしての本懐、ここに極まっていますね。


「やはり、何か起きているみたいですね。早く王城に行きましょうか」


 とりあえず、アンヘリタさんとデボラが爆発しないうちに、王城に行きましょうか。

 私は随分楽しむことができましたし。











 ◆



「準備を急げ!」

「武器は絶対に忘れるな! それが、お前たちを守ってくれる唯一の物だからな!」

「上官殿、これは……」

「よし、それも持って行け!」


 王城に戻ってきた私たちを出迎えたのは、騎士たちのそんなあわただしい声でした。

 皆、本当に忙しそうに動き回っています。


 これは、あの王都に魔物が出てきた時よりも切迫した何かを感じます。


「うわっ、何か忙しそう」


 生まれてから王城で暮らし続けていたデボラも、思わずそう呟いてしまうほどです。


「勇者殿!」

「アルフレッドさん」


 そんな時、既知のオラース派騎士であるアルフレッドさんがやってきました。

 私の顔を見て笑ったと思えば、デボラの顔を見てさらに破顔させます。


「おお、王女殿下もご無事で何よりです! 後少し帰りが遅ければ、捜索隊が向けられていたでしょうな」


 ……無事?

 アルフレッドさんは、私たちがツァイス家の私兵たちに襲われたことに関して、何か知っているのでしょうか?


「これは、どうしたんですか? 以前の時と同じ……いえ、それ以上にあわただしいように見えますが……」

「まだ、ご存じではありませんでしたか。実は……」


 アルフレッドさんは何かを話そうとして、首を横に振ってしまいました。


「いえ、これは私が言うべきことではありませんな。まずは、国王陛下にお戻りになられたことを報告なされるといい。陛下も、王女殿下のことを心配しておられましたからな」

「パパが?」


 デボラは不思議そうに首を傾げます。

 まあ、親馬鹿でなくとも、王位継承権を持つ娘が外に出ていたら心配はするでしょうが……今まで捜索隊を組もうとしていたとは聞いたことがありません。


 何か、危険なことが起きていたのでしょう。

 ……ワクワクします。


「では、私たちはそちらに行きましょう。それでは」

「ええ」


 私たちとアルフレッドさんは、そう言って別れました。











 ◆



「おお、デボラ! よくぞ無事だったなぁ! ワシは嬉しいぞ!!」

「う、うげぇぇ……っ!? ぱ、パパ、苦し……臭い……! え、エリク、助け……!」


 部屋に入ったとたん、レイ王に強く抱きしめられてデボラが悲鳴を上げます。

 私に手を差し伸べますが……。


「何か、怖い思いはしなかったか!? ワシに教えてくれ、デボラ!!」

「……げふっ」


 ガクリと腕を垂れ下げました。

 身代わりになりたいですねぇ……。


 レイ王はデボラから聞き出そうとしますが、彼女はすでに落ちてしまっているため、エレオノーラさんが代わりに話すことになりました。


「……王都へ戻ってくる途中、ツァイス家の私兵たちに襲われました」

「なん……だと……!?」


 愕然と目と口を開けるレイ王。

 次の瞬間には、大切な愛娘が危機にさらされたということで、鬼のような形相になっていました。


「あの『救国の手(ノットファル)』に与した薄汚い貴族め……! 一族郎党皆殺しにしてくれるわ……!!」

「あの……何があったか、教えていただいても?」


 レイ王が怒り狂っているので、何があったのか聞ける状況ではありません。

 そこで、同じ部屋にいた王族の良心たるオラース王子に、問いかけました。


「ああ……今、ヴィレムセ王国を揺るがすような大事件が起きている」


 オラース王子も非常に憂慮しているようで、深刻な顔をしています。

 大事件と聞いて、私は喉を鳴らして待ちます。


「――――――反乱だ」


 素晴らしい……。



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